この作品は、数々のジャズ作品に参加し、また70年代からリーダーアルバムも出し続けてきたパスコアルが
90年代に入ってからリリースした作品であり、入魂の全16曲62分の力作となっています。
最近、ユニバーサルとボンバレコードから続々、過去のパスコアル作品もリリースされており、聴き逃していた作品が
一気に低価格で手に入れやすくなったことは、全ての音楽ファンにとって非常に幸いなことだと言えます。
エルメート・パスコアルは、ブラジルの鬼才は誰かといった時、その筆頭として、必ずその名が挙がってくる一人でしょう。
その異形な風貌と合わせて、非常に実験的でとっつきにくい音楽と思っている方も多いかもしれませんが、
パスコアルの生み出す音はただ実験的とか複雑怪奇とかそういう要素を越えていく美しさも兼ね備えている点が
最大の魅力で、ブラジル音楽の肝ともされるサウダージ感覚も確かに息づいているのです。
ただ一筋縄ではいかないというのも確かであり、本作でも解説に「音のサーカス」とも
あるように、人や鳥や豚の声を音階に当てはめて曲を作ってしまったりと、まさに常人ではやらないようなアイデアの坩堝と
化しており、その鬼才ぶりを余すことなく発揮しております。
これを初めて聴いた後に、自分が次に聴くレコードとして選んだのはキャプテン・ビーフハートの「トラウト・マスク・レプリカ」
でした。フランク・ザッパがプロデュースしたこれまた稀代の変態レコードですが、確かにそことも通じる実験精神が、
本作にも同質に宿っていると感じます。
その一方で、また別の気分の時には、そのリリカルな音楽性に惹かれ、例えば70年代のスティーヴ・キューン作品などをも
聴きたくさせるのが、パスコアルの守備範囲の広さであり、凄いところです。
そういう意味でも、「神々の祭り」のタイトル通り、ここでは八百万の神々たちが奏でる音があらゆる表情を見せているわけで、
今作は混沌としながらも実は相互に影響し合っているという、この宇宙の摂理そのものを描ききった作品と言えるのかもしれません。