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Newton(ニュートン) 2017年 06 月号 [雑誌] 雑誌 – 2017/4/26
相対性理論再入門 第2回 伸び縮みする時空
商品の説明
この雑誌について
科学の話題を面白くビジュアルに紹介
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2017年7月18日に日本でレビュー済み
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間違いなく、いいものです。きれいな、ページ印刷、内容に、毎回読みます。
2017年5月2日に日本でレビュー済み
Newton 2016年4月号でも「反物質の謎」を特集していましたが、“日本の大型加速器「スーパーKEKB(ケックビー)」でも「反物質の謎」の解明を進める”そうです。
最近のサイエンスニュース、ベスト8。
(1位)温暖化でポテチが消える。(2017.4.22)
気候変動・地球温暖化の影響と見られるが、台風・長雨などによる被害が相次ぎ、国内産の8割を占める北海道産のジャガイモの出荷量が減り、ポテトチップスの一部の製品が生産中止に。
(2位)環境省が、再生エネルギーで初の長期戦略作りを始める。(2017.4.10)
環境省は地熱や洋上風力、太陽光発電などの再生可能エネルギーを、2030年に大量に導入するための長期戦略を策定することを明らかにした。再生可能エネルギーに絞った国レベルの長期戦略づくりは初めて。
(3位)「風まかせ」から「計画発電」へ 風力試験設備を公開。(2017.4.27)
エネルギー総合工学研究所(IAE)など。電力を電池にためず、空気に変換しタンクにためる仕組み。電気が必要なときは空気を加熱して膨張させ、タービンを回し発電する。タンクは電池より割安で寿命も長いという。
(4位)NASAとESA(欧州宇宙機関)によって開発され、1997年に打上げられた土星探査機、「カッシーニ」がついに土星の環をくぐった。(2017.4.27)
(5位)世界初 他人のiPS細胞で移植手術 目の病気に。(2017.3.28)
患者本人ではない他人から作製した人工多能性幹細胞(iPS細胞)による臨床研究で、理化学研究所や神戸市立医療センター中央市民病院などのチームは、目の病気「加齢黄斑変性」の患者への移植手術を行った。
(6位)ブラックホール撮影 世界の望遠鏡が協力。(2017.4.1)
天の川銀河の中心にあると考えられている超巨大ブラックホールを撮影しようと、世界の電波望遠鏡で一斉に観測する国際共同プロジェクトが進行中。解像度が向上して直径約1万キロの電波望遠鏡に匹敵する性能となり、月面に置いた1円玉を地球から見分けられ、ブラックホールが黒い穴として見える可能性がある。
(7位)大型加速器「スーパーKEKB(ケックビー)」へ測定器「ベルⅡ」ロールイン。(2017.4.11)
宇宙が誕生した直後は、通常の物質と、電気的な性質が逆の反物質が、同じ数だけできたと考えられている。だがなぜか反物質は減り、物質だけが残った。この謎を解くのが実験の目的だ。研究には世界の23の国と地域から7百人以上の研究者が参加している。2018年初めにも実験を始めることが可能になった。
(8位)小惑星衝突、人類どうする 来月、地球防御で国際会議。(2017.4.3)
地球に接近する未知の小惑星を発見、衝突の恐れも-。SF映画のようなこんな事態に備え、被害を最小限に抑えるための方策を専門家らが議論する国際会議「プラネタリー・ディフェンス・カンファレンス」が5月に東京、日本科学未来館で開かれる。
「Super KEKB/Belle II では、B中間子崩壊の精密測定のほか、超対称性理論で予言されているタウレプトンのレプトンフレーバー非保存崩壊や荷電ヒッグス粒子の探索、通常のバリオンやメソンと異なる「エキゾチック・ハドロン」の発見/検証などが期待されている。従来の標準理論を超える物理現象の発見と物理法則の解明、それを理解する新たな理論枠組みが誕生する日を期待している。」ということですが、物理学の研究も、デュアル・ユーズすなわち善悪両面の使われ方があり得ます。原子力などの核物理にしても、iPS細胞などの再生医療にしても、いい面と悪い面とがあります。Belle Ⅱ研究にしても、期待とともにその成果の悪用も心配ですが、地球温暖化対策の特効薬となる新エネルギーの発見にもつながることも願いたいです。
《「CP対称性の破れ」は素粒子クォークでは確認済み。今回ニュートリノを飛ばし、素粒子ニュートリノでの「CP対称性の破れ」の兆候を観測した。(T2K実験)》(『朝日キーワード2018』)
〈日本の研究チームは、素粒子ニュートリノの観測を通じて、宇宙に物質がある謎を解く手がかりとなるデータが得られたと発表。ノーベル賞級の成果だ。 日本の高エネルギー加速器研究機構などの研究グループが観測したのは、素粒子ニュートリノが飛行中に別の型のニュートリノに変身する「ニュートリノ振動」だ。 宇宙が誕生したビッグバン直後には、物質と反物質が同数、生まれたとされてきた。両者は打ち消し合って何も残らないはずだが、現実には物質だけが残っている。「CP対称性の破れ」と呼ばれる両者の性質の違いが、物質が完全には消えなかった理由だとみられている。 グループは、茨木県東海村のJ-PARC(大強度陽子加速器施設)からニュートリノのビームを飛ばし、295㎞離れた岐阜県神岡鉱山の地下にある観測施設スーパーカミオカンデで検出する実験で、ニュートリノ振動を観測した。その結果、ニュートリノと、その反物質の反ニュートリノでは振動が起きる確率が違うことを示すデータを得て、16年8月に発表した。これがCP対称性の破れを意味する、両者の違いを反映しているものだとみられる。 まだデータの量が十分でなく、誤差の可能性もあるため、グループは今後、飛ばすニュートリノの数を増やして実験を続ける。〉
《宇宙における物質と反物質の不均衡の起源はCP対称性の破れではなく、CPT対称性の破れである可能性もある。》(『日経サイエンス2017年3月号』「世界初、反水素原子を分光観測 反物質研究のエポックとなる成果だ」)
=CPT対称性の破れを探る= 〈一般的に物理系は3つの基本的な特性を持つ。電荷と空間、時間だ。これまでの実験で系の電荷と空間を同時に反転(例えば粒子を反粒子に変え、運動方向を反転)させると、系の状態に微妙な違い(CP対称性の破れ)が生じることがわかっており、標準モデルにも組み込まれている。 クォークのCP対称性の破れは半世紀前、米国での実験で確認され、その破れは小林・益川理論で説明されることが、日米がそれぞれ建設したBファクトリーという加速器の実験で2000年代初めに検証された。ニュートリノのCP対称性の破れを示唆する実験データも、日本が主導するT2K実験で得られつつある。宇宙誕生時、粒子と反粒子はきっかり等量生み出されたとされるが、現在、観測される宇宙には物質しか存在しない。こうした物質と反物質の不均衡はCP対称性の破れに由来する可能性がある。
これに対し、物理系の電荷と空間に加えて時間も同時に反転すれば系の状態は変わらない(CPT対称性が保たれる)と考えられていた。それが近年、標準モデルを超える理論が本格的に研究され、CPT対称性が破れている可能性が議論されるようになった。宇宙における物質と反物質の不均衡の起源はCP対称性の破れではなく、CPT対称性の破れである可能性もある。そこでCPT対称性の破れを探索する様々な実験が進んでいる。
CERNの反陽子減速器を使ってCPT対称性の破れを探索しているのは4実験。ALPHA実験は欧米が中心だが、ASACUSA実験は日本が主導、BASE実験も日本が中心メンバーとなっている。実験対象も反水素原子のほか反陽子ヘリウム原子(ヘリウム原子の電子1個を反陽子に変えたもの)や反陽子そのものなど多様だ。 ASACUSA実験では反陽子ヘリウム原子の測定から、反陽子と電子の質量比を8×10の-10乗の精度で求めており、BASE実験では反陽子の質量と電荷の比を6.9×10の-11乗の精度で決定している。CERN以外では、電荷ゼロのK中間子と反K中間子の質量差を測定する実験も非常に高い精度を実現している。東京大学などは電子と陽電子が結びついたポジトロニウムの分光観測を試みている。CPT対称性の破れを探索する実験は、世界的に今後ますます熱を帯びそうだ。〉
《「物質だけの宇宙」を生み出したのは、超対称性粒子(SUSY)かもしれない。》(青野由利著『ニュートリノって何? 続・宇宙はこう考えられている』2016年2月10日発行)
=超対称性粒子= 〈ここまで、物質ばかりの宇宙を作るのにニュートリノが鍵を握っていたのではないか、という仮定でお話をしてきました。 でも、もしかしたら、物質ばかりの宇宙ができたのは、ニュートリノのおかげではないかもしれません。 浅井さんによれば、もうひとつの可能性として考えられるのが超対称性粒子(SUSYスージー)です。 SUSYといえば、そう、2012年にあのヒッグス粒子がジュネーブのCERNの加速器で発見された時に、「次は、SUSYの発見だ!」といわれた未発見の素粒子です。 超対称性粒子は、超対称性理論と呼ばれる次世代の理論が予言する素粒子で、標準理論を構成する17種類の素粒子とそれぞれペアを組んでいます。標準理論の素粒子に比べると、重さが重い「相棒」です。暗黒物質の候補でもあります。 マヨラナ粒子も標準理論を超える粒子ですが、この超対称性粒子も標準理論を超える理論の担い手として、発見が非常に期待されている粒子です。 「物質だけの宇宙」を生み出したのは、ニュートリノなのか、SUSYなのか、こうなると、もう賭の世界です。 浅井さんはもともと、CERNの加速器LHCでヒッグス粒子を見つけたチームの一員ですから、当然、SUSYに賭けています。ヒッグス粒子を発見してから一休みしてメンテナンスしていたLHCは、さらにパワーアップして2015年春から加速器実験を再開し、このSUSYがあるかどうかを確かめようとしています。 どちらに軍配が上がるのか。もしかしたら、どちらでもなく、別の「正解」があるのか。 いずれにしても、これからが楽しみです。〉
《「消えた反物質の謎」の解決策として、「物質の宇宙」や「反物質の宇宙」がそれぞれ別の場所でできたと考える科学者もいます。ただ、現状ではこの説をどう実証すればいいのかわからないのですが。》(『Newton 2016年4月号』)
=「反宇宙」は存在するのか?= 〈まず、私たちが見ることができる範囲の宇宙について考えてみましょう。望遠鏡で宇宙の遠くの方をのぞくと、宇宙の誕生直後の姿を見ることができます。そして、どの方向を見ても99.999%同じ。非常に均一なのです。 なぜ、どこも同じように見えるのか。それは、今は遠くはなれているすべての場所が、昔は1か所にあり、そこから急膨張(インフレーション)したからだ、と考えられています。
(どこを見ても均一な風景に見えるということは、どこを見ても反物質の宇宙が存在する痕跡が見えないということですね。やはり、宇宙はどこまでいっても物質が優勢で、反物質が優勢なところはないのでしょうか。)
多くの科学者がそう考えています。ただ、その急膨張がおきる前に、場所場所でCP対称性がちがうように破れ、それがインフレーションで引きはなされたとします。するとインフレーション後、宇宙のある部分では粒子が多くつくられ、一方別の部分で反粒子が多くつくられた、という可能性があります。そして反粒子の多い場所は地球から観測できる範囲のはるか向こうにあるのだ、ということはありえます。こうした考え方を、『自発的なCPの破れ』と呼んでいます。〉
〈地球からは見えない場所に「反宇宙」があるのかもしれない。 光は秒速約30万キロメートルの速さで進みます。宇宙が誕生してから138億年という有限の時間しかたっていないので、地球から観測できる宇宙は、138億年で光が到達できる範囲に限られます。 私たちが見ることができる範囲の宇宙は非常に均一で、物質しかありません。しかし、その外側に何があるかはわからないのです。〉
他にも説があります。(メンデル・サックス著『現代物理学がわかる10章』原著2007年発行)
=宇宙における物質と反物質の分離= 〈素粒子物理学と宇宙論における問題に次のようなものがある。なぜ宇宙の私たちの領域には物質(電子、陽子、……)が反物質(陽電子、反陽子、……)よりも卓越して存在するのか? 私の研究プログラムにおいては、おのおのが(数学的に導かれた)特定の状態、つまり、ヌル(零)のエネルギー、運動量および角運動量の基底状態にある束縛された粒子‐反粒子対の基本的背景がある。宇宙の各膨張フェーズの初期段階において物質と反物質が分離するシナリオは次のようである。変曲点で、収縮フェーズは膨張フェーズに変わる。冷却が起こったあと、宇宙の物質の重力場は約1MeV単位のエネルギーを電子-陽電子対の小部分に引き渡し、それらを解離するが、このとき、“より多くの対はこのエネルギーを受け取らない”。同様に、約2GeV単位のエネルギーが、基底状態にある陽子-反陽子対の一部に引き渡される。(あとに残った電子と陽子の対は、ヌルのエネルギー、運動量および角運動量の基底状態にあり、これがまえに論じた“ダークマター”である。)これらの解放された粒子と反粒子は、それ以後、宇宙全体の(より多くの)中性の対といっしょに渦巻宇宙の回転運動のなかにある。回転する粒子と反粒子は、宇宙の回転軸に垂直な平面内にあり、反対の電荷を帯びているので、渦巻宇宙の回転軸に平行な磁場と反平行な磁場をつくる。こうして、粒子と反粒子をして渦巻宇宙の単一の回転方向に運動するように仕向ける宇宙の物質の重力場と、粒子と反粒子の運動の方向を切り離そうとする磁場とのあいだに競合があることになる。反粒子より多くの粒子がひとつの方向に運動し、粒子より多くの反粒子が反対方向に運動するであろう。こうして、物質と反物質は宇宙のサイクルの初期の膨張段階において分離されるようになるのである。 そういうわけで、私たちの宇宙の異なる領域では、大部分は反物質として存在する可能性がある。そこでは、たとえば、(負に帯電した)反陽子と(正に帯電した)陽電子が結合して反水素を形成しており、またそこでは、二個の反中性子が二個の(負に帯電した)反陽子と(核力で)結合した原子核が二個の(正に帯電した)陽電子と電気的に結合して反ヘリウム原子を形成しており、またそこには、反物質からなる惑星や恒星や銀河があり、“そして人間”のような複雑な構造があるかもしれないのである。これは憶測にすぎないが、将来の研究によって実験的に検証できるかもしれない。〉
素粒子の質量を生み出すメカニズムはヒッグス機構だけではない。少なくとも3つ考えられています。同じようにとは言えませんが、「消えた反物質の謎」の理由も、いくつかの要因が複雑にからんでいるのかもしれません。
なぜニュートリノはとても軽いのか。なぜこんなに軽いのかわからない。そこで頭に浮かぶのは、「ニュートリノの質量も、他の素粒子と同じように、ヒッグス粒子が生み出したんじゃなかったの?」という疑問です。すると、浅井さんからこんな答えが返ってきました。
「素粒子の質量を生み出すメカニズムは3つ考えられます。ひとつはヒッグス粒子によるヒッグス機構。もうひとつは量子色(いろ)力学が扱う強い力。もうひとつが、とても軽いニュートリノの質量を生み出しているかもしれないシーソー機構です。」 えっ、そんなにいろいろあったんだ、と今度も言いそうになりましたが、確かにヒッグス粒子が発見された時、「これだけで宇宙の質量が全部説明できるわけではない」という話は聞いていました。 カリフォルニア工科大学の理論物理学者、大栗博司(おおぐりひろし)さんは著書の中でこう指摘しています。
「ヒッグス粒子が関わっているのは、実は、私たちの身の回りにある物質の質量の1%に過ぎません」(『強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く』)
では、残りの99%は何かといえば、「クォークを陽子や中性子の中に閉じ込める『強い力』のエネルギー」ということになります。
それはともかく、ニュートリノの質量を生み出したのは、ヒッグス機構でも、強い力でもなく、「シーソー機構」かもしれないというのです。 この理論は、「なぜ、ニュートリノの質量はこんなに小さいのか」を説明する理論として、すでに1970年代の終わりに提案されていたのだそうです。 そして、この理論の提案者の一人は日本の素粒子物理学者、柳田勉(つとむ)さんでした。
以上の、より詳しい話は、大栗博司(おおぐりひろし)著『強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く』や青野由利著『ニュートリノって何? 続・宇宙はこう考えられている』にわかりやすく説明されています。
『宇宙と生命の起源2―素粒子から細胞へ』には、「見えないダークマターの起源をつきとめるより、目で見て確かめられる普通の物質の起源を突き止める方が、実はよほど難しいのです。」と記されています。
『「科学の謎」未解決ファイル 宇宙と地球の不思議から迷宮の人体まで』を読むと、反物質が宇宙に少ない原因についての諸説は、そもそも大きく二つに分かれるそうだ。
(1)【物質世界、反物質世界、分離説】ひとつは、物質だけの私たちの宇宙のほかに、反物質の宇宙が別に存在しているという説だ。宇宙が誕生した当時、物質と反物質が均等に存在したが、その後、物質による宇宙と反物質による宇宙とに分かれた……。偶然、私たちの宇宙は物質が中心だっただけで、宇宙のどこかには、反物質でできた宇宙が存在するというのである。(これは、反宇宙とも言われるが、反宇宙と言っても性質は我々の宇宙と別に変わらないとも言う。)
(2)【物質、反物質、対消滅説】もうひとつの説は、均等に存在していたと思われていた物質と反物質が、ほんのわずか不均等だったとする説だ。物質と反物質は触れ合うと反応を起こし、どちらも消滅すると考えられる。少しだけ余計に物質が多かったとすると、多くの反物質と物質は触れ合って消滅し合うが、余計な物質は残る。また存在したはずの反物質は不均等によって消えたことになる。私たちの住む宇宙はそのようにして今に至るのではないだろうか、というわけだ。もしも余分に生まれたものが逆だったら、この宇宙は物質ではなく反物質によって構成されていたことになる。
「CP対称性の破れで粒子のほうが反粒子よりも数が多くなり、対消滅したあと粒子のみが残った。」というのは旧ソ連のサハロフ博士の説をもとにした考え方です。この考えはとてももっともらしい話に思えるので、そう信じ込みたくなる人は多いです。しかし現在わかっているクォークのCP対称性の破れだけで見積もると数量的に足りない(クォークのCP対称性の破れでは宇宙における不均衡の1000兆分の1以下にしかならない)ので、他にも対称性を破る現象がないかと探しているのが現状です。よってまだ解決された話ではありません。
「物質、反物質、対消滅説」で解説した本では、“物質のほうが反物質より10億分の2だけ多かった” 、“宇宙にある物質は、10億分の1の確率で残ってしまったあぶれ者”などというような前提で話を始めています。しかしこれは、あくまでも対消滅が事実だと仮定しての話であります。“物質のほうが反物質より10億分の2だけ多かった”ということが、実験などによって検証がなされたわけではまだないのです。
なお「10億分の2」は、説明をわかりやすくするための大まかな数です。実際の物質の量は宇宙の各時期によってことなり、現在の物質の量は「10億分の0.6」くらいだと考えられています。(Newton2016年4月号)
「消えた反物質の謎」について。物質の起源は「対称性の破れ」によるものというのはほぼ誰でも信じたくなりますが、しかしその仮説を事実のように書いてある本が多いのは全く問題です。物質の起源は、小林・益川理論の対称性の破れが要因と思いたくなりますが、実際には同理論で説明がつく割合は宇宙における不均衡の1000兆分の1以下です。つまり、「クォークのCP対称性の破れ」で説明がつくのは、宇宙における不均衡の1000兆分の1以下に過ぎません。ノーベル賞を受賞した小林・益川理論の、「クォークのCP対称性の破れ」で、「消えた反物質の謎」が解明されるとすると、とてもすっきりした話に見えるので、多くの科学書でついそう説明していますが、事実ではありません。
このように、これまで「対称性の破れ」が確認されていたのは、小林・益川理論の、「クォークのCP対称性の破れ」だけでした。そこで今度は、「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」で残りの不均衡が説明できるのではないかと考えられています。
しかし、今度は、「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」で残りの不均衡が説明できるという仮説を、仮説という説明なしに事実のように解説した本や科学誌が出るようになりました。しかしたとえば、「消えた反物質の謎」は、「クォークのCP対称性の破れ」と「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」だけでなく、さらに「CPT対称性の破れ」も関わってくる可能性もあり得ます。つまり、「消えた反物質の謎」は、「クォークとレプトン(ニュートリノ)両方のCP対称性の破れ」でも宇宙の不均衡をすべて説明するにはまだ足りない可能性もあり得ます。そこで、さらに「CPT対称性の破れ」による宇宙の不均衡が議論されるかもしれません。すなわち、あらたに「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」が実験で検証されたとすれば、もちろん「消えた反物質の謎」の解明に大きく近づきますが、これが完全な解決を意味するかどうかは必ずしもわかりません。「消えた反物質の謎」は、「クォークのCP対称性の破れ」と「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」だけでなく、さらに「CPT対称性の破れ」も関わってくる可能性もあり得ます。またさらに超対称性粒子(SUSY)説もあるようです。
またほかにも、インフレーションの時に反粒子やモノポールが遠くに飛んでいき、よって観測可能な近くの宇宙には反粒子が見つからないが、遠くの宇宙には反宇宙があるかも知れないという、これまた有力な説もあります。また近くの宇宙をくまなく捜しても反粒子が全く見つからないのは、インフレーションで飛んでいった後に残った反粒子だけが粒子と対消滅したとも考えられます。
「消えた反物質の謎」の理由は、小林・益川理論の「クォークのCP対称性の破れ」がほんのわずかに関わっていることが確認されています。しかし、このことは、「消えた反物質の謎」の理由が1つだけではなく、2つ以上あることも示唆しています。「消えた反物質の謎」の理由は、いくつかの(または多くの?)要因が複雑にからんでいるのかもしれません。
最近のサイエンスニュース、ベスト8。
(1位)温暖化でポテチが消える。(2017.4.22)
気候変動・地球温暖化の影響と見られるが、台風・長雨などによる被害が相次ぎ、国内産の8割を占める北海道産のジャガイモの出荷量が減り、ポテトチップスの一部の製品が生産中止に。
(2位)環境省が、再生エネルギーで初の長期戦略作りを始める。(2017.4.10)
環境省は地熱や洋上風力、太陽光発電などの再生可能エネルギーを、2030年に大量に導入するための長期戦略を策定することを明らかにした。再生可能エネルギーに絞った国レベルの長期戦略づくりは初めて。
(3位)「風まかせ」から「計画発電」へ 風力試験設備を公開。(2017.4.27)
エネルギー総合工学研究所(IAE)など。電力を電池にためず、空気に変換しタンクにためる仕組み。電気が必要なときは空気を加熱して膨張させ、タービンを回し発電する。タンクは電池より割安で寿命も長いという。
(4位)NASAとESA(欧州宇宙機関)によって開発され、1997年に打上げられた土星探査機、「カッシーニ」がついに土星の環をくぐった。(2017.4.27)
(5位)世界初 他人のiPS細胞で移植手術 目の病気に。(2017.3.28)
患者本人ではない他人から作製した人工多能性幹細胞(iPS細胞)による臨床研究で、理化学研究所や神戸市立医療センター中央市民病院などのチームは、目の病気「加齢黄斑変性」の患者への移植手術を行った。
(6位)ブラックホール撮影 世界の望遠鏡が協力。(2017.4.1)
天の川銀河の中心にあると考えられている超巨大ブラックホールを撮影しようと、世界の電波望遠鏡で一斉に観測する国際共同プロジェクトが進行中。解像度が向上して直径約1万キロの電波望遠鏡に匹敵する性能となり、月面に置いた1円玉を地球から見分けられ、ブラックホールが黒い穴として見える可能性がある。
(7位)大型加速器「スーパーKEKB(ケックビー)」へ測定器「ベルⅡ」ロールイン。(2017.4.11)
宇宙が誕生した直後は、通常の物質と、電気的な性質が逆の反物質が、同じ数だけできたと考えられている。だがなぜか反物質は減り、物質だけが残った。この謎を解くのが実験の目的だ。研究には世界の23の国と地域から7百人以上の研究者が参加している。2018年初めにも実験を始めることが可能になった。
(8位)小惑星衝突、人類どうする 来月、地球防御で国際会議。(2017.4.3)
地球に接近する未知の小惑星を発見、衝突の恐れも-。SF映画のようなこんな事態に備え、被害を最小限に抑えるための方策を専門家らが議論する国際会議「プラネタリー・ディフェンス・カンファレンス」が5月に東京、日本科学未来館で開かれる。
「Super KEKB/Belle II では、B中間子崩壊の精密測定のほか、超対称性理論で予言されているタウレプトンのレプトンフレーバー非保存崩壊や荷電ヒッグス粒子の探索、通常のバリオンやメソンと異なる「エキゾチック・ハドロン」の発見/検証などが期待されている。従来の標準理論を超える物理現象の発見と物理法則の解明、それを理解する新たな理論枠組みが誕生する日を期待している。」ということですが、物理学の研究も、デュアル・ユーズすなわち善悪両面の使われ方があり得ます。原子力などの核物理にしても、iPS細胞などの再生医療にしても、いい面と悪い面とがあります。Belle Ⅱ研究にしても、期待とともにその成果の悪用も心配ですが、地球温暖化対策の特効薬となる新エネルギーの発見にもつながることも願いたいです。
《「CP対称性の破れ」は素粒子クォークでは確認済み。今回ニュートリノを飛ばし、素粒子ニュートリノでの「CP対称性の破れ」の兆候を観測した。(T2K実験)》(『朝日キーワード2018』)
〈日本の研究チームは、素粒子ニュートリノの観測を通じて、宇宙に物質がある謎を解く手がかりとなるデータが得られたと発表。ノーベル賞級の成果だ。 日本の高エネルギー加速器研究機構などの研究グループが観測したのは、素粒子ニュートリノが飛行中に別の型のニュートリノに変身する「ニュートリノ振動」だ。 宇宙が誕生したビッグバン直後には、物質と反物質が同数、生まれたとされてきた。両者は打ち消し合って何も残らないはずだが、現実には物質だけが残っている。「CP対称性の破れ」と呼ばれる両者の性質の違いが、物質が完全には消えなかった理由だとみられている。 グループは、茨木県東海村のJ-PARC(大強度陽子加速器施設)からニュートリノのビームを飛ばし、295㎞離れた岐阜県神岡鉱山の地下にある観測施設スーパーカミオカンデで検出する実験で、ニュートリノ振動を観測した。その結果、ニュートリノと、その反物質の反ニュートリノでは振動が起きる確率が違うことを示すデータを得て、16年8月に発表した。これがCP対称性の破れを意味する、両者の違いを反映しているものだとみられる。 まだデータの量が十分でなく、誤差の可能性もあるため、グループは今後、飛ばすニュートリノの数を増やして実験を続ける。〉
《宇宙における物質と反物質の不均衡の起源はCP対称性の破れではなく、CPT対称性の破れである可能性もある。》(『日経サイエンス2017年3月号』「世界初、反水素原子を分光観測 反物質研究のエポックとなる成果だ」)
=CPT対称性の破れを探る= 〈一般的に物理系は3つの基本的な特性を持つ。電荷と空間、時間だ。これまでの実験で系の電荷と空間を同時に反転(例えば粒子を反粒子に変え、運動方向を反転)させると、系の状態に微妙な違い(CP対称性の破れ)が生じることがわかっており、標準モデルにも組み込まれている。 クォークのCP対称性の破れは半世紀前、米国での実験で確認され、その破れは小林・益川理論で説明されることが、日米がそれぞれ建設したBファクトリーという加速器の実験で2000年代初めに検証された。ニュートリノのCP対称性の破れを示唆する実験データも、日本が主導するT2K実験で得られつつある。宇宙誕生時、粒子と反粒子はきっかり等量生み出されたとされるが、現在、観測される宇宙には物質しか存在しない。こうした物質と反物質の不均衡はCP対称性の破れに由来する可能性がある。
これに対し、物理系の電荷と空間に加えて時間も同時に反転すれば系の状態は変わらない(CPT対称性が保たれる)と考えられていた。それが近年、標準モデルを超える理論が本格的に研究され、CPT対称性が破れている可能性が議論されるようになった。宇宙における物質と反物質の不均衡の起源はCP対称性の破れではなく、CPT対称性の破れである可能性もある。そこでCPT対称性の破れを探索する様々な実験が進んでいる。
CERNの反陽子減速器を使ってCPT対称性の破れを探索しているのは4実験。ALPHA実験は欧米が中心だが、ASACUSA実験は日本が主導、BASE実験も日本が中心メンバーとなっている。実験対象も反水素原子のほか反陽子ヘリウム原子(ヘリウム原子の電子1個を反陽子に変えたもの)や反陽子そのものなど多様だ。 ASACUSA実験では反陽子ヘリウム原子の測定から、反陽子と電子の質量比を8×10の-10乗の精度で求めており、BASE実験では反陽子の質量と電荷の比を6.9×10の-11乗の精度で決定している。CERN以外では、電荷ゼロのK中間子と反K中間子の質量差を測定する実験も非常に高い精度を実現している。東京大学などは電子と陽電子が結びついたポジトロニウムの分光観測を試みている。CPT対称性の破れを探索する実験は、世界的に今後ますます熱を帯びそうだ。〉
《「物質だけの宇宙」を生み出したのは、超対称性粒子(SUSY)かもしれない。》(青野由利著『ニュートリノって何? 続・宇宙はこう考えられている』2016年2月10日発行)
=超対称性粒子= 〈ここまで、物質ばかりの宇宙を作るのにニュートリノが鍵を握っていたのではないか、という仮定でお話をしてきました。 でも、もしかしたら、物質ばかりの宇宙ができたのは、ニュートリノのおかげではないかもしれません。 浅井さんによれば、もうひとつの可能性として考えられるのが超対称性粒子(SUSYスージー)です。 SUSYといえば、そう、2012年にあのヒッグス粒子がジュネーブのCERNの加速器で発見された時に、「次は、SUSYの発見だ!」といわれた未発見の素粒子です。 超対称性粒子は、超対称性理論と呼ばれる次世代の理論が予言する素粒子で、標準理論を構成する17種類の素粒子とそれぞれペアを組んでいます。標準理論の素粒子に比べると、重さが重い「相棒」です。暗黒物質の候補でもあります。 マヨラナ粒子も標準理論を超える粒子ですが、この超対称性粒子も標準理論を超える理論の担い手として、発見が非常に期待されている粒子です。 「物質だけの宇宙」を生み出したのは、ニュートリノなのか、SUSYなのか、こうなると、もう賭の世界です。 浅井さんはもともと、CERNの加速器LHCでヒッグス粒子を見つけたチームの一員ですから、当然、SUSYに賭けています。ヒッグス粒子を発見してから一休みしてメンテナンスしていたLHCは、さらにパワーアップして2015年春から加速器実験を再開し、このSUSYがあるかどうかを確かめようとしています。 どちらに軍配が上がるのか。もしかしたら、どちらでもなく、別の「正解」があるのか。 いずれにしても、これからが楽しみです。〉
《「消えた反物質の謎」の解決策として、「物質の宇宙」や「反物質の宇宙」がそれぞれ別の場所でできたと考える科学者もいます。ただ、現状ではこの説をどう実証すればいいのかわからないのですが。》(『Newton 2016年4月号』)
=「反宇宙」は存在するのか?= 〈まず、私たちが見ることができる範囲の宇宙について考えてみましょう。望遠鏡で宇宙の遠くの方をのぞくと、宇宙の誕生直後の姿を見ることができます。そして、どの方向を見ても99.999%同じ。非常に均一なのです。 なぜ、どこも同じように見えるのか。それは、今は遠くはなれているすべての場所が、昔は1か所にあり、そこから急膨張(インフレーション)したからだ、と考えられています。
(どこを見ても均一な風景に見えるということは、どこを見ても反物質の宇宙が存在する痕跡が見えないということですね。やはり、宇宙はどこまでいっても物質が優勢で、反物質が優勢なところはないのでしょうか。)
多くの科学者がそう考えています。ただ、その急膨張がおきる前に、場所場所でCP対称性がちがうように破れ、それがインフレーションで引きはなされたとします。するとインフレーション後、宇宙のある部分では粒子が多くつくられ、一方別の部分で反粒子が多くつくられた、という可能性があります。そして反粒子の多い場所は地球から観測できる範囲のはるか向こうにあるのだ、ということはありえます。こうした考え方を、『自発的なCPの破れ』と呼んでいます。〉
〈地球からは見えない場所に「反宇宙」があるのかもしれない。 光は秒速約30万キロメートルの速さで進みます。宇宙が誕生してから138億年という有限の時間しかたっていないので、地球から観測できる宇宙は、138億年で光が到達できる範囲に限られます。 私たちが見ることができる範囲の宇宙は非常に均一で、物質しかありません。しかし、その外側に何があるかはわからないのです。〉
他にも説があります。(メンデル・サックス著『現代物理学がわかる10章』原著2007年発行)
=宇宙における物質と反物質の分離= 〈素粒子物理学と宇宙論における問題に次のようなものがある。なぜ宇宙の私たちの領域には物質(電子、陽子、……)が反物質(陽電子、反陽子、……)よりも卓越して存在するのか? 私の研究プログラムにおいては、おのおのが(数学的に導かれた)特定の状態、つまり、ヌル(零)のエネルギー、運動量および角運動量の基底状態にある束縛された粒子‐反粒子対の基本的背景がある。宇宙の各膨張フェーズの初期段階において物質と反物質が分離するシナリオは次のようである。変曲点で、収縮フェーズは膨張フェーズに変わる。冷却が起こったあと、宇宙の物質の重力場は約1MeV単位のエネルギーを電子-陽電子対の小部分に引き渡し、それらを解離するが、このとき、“より多くの対はこのエネルギーを受け取らない”。同様に、約2GeV単位のエネルギーが、基底状態にある陽子-反陽子対の一部に引き渡される。(あとに残った電子と陽子の対は、ヌルのエネルギー、運動量および角運動量の基底状態にあり、これがまえに論じた“ダークマター”である。)これらの解放された粒子と反粒子は、それ以後、宇宙全体の(より多くの)中性の対といっしょに渦巻宇宙の回転運動のなかにある。回転する粒子と反粒子は、宇宙の回転軸に垂直な平面内にあり、反対の電荷を帯びているので、渦巻宇宙の回転軸に平行な磁場と反平行な磁場をつくる。こうして、粒子と反粒子をして渦巻宇宙の単一の回転方向に運動するように仕向ける宇宙の物質の重力場と、粒子と反粒子の運動の方向を切り離そうとする磁場とのあいだに競合があることになる。反粒子より多くの粒子がひとつの方向に運動し、粒子より多くの反粒子が反対方向に運動するであろう。こうして、物質と反物質は宇宙のサイクルの初期の膨張段階において分離されるようになるのである。 そういうわけで、私たちの宇宙の異なる領域では、大部分は反物質として存在する可能性がある。そこでは、たとえば、(負に帯電した)反陽子と(正に帯電した)陽電子が結合して反水素を形成しており、またそこでは、二個の反中性子が二個の(負に帯電した)反陽子と(核力で)結合した原子核が二個の(正に帯電した)陽電子と電気的に結合して反ヘリウム原子を形成しており、またそこには、反物質からなる惑星や恒星や銀河があり、“そして人間”のような複雑な構造があるかもしれないのである。これは憶測にすぎないが、将来の研究によって実験的に検証できるかもしれない。〉
素粒子の質量を生み出すメカニズムはヒッグス機構だけではない。少なくとも3つ考えられています。同じようにとは言えませんが、「消えた反物質の謎」の理由も、いくつかの要因が複雑にからんでいるのかもしれません。
なぜニュートリノはとても軽いのか。なぜこんなに軽いのかわからない。そこで頭に浮かぶのは、「ニュートリノの質量も、他の素粒子と同じように、ヒッグス粒子が生み出したんじゃなかったの?」という疑問です。すると、浅井さんからこんな答えが返ってきました。
「素粒子の質量を生み出すメカニズムは3つ考えられます。ひとつはヒッグス粒子によるヒッグス機構。もうひとつは量子色(いろ)力学が扱う強い力。もうひとつが、とても軽いニュートリノの質量を生み出しているかもしれないシーソー機構です。」 えっ、そんなにいろいろあったんだ、と今度も言いそうになりましたが、確かにヒッグス粒子が発見された時、「これだけで宇宙の質量が全部説明できるわけではない」という話は聞いていました。 カリフォルニア工科大学の理論物理学者、大栗博司(おおぐりひろし)さんは著書の中でこう指摘しています。
「ヒッグス粒子が関わっているのは、実は、私たちの身の回りにある物質の質量の1%に過ぎません」(『強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く』)
では、残りの99%は何かといえば、「クォークを陽子や中性子の中に閉じ込める『強い力』のエネルギー」ということになります。
それはともかく、ニュートリノの質量を生み出したのは、ヒッグス機構でも、強い力でもなく、「シーソー機構」かもしれないというのです。 この理論は、「なぜ、ニュートリノの質量はこんなに小さいのか」を説明する理論として、すでに1970年代の終わりに提案されていたのだそうです。 そして、この理論の提案者の一人は日本の素粒子物理学者、柳田勉(つとむ)さんでした。
以上の、より詳しい話は、大栗博司(おおぐりひろし)著『強い力と弱い力 ヒッグス粒子が宇宙にかけた魔法を解く』や青野由利著『ニュートリノって何? 続・宇宙はこう考えられている』にわかりやすく説明されています。
『宇宙と生命の起源2―素粒子から細胞へ』には、「見えないダークマターの起源をつきとめるより、目で見て確かめられる普通の物質の起源を突き止める方が、実はよほど難しいのです。」と記されています。
『「科学の謎」未解決ファイル 宇宙と地球の不思議から迷宮の人体まで』を読むと、反物質が宇宙に少ない原因についての諸説は、そもそも大きく二つに分かれるそうだ。
(1)【物質世界、反物質世界、分離説】ひとつは、物質だけの私たちの宇宙のほかに、反物質の宇宙が別に存在しているという説だ。宇宙が誕生した当時、物質と反物質が均等に存在したが、その後、物質による宇宙と反物質による宇宙とに分かれた……。偶然、私たちの宇宙は物質が中心だっただけで、宇宙のどこかには、反物質でできた宇宙が存在するというのである。(これは、反宇宙とも言われるが、反宇宙と言っても性質は我々の宇宙と別に変わらないとも言う。)
(2)【物質、反物質、対消滅説】もうひとつの説は、均等に存在していたと思われていた物質と反物質が、ほんのわずか不均等だったとする説だ。物質と反物質は触れ合うと反応を起こし、どちらも消滅すると考えられる。少しだけ余計に物質が多かったとすると、多くの反物質と物質は触れ合って消滅し合うが、余計な物質は残る。また存在したはずの反物質は不均等によって消えたことになる。私たちの住む宇宙はそのようにして今に至るのではないだろうか、というわけだ。もしも余分に生まれたものが逆だったら、この宇宙は物質ではなく反物質によって構成されていたことになる。
「CP対称性の破れで粒子のほうが反粒子よりも数が多くなり、対消滅したあと粒子のみが残った。」というのは旧ソ連のサハロフ博士の説をもとにした考え方です。この考えはとてももっともらしい話に思えるので、そう信じ込みたくなる人は多いです。しかし現在わかっているクォークのCP対称性の破れだけで見積もると数量的に足りない(クォークのCP対称性の破れでは宇宙における不均衡の1000兆分の1以下にしかならない)ので、他にも対称性を破る現象がないかと探しているのが現状です。よってまだ解決された話ではありません。
「物質、反物質、対消滅説」で解説した本では、“物質のほうが反物質より10億分の2だけ多かった” 、“宇宙にある物質は、10億分の1の確率で残ってしまったあぶれ者”などというような前提で話を始めています。しかしこれは、あくまでも対消滅が事実だと仮定しての話であります。“物質のほうが反物質より10億分の2だけ多かった”ということが、実験などによって検証がなされたわけではまだないのです。
なお「10億分の2」は、説明をわかりやすくするための大まかな数です。実際の物質の量は宇宙の各時期によってことなり、現在の物質の量は「10億分の0.6」くらいだと考えられています。(Newton2016年4月号)
「消えた反物質の謎」について。物質の起源は「対称性の破れ」によるものというのはほぼ誰でも信じたくなりますが、しかしその仮説を事実のように書いてある本が多いのは全く問題です。物質の起源は、小林・益川理論の対称性の破れが要因と思いたくなりますが、実際には同理論で説明がつく割合は宇宙における不均衡の1000兆分の1以下です。つまり、「クォークのCP対称性の破れ」で説明がつくのは、宇宙における不均衡の1000兆分の1以下に過ぎません。ノーベル賞を受賞した小林・益川理論の、「クォークのCP対称性の破れ」で、「消えた反物質の謎」が解明されるとすると、とてもすっきりした話に見えるので、多くの科学書でついそう説明していますが、事実ではありません。
このように、これまで「対称性の破れ」が確認されていたのは、小林・益川理論の、「クォークのCP対称性の破れ」だけでした。そこで今度は、「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」で残りの不均衡が説明できるのではないかと考えられています。
しかし、今度は、「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」で残りの不均衡が説明できるという仮説を、仮説という説明なしに事実のように解説した本や科学誌が出るようになりました。しかしたとえば、「消えた反物質の謎」は、「クォークのCP対称性の破れ」と「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」だけでなく、さらに「CPT対称性の破れ」も関わってくる可能性もあり得ます。つまり、「消えた反物質の謎」は、「クォークとレプトン(ニュートリノ)両方のCP対称性の破れ」でも宇宙の不均衡をすべて説明するにはまだ足りない可能性もあり得ます。そこで、さらに「CPT対称性の破れ」による宇宙の不均衡が議論されるかもしれません。すなわち、あらたに「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」が実験で検証されたとすれば、もちろん「消えた反物質の謎」の解明に大きく近づきますが、これが完全な解決を意味するかどうかは必ずしもわかりません。「消えた反物質の謎」は、「クォークのCP対称性の破れ」と「レプトン(ニュートリノ)のCP対称性の破れ」だけでなく、さらに「CPT対称性の破れ」も関わってくる可能性もあり得ます。またさらに超対称性粒子(SUSY)説もあるようです。
またほかにも、インフレーションの時に反粒子やモノポールが遠くに飛んでいき、よって観測可能な近くの宇宙には反粒子が見つからないが、遠くの宇宙には反宇宙があるかも知れないという、これまた有力な説もあります。また近くの宇宙をくまなく捜しても反粒子が全く見つからないのは、インフレーションで飛んでいった後に残った反粒子だけが粒子と対消滅したとも考えられます。
「消えた反物質の謎」の理由は、小林・益川理論の「クォークのCP対称性の破れ」がほんのわずかに関わっていることが確認されています。しかし、このことは、「消えた反物質の謎」の理由が1つだけではなく、2つ以上あることも示唆しています。「消えた反物質の謎」の理由は、いくつかの(または多くの?)要因が複雑にからんでいるのかもしれません。