ロンドン出身のシンガー兼エレクトロニック・プロデューサー,Sohn(ソン)。
アンビエント・ミュージックのような静謐で奥行きを感じさせるキーボードや,一見チープながらもフューチャリスティックなシンセ。無機質なビート。悲痛なまでに透明感のあるハイトーン・ヴォーカル。ジャケット写真そのままの,厳しく孤高であるが故に美しい絶景を思わせるサウンドが淡々と進んでいきます。
序盤の2曲は個人的にはちょっと違和感があったのですが,3曲目。硬質で無機質なビートに,スピリットを感じさせる情熱的なギター&シンセ,そして繊細ながらも鋭いハイトーン・ヴォイスが絡む「Artifice」のスリリングな展開に目が覚めました。そして,ここからがアルバムの佳境。
「Bloodflows」は,エコーを効かせたヴォーカルと,シンプルだが静謐なシンセが深遠な雰囲気を醸し出しているスローで幕を開け,ノイジーなアップテンポのテクノへ転調していきます。その高揚感がたまりません。「Ransom Notes」は,流麗なアルペジオ・ギターと北風のような寒々としたコーラスが織り成す荒涼とした雰囲気が印象的です。淡々とメロディーを紡ぎながらも悲しげなピアノに内省的な歌声が胸を打つ「Paralysed」や,最初は深々と降る雪のように静かなシンセが,やがて吹雪のように激しく押し寄せてくるノイジーなで悲壮感漂うサウンドへと高まる「Fool」,冬空のような沈鬱なシンセに物憂げな歌声と,足早なビートが対照的で印象的な「Lights」もイイですね。
終盤では,無機質で足早なシンセと冷ややかな歌声が虚無的で孤高を感じさせる「Lessons」が秀逸でしょうか。
万人受けはしないかもしれませんが,エレクトロニックを極めつつ,情感あふれる独創的なサウンドに心を強く揺さぶられるアルバムでした。