どこかで戦争が起こっている世界。
多くの子供達を乗せた飛行機が南洋で海面に不時着、大人の乗員は全滅してしまった。
温暖で食物や水が豊富な無人島に辿り着いた少年達は正義感溢れる少年ラルフ(ジェームズ・オーブリー)と喘息持ちで肥満・近眼ながら物知りのピギー(ヒュー・エドワーズ)の提案で英国人らしい文化生活を維持すべく合議制を引こうとするが、体格と行動力に恵まれた聖歌隊のリーダー;ジャック(トム・チャピン)は不満を隠さない。
徐々に野蛮化して行くジャックと文明生活を守ろうとするラルフの陣営間に軋轢が広がっていく。
本コーナーのレビューを拝見して購入致しました。
本作はリメイクより端正で、原作に忠実かつ子供たちがより幼く可愛らしく撮られているだけに観賞後には腹にズシリと余韻が来ます。
直接的な残酷シーンは「生贄の豚」の所だけですが、原作の持つ深み・重みを見事に再現した傑作です。
当初は無傷の子供達が思わぬ冒険にはしゃぎ、ジャック率いる聖歌隊がお仕着せの制服姿で祈り「キリエ・エレイソン(主よ憐みたまえ)」を行進曲風に歌いながら登場するシーンはとても可愛らしく、呑気な感じですが、子供達が二派に分かれて対立、小さな子供達が闇の中に正体不明の「獣」が居ると言い出す辺りより、不穏で迷信的な雰囲気が漂い始めます。
野生の豚狩りに目覚めたジャック一味が僅か数日でボディ・ペインティングされた裸族に変身してしまう様子には解放感に勝る喪失感が有ります。
当初定めたルールの象徴であるホラ貝とそれを抱えたピギーの最後には万感極まりました。
ブルック監督のアドリブによる演出を受けた子供達は好演していますが、リメイクのバルサザール・ゲディや「誰も知らない」の柳楽優弥氏と同様、主演のオーブリーもその後の役者人生では本作が壁となり苦労した様子。
出演の子役陣では後に初の実写版スパイダーマンを演じるニコラス・ハモンドが脇役で出演しています。
印象的な音楽はレイモンド・レパード(「ホテル・ニューハンプシャー」「ニキータ」)。
本DVDは邦盤初発売。
特典はディスク内には日本語字幕のON/OFF機能のみです。
表紙と同じ楳図かずお氏のイラストと原作者ゴールディングの略歴が描かれたリーフレットが付属します。
米国では今年クライテリオンからBlu-Rayが発売されています(日本でも取扱い有り)。
本商品はDVDとしては時代を考えれば普通以上の画質で、楳図ファンとしては嬉しい面も御座いましたが、画面が美しければ美しい程テーマの残酷さが際立つ作風なので少々残念でした。