あまり読書に集中できない時期だったので長くかかったが、知的に刺激される本である。
大澤の著作は何冊か読んだし、10年程前に週刊東洋経済の連載も読んでいた。
水野和夫については、三菱東京UFJ銀行のエコノミストとして、投資系の記事を様々なところに書いていたので名前は知っていたが、こんな型破りな碩学とは思わなかった。
内容だが、いくつかの印象的なことだけを列挙しておく。
資本主義が発生して以降、現在は400年ぶりの大転換期にある。一度目は16世紀を中心にした200年間で、その間に覇権がジェノバ→オランダ→イギリスというように移行する。
理由は利子率革命で、利子率が2%を下回ると投資先がなくなっていることを意味し、そのことにともなって大きな変動が起こる。
現在は、日本が真っ先に先鞭を付けたが、主要国の利子率は軒並み2%以下となっていて、それは「永い16世紀」以来のことである。
利子率が2%を切るということは、資本の投資先が失われているということを意味する。しかし、資本の本質は「蒐集」であると水野は指摘し、この蒐集ができなくなると利子率は2%をきるのだが、その度に資本は新たなフロンティアを見出して自己変革してきた。
新大陸の発見と発展から始まり、今日のグローバリゼーションに至る空間的なフロンティアの発展である。
しかし、そのフロンティアは空間的にはすでにアフリカ大陸のグローバリゼーションが俎上に上ってきた段階で終焉しつつあり、その代わりにネット上の金融空間を想像することでフロンティアとしてきたのだが、サブプライムローンなど、100年に一度の恐慌が何年かに一度起こる、バブルが世界中で3年に一度の頻度で起こる等、新たなフロンティアとして永続的に発展するとはとても言えない。
その意味で、新たなフロンティアを開いて「蒐集」を続ける資本主義というシステムそのものが行き詰っているのである。
実際、引用される調査によれば、「今が幸せか」という調査に対する答えは、これまで年齢が高いほど「イエス」の回答が多かったのだが、最近は20代の若者が「イエス」と回答するようになった。
それは、これまでの若者は、「これからもっと幸せになって行く」と予感し、「それと比べれば現在は幸せではない」と考えたからであって、現在の若者が「今は幸せである」と回答するのは、「これからもっと不幸せになる以外にない」と予感するからである。
つまり、それほどまでに資本主義の未来は誰にとっても閉塞している。
誰にとっても、と言ったが、ひと握りの富裕層を除いてである。
現状の格差の拡大は、以前の日本で言われた大企業と中小企業との二重構造とは根本的に異なっている。
以前の二重構造は、景気拡大期には大企業は大いに成長するが、中小企業もまた緩いカーブではあれ、成長していた。
資本も蒐集していたが、労働者の取り分も増えていた。
しかし、21世紀の景気拡大期では、大企業は成長しても中小企業は衰退している。資本は蒐集し儲けても、労働者の取り分は21世紀に入ってからは激減している。
金融資産を持つ富裕層だけが富んでいける構造になってしまっているのである。
しかし、こう書いたからといって社会主義に復活の可能性があるわけではない。
計画経済は、その計画に必要な情報を収集することが不可能でることからして破綻したのであり、それは永遠に不可能だからである。
ここで、著者たちは「定常社会」を構想する。
しかし、その不可能性というか困難性もまた明らかにしている。
現在の資本主義の生み出している問題は、原発の処理の問題や地球温暖化の問題も含めて、「未在の他者」に関わることが大きい。
資本主義は一方で、成功するかどうか分からないがチャレンジする、という価値観をシステム内に孕んでおり、それが、それ以前の古代・中世の定常社会とは大きく異なった。
かれらが構想する定常社会で、人間的挑戦の精神がいかにして維持されるのか。
この転換については、当たり前のことだが、大澤も水野も歯切れが悪い。
しかし、そのことは本書の価値を減ずるものではないことも明らかであろう。
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資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか (NHK出版新書) Kindle版
資本主義は変貌しつつあるのか?
それとも終わろうとしているのか?
資本主義とは何か? それはなぜ支配的システムになったのか? 資本主義を維持したまま、成長がなくとも幸福で活力のある社会を構築できるのか? 16世紀からの歴史をふまえ世界経済の潮流を見据えながら、経済事象のみならず、私たちの生き方をも規定している資本主義のダイナミズムを解き明かし、未来を展望するスリリングな討論!
第1章 なぜ資本主義は普遍化したのか?
第2章 国家と資本主義
第3章 長い二一世紀と不可能性の時代
第4章 成長なき資本主義は可能か?
第5章 「未来の他者」との幸福論
それとも終わろうとしているのか?
資本主義とは何か? それはなぜ支配的システムになったのか? 資本主義を維持したまま、成長がなくとも幸福で活力のある社会を構築できるのか? 16世紀からの歴史をふまえ世界経済の潮流を見据えながら、経済事象のみならず、私たちの生き方をも規定している資本主義のダイナミズムを解き明かし、未来を展望するスリリングな討論!
第1章 なぜ資本主義は普遍化したのか?
第2章 国家と資本主義
第3章 長い二一世紀と不可能性の時代
第4章 成長なき資本主義は可能か?
第5章 「未来の他者」との幸福論
- 言語日本語
- 出版社NHK出版
- 発売日2013/2/9
- ファイルサイズ4865 KB
- 販売: Amazon Services International LLC
- Kindle 電子書籍リーダーFire タブレットKindle 無料読書アプリ
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登録情報
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- 出版社 : NHK出版 (2013/2/9)
- 発売日 : 2013/2/9
- 言語 : 日本語
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- - 29,387位ビジネス・経済 (Kindleストア)
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著者について
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1953年生まれ。埼玉大学大学院経済科学研究科客員教授。元三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト。早稲田大学大学院修士課程経済研究科修了。(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『超マクロ展望 世界経済の真実(ISBN-978-4087205688)』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2014年9月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
現在の日本及びリーマンショック以降の欧米やBRICsの利子率の急激の低下をルネッサンス時代のイタリアと比較して
資本主義の限界を著者は説きます。
その基準は2%以下です。
この基準を下回りますと資本主義を維持するのが難しくなる。またらは
ルネッサンスでは羅針盤、火薬、グーテンベルグの大量印刷であり、現在ではIT革命、3Dプリンター、タブレットやスマホ、電子取引など
ルネッサンスと産業革命と電磁気革命(エジソンの時代)を組み合わせたほど時代が劇的に変貌しています。
新しい資本主義の形式、新たな画期的な経済理論を必要だと著者は説きます。
まだそれらは確立していません。
今後の日本経済、世界経済は新たな分岐点にさしかかっていると著者は示唆しています。まだそれは解明されていません。
その意味では本書は現在と未来をつなぐ重要な内容である。
参考)2014年末に「21世紀の資本論」が山形浩生が翻訳されます。本書と密接な関係にあるので読むことを楽しみにしています。
資本主義の限界を著者は説きます。
その基準は2%以下です。
この基準を下回りますと資本主義を維持するのが難しくなる。またらは
ルネッサンスでは羅針盤、火薬、グーテンベルグの大量印刷であり、現在ではIT革命、3Dプリンター、タブレットやスマホ、電子取引など
ルネッサンスと産業革命と電磁気革命(エジソンの時代)を組み合わせたほど時代が劇的に変貌しています。
新しい資本主義の形式、新たな画期的な経済理論を必要だと著者は説きます。
まだそれらは確立していません。
今後の日本経済、世界経済は新たな分岐点にさしかかっていると著者は示唆しています。まだそれは解明されていません。
その意味では本書は現在と未来をつなぐ重要な内容である。
参考)2014年末に「21世紀の資本論」が山形浩生が翻訳されます。本書と密接な関係にあるので読むことを楽しみにしています。
2013年7月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ポイントが発散して、よく言わんとするところが
掴めない、納得性が弱い対談と思われた。
論旨を整理しながらの対談であれば良い。
掴めない、納得性が弱い対談と思われた。
論旨を整理しながらの対談であれば良い。
2014年11月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
現代資本主義社会を振り返る事に力を与えてくれる優れた一冊といえるでしょう。多くの方々が手にされる事を願っています。
2013年2月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
共に博識で優れた世界史観を持つ経済学者と社会学者の対談によって、資本主義の本質と経済の過去・現在・将来を解き明かそうとした著書である。但し対談本に有り勝ちな浅薄な本ではなく、2人の著者の深い思考が表現されている。資本主義と経済を世界史観で大局的に見た経済書は珍しく、読者に新鮮な視野を与えてくれる。
例えば、新興国が経済発展して先進国に追い付いてしばらくすると必ずデフレになり経済は停滞し、別の新興国の台頭で主役は入れ替わる、と歴史上の経緯で言われると、日本の現状と引き比べて深く考えさせられる。
無理と知りつつも不満を感じた点を言えば、(1)5つの章はそれぞれ1つの設問から始まっているが、必ずしも答は無く多分「意見は言うから答は読者自身が考えて」という形になっている。各章に「まとめ」の1節があれば親切だった。(2)その一環で、日本経済への処方箋や提言が不充分で暗い気持にさせられた。
世界史観から資本主義経済を深く理解し考えたい読者に貴重な一冊だ。
例えば、新興国が経済発展して先進国に追い付いてしばらくすると必ずデフレになり経済は停滞し、別の新興国の台頭で主役は入れ替わる、と歴史上の経緯で言われると、日本の現状と引き比べて深く考えさせられる。
無理と知りつつも不満を感じた点を言えば、(1)5つの章はそれぞれ1つの設問から始まっているが、必ずしも答は無く多分「意見は言うから答は読者自身が考えて」という形になっている。各章に「まとめ」の1節があれば親切だった。(2)その一環で、日本経済への処方箋や提言が不充分で暗い気持にさせられた。
世界史観から資本主義経済を深く理解し考えたい読者に貴重な一冊だ。
2013年5月14日に日本でレビュー済み
資本主義について、
その誕生・成長・終焉を世界史と絡めた視点で考えることができる良書です。
水野さんの持論である利子率革命は、
ヨーロッパの宗教改革に端を発することがよく分かりました。
特に私が気に入ったのは、
長い16世紀と長い21世紀という切り口で社会を対比した分析です。
経済成長というテーマを
歴史観をもって俯瞰したい方にお勧めです。
その誕生・成長・終焉を世界史と絡めた視点で考えることができる良書です。
水野さんの持論である利子率革命は、
ヨーロッパの宗教改革に端を発することがよく分かりました。
特に私が気に入ったのは、
長い16世紀と長い21世紀という切り口で社会を対比した分析です。
経済成長というテーマを
歴史観をもって俯瞰したい方にお勧めです。
2019年2月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
お二人ともいろいろなことをご存知なようですが、相手の話を聞いてそこから何かを発展させるわけでなく勝手に自分が言いたいことだけ並べていらっしゃる。対談ではなくて人が二人いるだけに感じました。
資本主義の歴史なら歴史でもっと客観的に淡々と情報を並べてくれたほうがむしろ意味があります。
話の展開のいたるところに先入観を感じる。だから一応やろうとしている歴史から何かを学ぶ。現在の状況を分析する。という作業にしても中途半端に感じました。どう生きるか。なんていうタイトルなのに締めの言葉が「・・・世界の制度設計をどうするか、それが・・・政治の責任だと思います。」ってどうなんでしょう。
あとがきの最後に「本書を読まれた人が、たとえ本書の内容に賛同できなくても、「世界は病院である」と思っていただければ、それだけで本書のねらいの大半くらいは達成できたのではないかと密かに思っています。」と書かれていますが、世界を病院ととらえる鈴木忠志さんのお考えには大変共感しましたのでこの星は鈴木さんの分です。
資本主義の歴史なら歴史でもっと客観的に淡々と情報を並べてくれたほうがむしろ意味があります。
話の展開のいたるところに先入観を感じる。だから一応やろうとしている歴史から何かを学ぶ。現在の状況を分析する。という作業にしても中途半端に感じました。どう生きるか。なんていうタイトルなのに締めの言葉が「・・・世界の制度設計をどうするか、それが・・・政治の責任だと思います。」ってどうなんでしょう。
あとがきの最後に「本書を読まれた人が、たとえ本書の内容に賛同できなくても、「世界は病院である」と思っていただければ、それだけで本書のねらいの大半くらいは達成できたのではないかと密かに思っています。」と書かれていますが、世界を病院ととらえる鈴木忠志さんのお考えには大変共感しましたのでこの星は鈴木さんの分です。
2013年6月2日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
友人の紹介で読んだ。生きていきにくくなっている現代社会に対する疑問提起と分析がよかった。ただ、次に何がくるかは、やはり提案されていないのが少々物足りない。