ハルカトミユキのメジャーデビューにして1stフルアルバムです。
全12曲中7曲が、このアルバムの為に書き下ろされた新曲となっています。
これまで音源化されていなかった「消しゴム」「マネキン」「Hate you」が改めてレコーディングされ
「ドライアイス」「Vanilla」は、EPからのmaster cutとなっています。
その他にもライブでのみ発表されている曲や、デモ版にのみ収録されている曲なども存在しますが
「今のハルカトミユキを表現したい」との意向でこの構成になったようです。
初ワンマン・ライブを収めたDVDは公式から。
封入されている音楽ジャーナリスト・宇野維正さんによるライナーノーツは、“共闘を呼びかけないレジスタンス”としてのハルカトミユキ、
その“音楽的に豊潤な”系譜を踏まえ、これが日本の音楽シーンに放たれる意味にまで至る、解説を超えた文章で、
この「CDアルバム」の重要な構成要素になっていると感じました。
純化を極めるアコースティックと、豊かなサポートミュージシャンによるバンドサウンドを兼ね備えたハルカトミユキの1stアルバム。
「熊谷昭、安原兵衛、中畑大樹、佐藤亮、梨本恒平らインディーズ時代からの名うてのスタッフに加え、
畑利樹、平間幹央、BOBO、三浦淳悟、平沼浩司、渡部高士をはじめとする日本のロック/オルタナティブシーンの猛者たちが
新たに加わった」(ライナーノーツより)ことで、旋律は美の必然を掴み、音が破壊の偶然をもたらし、律動で命の条件を刻むような
音楽的快感を堪能しました。
そして改めて自分がハルカトミユキに撃ち抜かれた理由を考え、より深くこの疼きを掘り下げたいと感じるアルバムでした。
ハルカトミユキは、感情による制圧者の側に回らない。
狂熱の連帯に期待せず、押し倒されたがる心をも突き放し、ただ一人立つ者へと歌いかける。
虚勢を張らずに啖呵を切り、恨みを連ねず怒りに刺しても、落ちゆく絶望は歌っていない。
「何もかも終わって」しまった後の言葉があり、これから始まる音がある。
歌詞は意図から解き放たれ、聴き手の心で意味を結ぶように開かれています。
そして現実を見くびらず、真実も貶めず、謙虚なまでに聴き手への信頼があります。
痛まない傷口から、血糊を浴びせる真似もしていません。
だからこそ刺される事がわかっていても、武装を解いて聴く事が出来るのだと思いました。
繰り返される過ちでは微塵も揺るがない真実が、一つの嘘を受け入れ続ける事で
根こそぎ失われるような、圧縮した空間で起こる爆発。
その中で囁く歌声も、呻く嘆きも、予感の静謐も、感情の抑制ではなく、爆発と圧縮の、作用と反作用の、拮抗の表れなのだと感じます。
歌われない歌が、表明しえない言葉が、ヤスリとなって怒りを研ぎ澄ますのだと。
「ああ待ってたのに もう何もかも終わってしまって 少しずつ諦めて、一人で帰る」
そうはならなかった。そうはできなかった。それを信じる事は、もう、ないだろう。
前に進むために、最も幸福だった想い出を捨て去るしかないとしても、
額に押し付けられた壁が、崩せないことを確信してしまった者にも、届きうる音楽だと思います。
「見えなくなった それでも歩いた たった一つの約束だから なかったことになってく全ての悲しみを抱えてゆく」