本作をかいつまんで言えば・・・・
ドイツのハンブルクにふらりと現れた謎の若者イッサを、イスラムの過激派かも知れないと感じつつも、地元ドイツの慈善団体の女性弁護士アナベル・リヒターやプライベートバンク経営者トミー・ブルー、諜報部員ギュンター・バッハマン等のドイツ側の人たちが何とかしてあげようと奮闘する。しかし、9.11以降の「テロとの戦い」という大義名分のもとに米 (CIA) およびイギリスの諜報部が、かなり強引に乗り込んできて・・・・という内容。
イスラムテロ vs 資本主義諸国という構図は『ピルグリム』(テリー・ヘイズ) や『スパイは泳ぎつづける』(ヨアキム・ザンデル) に近いものがあります。ただし、イスラム側からやってきた謎の若者が意外に善良な人物であるという点で『スパイは泳ぎつづける』のほうが本作『誰よりも狙われた男』により近いようです。
スパイ小説の巨匠 ル・カレ 77歳の作品ですが、例によって各キャラクターの人物造形がしっかりしており、ウイットに富んだ文体と巧みなストーリー展開で、読み手をグイグイ引っ張ってゆく手腕は全く衰えを見せていません。本作は2014年に映画化され、映画版も高い評価を得たようです。
本作にはもちろんミステリー的要素もあります。北ドイツの大都会ハンブルクにふらりと現れた若者イッサが、まずもって謎です。もちろん彼の素性も次第々々に明らかになってはゆくんですが〈台風の目〉的な存在であることは最後まで変わりません。
そして、弁護士アナベルや銀行家ブルー、諜報関係者バッハマン等々おおぜいの人々が謎の若者イッサをめぐって、人権擁護 & 覇権争い & 争奪戦を繰り広げるあたりは、巨匠ル・カレの面目躍如です。
私は2015年につづいて8年ぶり2度目の読了でしたが、最後の最後まで飽きさせませんでした。
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誰よりも狙われた男 Kindle版
大型映画化。スパイ小説の巨匠が描くテロとの戦いの苛烈な諜報戦。一人の若者がドイツに密入国した時、女性弁護士、銀行経営者、そして諜報員たちの運命が大きく変わる! ドイツのハンブルクにやって来た痩せぎすの若者。彼はイッサという名前で、トルコ人の家に滞在することになる。イッサは体じゅうに傷跡があり、密入国していた。そんな折、銀行の経営者トミー・ブルーのもとに、一人の女性から電話がかかってきて、会うことになる。彼女の名前はアナベル・リヒター、慈善団体の弁護士だった。彼女は、依頼人のイッサがあなたに救ってもらえると思っていると言った。その後ブルーは自分の銀行に、ある人物の秘密口座が存在することを知る。 その頃、ドイツの諜報界はイッサを追っていた。イッサはチェチェン出身の過激派として国際指名手配されていたのだ。ドイツの諜報界が主導権争いに揺れ、英米情報部が介入してくる中、練達のスパイ、バッハマンは、イッサに迫っていく。そして、命を懸けてイッサを救おうとするアナベルと、彼女に魅かれ始めたブルーも、その暗闘の中に巻き込まれていく。
- 言語日本語
- 出版社早川書房
- 発売日2013/12/5
- ファイルサイズ705 KB
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商品の説明
著者について
1931年イギリスのドーセット州生まれ。オックスフォード大学卒業後、イートン校で教鞭をとる。その後、英国情報部の一員となり、旧西ドイツのボンにイギリス大使館の二等書記官として赴任。さらにハンブルクで領事を務めた。1961年『死者にかかってきた電話』で小説家デビュー。1963年の『寒い国から帰ってきたスパイ』でアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞最優秀長篇賞と英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞を受賞した。『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(1974年)、『スクールボーイ閣下』(1977年・CWA賞ゴールド・ダガー賞受賞)、『スマイリーと仲間たち』(1979年)の三部作はスパイ小説の傑作と評されている。1984年にはMWA賞の、1988年にはCWA賞の巨匠賞に輝いた。
登録情報
- ASIN : B00IIY0LK4
- 出版社 : 早川書房 (2013/12/5)
- 発売日 : 2013/12/5
- 言語 : 日本語
- ファイルサイズ : 705 KB
- Text-to-Speech(テキスト読み上げ機能) : 有効
- X-Ray : 有効
- Word Wise : 有効にされていません
- 付箋メモ : Kindle Scribeで
- 本の長さ : 434ページ
- Amazon 売れ筋ランキング: - 279,692位Kindleストア (Kindleストアの売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年6月4日に日本でレビュー済み
2020年8月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
評者は、ル・カレのスマイリー・シリーズまでほとんどの作品を読み終え、最近、本書と同じテロをテーマにした『繊細な真実』(2013年)を読んだばかりである。
読んでいなかった本作『誰よりも狙われた男』(2008年)を、遅まきながら入手して読むことにした。
ル・カレは、『繊細な真実』とは少し内容を変えて本作ではイスラム過激派のテロリストを捜査することをテーマにしている。
2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルへハイジャック機が突入してビルが崩壊したテロ後、マドリード列車爆破テロ事件(2004年)、イギリスの首都ロンドンにおいて地下鉄の3か所がほぼ同時に、その約1時間後にバスが爆破され、56人が死亡したテロ事件(2005年)と続き世界を震撼させた。
9・11テロの実行犯であった首謀者モハメド・アタを中心とするイスラム過激派グループは、本書の舞台であるドイツのハンブルグに拠点をもって計画を練ってアメリカへ行ってこのテロを行ったのである。
この小説の主人公ともいえるドイツ連邦憲法擁護庁外資買収課のベテラン捜査官ギュンター・バッハマンは、このイスラム過激派グループがハンブルグを拠点にしていてドイツの都市ではこのようなテロを行っていないことと、なぜ彼ら過激派を事前に探知できなかったのかと忸怩たる思いを持っていた。
巨額なブラックマネーの相続者としてハンブルグに逃亡してきたイッサという若者から物語は始まるが、このブラックマネーを預かる銀行主トミー・ブルー、そしてイッサを助ける弁護士のアナベル・リヒターたちを交錯してストーリーは展開してゆく。
このブラックマネーを餌にしてイスラム過激派の影の主導者ファイサル・アブドゥラ(イスラム学者)を拘束し利用しようと画策するギュンター・バッハマンに、イギリスMI6、そして何故か知らぬ間にアメリカのCIAまでも首を突っ込んでくる。
9・11の悪夢から過激派狩りに暴走していたアメリカらしい結末であっけなくこの物語を終えている。
バッハマンとアナベル、そしてトミー・ブルーの心中いかばかりかと、読者に思わせながらル・カレらしいいエンディングではあった。
が、昨年読んだ『地下道の鳩―ジョン・ル・カレ回想録』(2016年)が抜群に面白かったので本作にたいして残念ながらル・カレにしては出来の良くない作品だと評価(星3)してしまいました。
読んでいなかった本作『誰よりも狙われた男』(2008年)を、遅まきながら入手して読むことにした。
ル・カレは、『繊細な真実』とは少し内容を変えて本作ではイスラム過激派のテロリストを捜査することをテーマにしている。
2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルへハイジャック機が突入してビルが崩壊したテロ後、マドリード列車爆破テロ事件(2004年)、イギリスの首都ロンドンにおいて地下鉄の3か所がほぼ同時に、その約1時間後にバスが爆破され、56人が死亡したテロ事件(2005年)と続き世界を震撼させた。
9・11テロの実行犯であった首謀者モハメド・アタを中心とするイスラム過激派グループは、本書の舞台であるドイツのハンブルグに拠点をもって計画を練ってアメリカへ行ってこのテロを行ったのである。
この小説の主人公ともいえるドイツ連邦憲法擁護庁外資買収課のベテラン捜査官ギュンター・バッハマンは、このイスラム過激派グループがハンブルグを拠点にしていてドイツの都市ではこのようなテロを行っていないことと、なぜ彼ら過激派を事前に探知できなかったのかと忸怩たる思いを持っていた。
巨額なブラックマネーの相続者としてハンブルグに逃亡してきたイッサという若者から物語は始まるが、このブラックマネーを預かる銀行主トミー・ブルー、そしてイッサを助ける弁護士のアナベル・リヒターたちを交錯してストーリーは展開してゆく。
このブラックマネーを餌にしてイスラム過激派の影の主導者ファイサル・アブドゥラ(イスラム学者)を拘束し利用しようと画策するギュンター・バッハマンに、イギリスMI6、そして何故か知らぬ間にアメリカのCIAまでも首を突っ込んでくる。
9・11の悪夢から過激派狩りに暴走していたアメリカらしい結末であっけなくこの物語を終えている。
バッハマンとアナベル、そしてトミー・ブルーの心中いかばかりかと、読者に思わせながらル・カレらしいいエンディングではあった。
が、昨年読んだ『地下道の鳩―ジョン・ル・カレ回想録』(2016年)が抜群に面白かったので本作にたいして残念ながらル・カレにしては出来の良くない作品だと評価(星3)してしまいました。
2014年6月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ある日みすぼらしい青年がハンブルグにたどり着く。彼はトルコ人一家にかくまわれた後、ドイツの女性弁護士アナベルの信念と正義心のおかげで、父が莫大な金を預けているという英国系銀行の頭取トミー・ブルーに会うことが出来る。この青年イッサの目的は一つ、この金を世界の抑圧された民族の為に使うことであり、仲介として、ドクトル・アブドラを使おうとする。しかし、イッサはチェチェンの過激派として指名手配されている。ドイツの諜報組織だけでなく、英国、そして直接利害関係者のいないと思われる米国の諜報組織が本件に絡んでくる。この金自身が結構汚い金であり、また仲介するドクトル・アブドラも「95%は正しいことをしているが、5%は分からない」という人間だ。3カ国の諜報部隊は、このアブドラとイッサを逮捕したいと躍起になる。「サラマンダーは炎の中に」でイラクを攻撃するために、無理やり大義を作り上げる米国のネオコンを強くj糾弾したルカレだが、今回のラスト30ページの急展開においても抑圧される中東やチェチェンの人たちへのルカレの同情と愛情があふれ、またまた米国への激しい怒りが彷彿するものとなる。相変わらず、結末は読者に迎合することのないものとなっている。まるで最後のページに「続く」という言葉が出てもおかしくないような結末でもある。既に映画化されているらしいが、果たして映画ではどのような結末にしているのだろうかと思ってしまう。いい意味では読後感たっぷりなのではあるが。
2014年2月3日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ル・カレの作品の中では比較的短めで、展開も文章もわかりやすいエンターテイメント。
人物も魅力的な善人が多く登場し、特にドイツのスパイたちは、かつてル・カレのスパイ小説を彩った往年のメンバーたちを彷彿とさせる。
舞台もドイツのハンブルグということで、70年代の冷戦時代のノスタルジックな雰囲気を醸し出していて嬉しい。
が、相変わらずスパイ同士の会談は息もつかせぬほどスリリングで、物語の後半に進むに従ってページを繰る手を休ませない。
クライマックスは「寒い国からきたスパイ」に似て、いつもながら一筋縄にはいかないほろ苦さとシニカルさに満ちている。
今回のテーマは、大国が掲げる「テロとの戦い」という疑心暗鬼の暴走が、無実の人々とその良心を蹂躙していく様をリアルに描くことにある。
主人公たちの出自や葛藤は、非常に今日的でドキュメンタリーのように説得力があった。
今年公開の映画では銀行家が私の好きなウィレム・デフォー、ドイツのスパイを先頃亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンが演じており、監督はアイルランドのバンドU2の写真やヴィデオでおなじみのアントン・コービンだという。1日でも早く日本で公開されることを願っている。
人物も魅力的な善人が多く登場し、特にドイツのスパイたちは、かつてル・カレのスパイ小説を彩った往年のメンバーたちを彷彿とさせる。
舞台もドイツのハンブルグということで、70年代の冷戦時代のノスタルジックな雰囲気を醸し出していて嬉しい。
が、相変わらずスパイ同士の会談は息もつかせぬほどスリリングで、物語の後半に進むに従ってページを繰る手を休ませない。
クライマックスは「寒い国からきたスパイ」に似て、いつもながら一筋縄にはいかないほろ苦さとシニカルさに満ちている。
今回のテーマは、大国が掲げる「テロとの戦い」という疑心暗鬼の暴走が、無実の人々とその良心を蹂躙していく様をリアルに描くことにある。
主人公たちの出自や葛藤は、非常に今日的でドキュメンタリーのように説得力があった。
今年公開の映画では銀行家が私の好きなウィレム・デフォー、ドイツのスパイを先頃亡くなったフィリップ・シーモア・ホフマンが演じており、監督はアイルランドのバンドU2の写真やヴィデオでおなじみのアントン・コービンだという。1日でも早く日本で公開されることを願っている。
2014年3月11日に日本でレビュー済み
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ジョンルカレ 偉大な作家
大きな力に取り込まれていく様子が辛かった。
ハッピーエンドが好きな人には向かないかな。
フィリップシーモアホフマンの映画を楽しみにしています。
大きな力に取り込まれていく様子が辛かった。
ハッピーエンドが好きな人には向かないかな。
フィリップシーモアホフマンの映画を楽しみにしています。
2018年2月28日に日本でレビュー済み
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ルカレの作品とのことで読んでみました。
全くの期待外れで面白くもなく、きつい言い方になるが、時間の無駄でした。
ルカの作品は初期、寒い国から帰ってきたスパイからずっと読んできましたが、リトルドラマーガールから少し作風が変わったように思います。
冷戦時代の物語は非常に面白いものでしたが、冷戦以降の物語はもう一つといったところでしょうか。
この作品も狙われた男がどれほどの価値のある男なのかはっきりせず、ましてやテロリストでもなく、それほど問題にする男なのでしょうか。
また、弁護士の登場も、わからない。最後の結末に至っては、あまりにもお粗末です。
初期のころの作品、とくにソビエト(ロシア)とのスパイ活動、戦いにおいては非常に素晴らしい作品が多くありますが、もうルは力量がなくなったのではと思います。
全くの期待外れで面白くもなく、きつい言い方になるが、時間の無駄でした。
ルカの作品は初期、寒い国から帰ってきたスパイからずっと読んできましたが、リトルドラマーガールから少し作風が変わったように思います。
冷戦時代の物語は非常に面白いものでしたが、冷戦以降の物語はもう一つといったところでしょうか。
この作品も狙われた男がどれほどの価値のある男なのかはっきりせず、ましてやテロリストでもなく、それほど問題にする男なのでしょうか。
また、弁護士の登場も、わからない。最後の結末に至っては、あまりにもお粗末です。
初期のころの作品、とくにソビエト(ロシア)とのスパイ活動、戦いにおいては非常に素晴らしい作品が多くありますが、もうルは力量がなくなったのではと思います。
2016年11月13日に日本でレビュー済み
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イアン フレミング全盛の頃、”寒い国から”を読んで全く違った世界が凄く面白かった。
それ以来のファンですが、読んでる自分が歳取ったと言う事でしょうか?
それ以来のファンですが、読んでる自分が歳取ったと言う事でしょうか?
2014年9月22日に日本でレビュー済み
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登場人物の名前がいっぱい出てくるので混乱する。同じ人物が複数の呼び名で書かれるのでますますややこしい。昔のロシアの小説を読んでいるみたいだ。とにかくプロットが次から次へと方向変換する。その中でも主要な登場人物の造型は一貫している。複雑なマネーの動きやイスラムの深淵がさりげなく披露される。読むのには多少のエネルギーが要るが傑作だ。