NYCで最も注目される女性サクソフォニスト、Matana Robertsが自身のライフワークとして進めているCOIN COINシリーズ12作中3作目"river run thee”。
Godspeed You! Black Emperorに関わりの深い面子を集めた1、オペラ系テノール・シンガーJeremiah Abiahを起用した2と、これまで独特の構成でリスナーを驚かせてきたRobertsですが、今回はなんとRobertsのソロ。
生楽器はサクソフォンのみで、その他サンプリング、南部での旅中に録ったフィールドレコーディング、シンセサイザーのドローン、ノイズ、そしていつも通り黒人と奴隷の歴史を滔々と語る朗読が多く用いられています。
「Constellation Recordsで」「サクソフォンのソロで」しかも「ドローン」とくればColin Stetsonによる"New History Warfare"シリーズを連想せずにはいられませんが、本作にはStetsonのような鮮烈なメロディも強烈な重低音もリズムも無く、はるかに抽象的で浮遊感のある作り。
演奏は前二作と同じくフリージャズのマナーに則ったもので、ぼんやりとした音響の中で鳴り響くサクソフォンの存在感は見事。
長年GY!BEとともに活動してきたせいもあるのか、ポストロックらしさが少なからず出てくるのも特徴。特に#10"Come Away"、#11"With Me Seek"で延々と流れ続けるノイズ、ラストの#12"J.P."でそれが美しいシンセにかき消されていく場面は感動的でした。Malcolm Xやホームレス女性のサンプルもどことなくGY!BE(そしてもちろんGavin Bryars)風です。
私がドローン好きなせいもあるのでしょうが、個人的には1,2より良い出来だと思います。この調子だとシリーズが終わるまであと20年近くかかりそうですが、これからものんびり見守りっていきたいですね。