2018年は今やポップ・ミュージックの大御所となったエルトン・ジョンにとって、エルトン・ジョン名義でのデビュー・シングル「I've Been Loving You」(1968年)を出して半世紀となるメモリアル・イヤーだが、それを記念するように2枚のトリビュート・アルバムが公式に発表された。一枚はエド・シーランやレディ・ガガら当世のポップス系のヒット・アーティストが集まったReVamp、もう一枚がこのRestorationで、こちらは、13曲中11曲の主要レコーディングがテネシー州ナッシュヴィル(カントリー・ミュージックの聖地である)で行なわれるという、カントリー・アルバムになっている(エルトンのソングライティング・パートナーである作詞家のバーニー・トーピンもプロデュースに加わっている)。試聴する限り、ReVampも、まあ悪くない、好アルバムだと思うのだが、私はこちらのRestorationのほうが断然好きだ。そもそもエルトン・ジョンが1970年代に一世を風靡したのは単なるロックン・ローラーではなく、カントリー・ミュージック的な要素が多々あったからだと思う(だからこそ、英国本国以上に、アメリカで受けたということがあると私は思っている)。カントリー・ミュージックのような、素朴で温かいメロディー。時にゆったりとおおらかで、時に軽快な、緩急に富んだ豊かな音楽性。そうした要素があったからこそ、エルトンの音楽は愛されたのだと思う。
それはそうと、このアルバム、女声カヴァー群が素晴らしい。Maren Morrisの歌うMona Lisas and Mad Hatters はナッシュヴィル録音という歌詞との齟齬(この歌はNYで生きる孤独と、その中でも温かくしてくれる人も存在することへの感謝を歌う)を差し引いても素晴らしすぎる。こんな女声カヴァーを聴いてみたかった。感涙ものといってもいい。この曲は私が通った1990年代~2000年代の来日公演でもたびたび歌われたし、9.11で傷ついたニューヨークでのThe Concert for New Yorkでも歌われたほか、近年ではパキスタンでの紛争報道で殉職したジャーナリストへのトリビュートとしても歌われたが(映画「あの頃ペニー・レインと」でも重要な場面で使われた)、バーニー・トーピンの歌詞とともに、詩情を感じさせる1970年代の最高傑作のひとつといってもよい名曲だと思う(デイヴィー・ジョンストンのマンドリンも素晴らしいオリジナル版は傑作アルバム「ホンキー・シャトー」に収録)。Rhonda VincentとDolly Parton の歌う Please も素晴らしい。この曲は「ライオン・キング」でのグラミーやアカデミーの受賞もあった(素直に喜べない、というか、複雑ではあるがダイアナ元妃追悼歌でのギネス記録も出た)エルトンの第二全盛期ともいえる1990年代の名曲のひとつで、アルバムとしては最高傑作かもしれない「メイド・イン・イングランド」に収録された求愛ソング。このカヴァーは後半のフィドルも素晴らしい。Miranda LambertもLee Ann WomackもKacey Musgraves もMiley CyrusもRosanne CashもEmmilou Harrisも素晴らしい。男性では、なんといっても、イーグルスのドン・ヘンリーとヴィンス・ギルの歌うSacrificeが素晴らしい。最後にもうひとつ。なんと、Willie NelsonとChuck Leavellも参加している(ChuckはElton と並ぶ私の鍵盤ヒーローの一人)。(なお、このアルバムの発売が発表された頃は、インターネットで音源が公開されていた曲は1曲だけであったが、発売後の現時点では、ほとんどの収録曲の音源が各参加アーティストの動画サイトの公式チャンネルで無料配信されている。コンテンツ販売は予約販売程度で見切りをつけ、それ以降はコンテンツ自体の販売よりも聴いてもらうことを選ぶアーティストがアメリカでは主流になってきているものと思われる。)