収録された作品のなかで表題作にもっとも近いと思われる「夏、その2」。99ページから始まります。これはすばらしいです。初出は1985年7月の早稲田文学とある。そのときから18年前、1967年、山際さんが19歳のときの思い出を語ったものです。
僕も20代のころは「夏、その2」がいいと思っていた。それは山際さんのものを書く原風景、いかにも山際さんらしい「夏」の感じが表れていたから。
そして、いま、30代の半ばを過ぎて思うのは、「夏、その2」の直前に収められている「正方形の荒野」に、山際さんの、ノンフィクション書きではない、近代古典的な意味での文学、の可能性があったのではないかということです。
高度経済成長時代が毀し落としてきたものの象徴、アンチヒーローとしてのボクサー、青木勝利を描いたこの作品は、「爽やか」「感性」にとどまらない、山際さんの、あり得たかもしれない、スポーツノンフィクション以外のフィールドの可能性を示唆するようで、魅力的です。惜しいと思います。
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