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フィッシュマンズの「空中キャンプ」が好きな人は豊田道倫(アルバム「東京の恋人Live」「Fuckin' Great View」「mtv」や曲「明るい夜」、ひき語り3枚組「Sing A Song 2」のCD II 等)、PARADISE GARAGE (「ROCK'N'ROLL 1500」等)も聞いた方がいいと思います。
好きな女の子が神戸震災で倒壊したアパートの部屋の中で死に、その後別の好きだった女性とは結ばれず彼女も自殺し、韓国人写真家の妻と離婚もし、レコードを巡っても4回も成功への機会を目の前にしながらも挫折している。親との葛藤まである。( --- ブログ、本などいろいろ読むとどうもこのようです。)
しかし彼はくじけなかった。アルバイトしながら、ひとり親として東京の空の下ふたりで暮らす小さな息子を育て、CDを出し、ライブハウスやカフェや小劇場で歌い続けた。
地を這ってでも曲を作って歌い続けている豊田さんの馬鹿なほど純朴な点を褒めてあげたいです。
彼はまだ生きている。死んでしまってから神話的に持ち上げるのでは遅いです。生きている人を聞かないでどうするの。
この「Sing A Song 2」について
弾き語り曲のみ40曲なので各曲がそれぞれ立ち上がってくるまで聞き込みました。毎日3時間くらい、のべ1月ほど。聴き取れない歌詞は歌詞カードを見ながら聴き直してみた。3CDとも中味は詰まっており少し毛色の異なる3枚の「ギター」(2009年)がセットになったような作品。3CDという広いスペースで歌いたいこと、歌う必要があることが十分に歌いまくられている。いつも以上に本音度、純度が高い気もするがはたしてどうか。ほとんど水に近いほど純度がある感じである。涙が出すぎてやがて塩気が抜けて水のようになっている感じである。
人生の一シーン一シーンが次々と唄われては消えていきます。
ちょうど灯籠流しの灯篭が一個ずつ流れていくのを見ているような感じのたいへん美しいアルバムです。
3CDですが一枚あたりは50分くらいとわりと短いため想像よりは聞き通しやすい。
DISC I
01 弱いカップル
だんだんよくなってくる曲。意外に中身がある。自分の弱さを感じとる微妙な出来事についての歌。感じることは誰にもあるだろうが、これを歌にして歌おうという意思・感性はなかなか他の人には出てこないものであり鋭敏だと言える。たぶん加地等の音楽に近いタイプの曲なのだろう。 2010-06-23 のブログで「次のEPの表題曲に回そうかなとちょっと思ってた「弱いカップル」も面白いかもしれない。 」とある。
02 行きずりの街から
「バイブル」の曲群に近い。よい。過去/喪失/今の暮らし/夢/今一緒にいる人、といったものが意識の前を通り過ぎていく感覚を歌ったもの。 底で見たもの歌。
03 m t b
時代の経過と息子のことを歌っている、区役所でもらった書類とはこどもとの結びつきが一段遠くなるような手続きか何かの書類なのだろうか。大事な事を歌っているようだ。この曲もよい。 息子歌。
04 パンとコーヒー
暮らしている部屋の明け方の時間帯の空気感と心情の歌 ゴミ出しの準備 短いが鮮明な映画的なスケッチ。「バイブル」の頃の歌声
05 軽トラ・トラ
ヤフオクの4万円の軽トラに全財産をのせて家族で旅して生きていったらどうかなという歌。辛さも淡くなって透明感がある状態になっている。この境地がこの人には頻繁にあり、よいのである。あまり絡みついてこないところが。私もカフェで隣の席に座っている豊田さんの呼吸を聞いているだけだ。
この3枚組も一日で録音されたようで無理なのか、この曲は声がつっかかり気味。のびていない。
06 501
死んだミュージシャン仲間 (BUNではなく、加地等)のこと 時の流れの中で消え姿が沈んで行く友達への愛惜の念が強い後ろのメロがいい 筆者も経験したが、今回先だったのは友達だったけど(自分が先に死んでいたかもしれない)
07 39度6分
息子歌 時の流れの後でも絶望しないでいられるようにこれから一生懸命人生を生きて経験して下さい、と2010/3/16に39度6分の高熱を出した息子に言う歌 ブログによると2010/3/19にできたそう。
08 29000円
ここからひとりひとりそれぞれ具体的な過去に知りあった女の子たちの歌が多くなっていく。
この曲はちょっとだけ自分用に抜いて残りのお金は男に渡して「それでいいの」と言っている風俗嬢の心についての歌 「私は不幸ではない 私は幸せではない だけどいいの」というのは実際の子の正確な気持ちなんだろうな 「仕事」、「散歩道」の女の子の歌だろうか ちがってたらすみません
09 後悔
「電話で父親が急死したの、借金もあるし 11年前ちょっと僕の部屋にいた 最後に会った時ホテルでセックスはいややという君の乳首を噛んで自分で果てた」 (「雨のラブホテル」の女の子か。これもどうも美佐子歌らしい)、「11年前君を自転車に乗せて走った街から遠くないところに僕はひとりで暮らしている 僕は大阪に帰れないだけ 僕は東京で遊んでるだけ」 正直な気持ちが流れ出て行くのを聞いているとだんだん泣けてくる 今はそういうものが少なくなったから 旅行で外国の人の囲まれてただ無性に涙が出てくるのもそういうことです
10 10年ぶりにさようなら
「仲良くしてた女の子 ホテルに泊めて御礼に抱かせてくれた 死んだ友だちのこと(Bunらしい)話した 御礼に泣かせてくれた」 真情歌 「幻の水族館」single versionよりシンプル たぶんたよこ歌
11 暮らしているよ
息子歌 NHKの「みんなのうた」の一曲になってもいい感じである しみじみいい歌である。 このまますぐ「39度6分」に繋いでもいけそう。豊田さんの心は暗いようで実は明るい。弱いようで実は強い。本質的には半分は健全な人だと思う。育ちがいいのかな。
12 元気だよ
ゆきちゃん 赤ちゃんできたかな 最後のオチが笑わせる 純愛の人ではあるが、その気持ちは同時に多方向の女たちにも向かうので、世間の人たちはとまどう 2010-06-26 に仕上がった曲とのこと
13 洗剤を買う時の気持ちはどう言えばいいのだろう
2009/7/28作 生活歌
14 2011
美佐子歌 詩的な仕上がり。傑作。映画のよう。 「ガソリンスタンドの女の子、死んだ美佐子に似ていた、もしあいつと結婚していたら 別れた妻とこどもの笑った写真詰まった携帯をどこかに投げ捨て走る 夜が明けてもあてもなく 声を失った鳥が嘴を必死に動かしていた 死なない死なない死なないで 安っすい酒場でカキを食べながら飲んでいる わからない世界が聞こえてくる わからない心が聞こえてくる わからない愛に抱かれていく」 過去が人生が魂が疾走していく曲。 single「幻の水族館」に別 version[工藤冬里のピアノ入りLIVE]が収録されている
DISC II
死んだ女たちの歌らしいものがこのDISC IIに集まっている このDISC IIが本作のいちばん中心部分と考えていいのではなかろうか うまくいかないのを嘆く曲が多い 歌詞が聞き取れず歌詞カードを見ないとわからない歌が多いDISC
01 ハーバーライト
踊り子の街から近い港に最終電車で来た歌 神戸の子歌なのかもしれない
02 SEA MAN
神戸の子歌か美沙子歌どちらかか
03 さようなら、おはよう
RR1500/奇跡の頃のよう (別パートか曲後半が欲しい) 真白いところへ歌
04 ゴミさま
底で見たもの歌。2009/7/20のブログ 何だかこのまま部屋で腐って死んでしまうのかなあなんて思うくらい、気持ちが荒涼としてしまった。 もしかすると「ゴミ summer」なのかも。
05 もりのねこ
アイスクリーム落として泣いている黄色い髪の外人の女の子 図書館で読んだもりのねこの絵本 何かが含まれている歌だが(東京の暮らしの悲しさかな)
06 11年の夏
「早朝、女子アナの乳房～」でも出てきたあの波打ち際のシーン? 美沙子歌か
07 ミルキーソング
おそらく美沙子歌 どうしてすべてがこんなにうまくいかないの
08 大海原
w 豚バラとかけているのかもしれない
09 串カツ、食べるか
高熱を出した息子への思い ある意味父親として幸せなんだと思う 母親の役目まで果たしているのだから結びつきは普通の父親よりある 息子歌
10 忘れたbaby
忘れて、忘れてと繰り返される 多義的 忘れて～した/忘れてと女に頼まれたときの女のセリフ/忘れてしまった など。
11 サマー
「さっきまでぼくは眠ってた さっきまでぼくは夢みてた さっきまでぼくは泣いていた」 最後の方で主語がぼくとわたしと交互になる ある女との歌だが、もしかするとそうあってほしかった(神戸の子か美沙子と海へ行って愛し合いたかった)という歌かもしれない 曲は爽やかコード
12 素朴なあの子
「素朴ではない女の子は彼氏となかなか別れてくれない」 もしかすると美沙子か神戸の子歌
13 グッバイ大阪
「夢見がちなおまえは 夜の街と音楽のこと考えていた」
14 月の下、池のそば
聴き込むと傑作とわかる 非常に象徴的な表現になっている 月とは何か 大事なもので自分に近似の存在で自分のそばに置いておくもの 「さよならと引き換えに手に入れたともだち」と歌われている 池のそばにいるぼっちゃんとは自分のことらしい ぽっちゃんと「落ちる」 「池のそばで一緒にぽっちゃん」と落ちる。 月は歌ってくれてそれを「ぼく」は聞く 大切な真実が聞こえた 月とは息子のことと見る可能性もあるらしい 最後に「君」というものが出てくる 「月の光 見えなくなって 君もやっぱりどっかに行って それでもやっぱり探しに行く 池のそばでひとりぽっちゃん」 大切な月も君(たぶん妻とは別の恋人かな)もいなくなって、ひとりになってしまうのだが、それでもやっぱり息子や新しい恋人を探しに行く、ということだろうか? だがひとりになって池のそばで落ちる。
何かしら大切なものがこの歌には隠れていることは確かである。 激しく求めるのだが、落ちていき、一緒にいた人がいなくなってしまい、探すのだが、ひとりになってひとり落ちることになる、という悪い夢のような、不安が歌になって現れた曲なのかもしれない。 リピートで聴いていてこちらもだんだん心も揺さぶられ涙が出てしまうような曲である。一種俳句的な楽曲であるかもしれない。
DISC III
01 結婚の理由
本当の気持ちが綴られている
02 ワークソング
職場の風景
03 私のコーヒー
別れそうになっている女の心理のワンシーン 2011/10/22までには出来
04 ライオンとカレー
結婚生活のワンシーン キッチンのゴキブリ
05 FGV
ここから3連続で粗い曲。 誰かに激しく怒っている曲 「おまえのアソコ、忘れるな。」
06 覚醒剤
「ああ 旅に出てないのに 遠くに来たよな」 ちょっと尾崎豊的
07 おっさん＆おばはんイリュージョン
www 「フリッパーズギターを聴きながら帰った クラプトンを聴きながら帰った 新しいセックスがしたいだけ」
08 愛とは
息子歌のようだ 最後にRR1500/奇跡の頃のような叫び
09 幻と名付けたんだ
歌唱は不安定 底で見たもの歌 幻と名付けたものは何なのだろう 元・妻のことか。成功の夢のことか。自分の存在のことか。苦しい暮らしの中の息子の存在ないし自分の息子への親としての愛情のことか。そうした状況全体のことか。 泣きに移行する直前のうめきのような歌
10 飲みくらべ
嬉しそう PVではたよこさんと一緒に飲んでいる たよこ歌らしい
11 マーマレイドの街
詩的な歌 老いた自分想像歌 「人体実験」の頃の歌に近い感じの曲
12 新開地
ラストの曲 結論というか態度なのか。これからも続く彼の生き方。これも一種老いた自分想像歌なんだろうかと考えたら、さすらいのギター歌手である彼の人生の決意・選択と考えたら、塩辛いが抒情があってなかなかの味わい。ラストの、というか次作へと続く曲としてふさわしいのだろう。真情歌でもある。
「遊び～」というのは父親に言われた言葉なのかもしれない。
豊田道倫は自分に向けて歌っているのである。独り言といっていい。それを周りでファンは聞かせてもらっているということである。
日本のプロのポップ音楽の場合、たいていはミュージシャンは客に向けて演奏し歌っているのである。これは豊田道倫と感じの近いところのある、天然で真っ直ぐで詩人的なBJCのベンジーですらそうで、ファンが見たいもの聞きたいものの像を持っているからベンジーはそれを満たすように演奏しているのである。サーヴィス業といっていい。
しかし豊田道倫やその他少数の人達はそうではない。自分と音楽に向けて演奏し歌っている。これはちょうど将棋の棋士が勝負しているところを観客も見ているのに似ている。棋士は何も観客に見せるために将棋を指しているのではない。将棋と自分のために将棋の方を見て指しているのである。
photo by 山本光恵 2014.8.6 発売 FJP-TRAX / FJP001
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