この泉鏡花の第2作は作者お得意の幻想系ではなく、怪しげな館の前に「倉瀬泰助という当時屈指の探偵」が佇むシーンから始まる、一応中編と言っていい長さのミステリだ。1893年発表であるから、ホームズものもまだ翻訳されていなくて、黒岩涙香によるガボリオやボアゴベの翻案が人気を博していた時代の作品。日本最初のミステリと言われる涙香の短篇『無惨』が1889年だから、ごく初期の日本製ミステリである。
したがって、屈指の探偵と言っても、観察や推理により事件を解決するというタイプではなく、彼が館に潜入して囚われの美女たちを救い出す、後年の小説ならむしろルパンものにも近いようなスリラー系である。鏡花らしい幻想的で不思議な出来事にもすべて、一応現実的な解釈がつけられるが、倉瀬探偵を介さない作者の説明文によっている。
それにしても、リズミカルで巧みな文章はさすがと言うべきだろう。
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