暗黒大陸じゃがたら、小沢健二、スマーフ男組。
いずれもブラックミュージックをミュージック・フリークのマインドではなく、日本人としてカウンターに成功した数少ないアーティストだ。
つまり日本の日常にあるイントネーションを、違和感なく黒いグルーヴに落とし込んだということ。
日常はいつだって散らかっていて、どこかに自由を求めている。
そして新たにそんなフィーリングの、素晴らしい音楽を見つけた。
『片想い』の1stアルバム『片想インダハウス』だ。
いきなり前のめりの演説で度肝を抜く『管によせて』。
サム・クック、シュガーベイブ、De la soulなど敬愛するアーティストたちへ「オーリトーリ!」とラブコールを送る。調べたら石垣島の方言で「いらっしゃいませ」という意味らしいが、調べなくてもニュアンスが伝わる力強さが不思議だ。
ただならないパワーが初めて再生したこのアルバムを、最後まで聴こうと思わせた。
5曲目の『踊る理由』は、バンドが世に知られるきっかけになった7inchシングルだ。
「きのうよりもっと 唄う鳥も」の瑞々しく新鮮に響くコーラスと、スカスカのトラックに乗る軽快なラップのコントラストは、絶妙な散らかり具合と自由さで溢れている。
散文的でどこか物悲しいリリックだけど跳ねるリズムが中和して踊れるという、ブラックミュージックの肝を捉えた構造になっている。
人気があるのが頷ける、バンドのテーマとして存在感のある楽曲だ。
驚くのはここから、アルバム中盤の7曲目『ひかりの中からこんにちは』からラストの『国境』までだ。
ガラリと方向性が変わり、小学校の合唱曲のようなイノセントなメロディと歌詞、ソウル・ミュージックというよりは楽隊に近い演奏が続く。
恐らくレコードのB面という意識で構成したと思われる。
それでもスッと入れるのは、的確に引き算するバンドのアレンジ力と、そしてなにより片岡シンの歌声だ。
なぜだろう。
聴けば聴くほど、どうしても三波春夫と渥美清が浮かんできてしまう。
「才能」でしか片付けることのできない、強烈な浮力と日本の郷愁がある。
三波春夫と言えば『お客様は神様です』。
そういえば、その言葉の意味合いを本人はこんなふうに解説していた。
歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払ってまっさらな、澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできないと思っております。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです。
『片想インダハウス』はポップだ。
ここでいうポップは、売れやすい曲というねじ曲がった意味ではない。
小沢健二『天使たちのシーン』
ルイ・アームストロング『What a wonderful world』
The Millennium『There Is Nothing More to Say』
これらと同じ、祈り、日常を肯定する生命賛歌だ。