鈴麻呂日記

50代サラリーマンのつぶやき

読書録「Think Simple」

・Think Simple アップルを生みだす熱狂的哲学
著者:ケン・シーガル 訳:高橋則明 監修:林信行
出版:NHK出版



ジョブズの死の前後から、この手の「アップル本」は花盛り。
まあアップルは今ピークにある企業の一つだと思うし、その成功の大きな要因が死亡したカリスマ経営者にあるのは間違いないからねぇ。
今後、アップルが今の「輝き」をどこまで維持できるのか、分かんないし。
ま、だいたいこの一連のアップル本の最大の目玉が、ジョブズ自身が「プロデュース」した伝記本だったりするしなぁw。



僕自身は「アップル信者」という訳じゃなくて、iPhone3GSからアップル商品に惹かれるようになった、遅れてきた「アップルファン」(iPodは使ってたけど、これほど「アップル」を意識するようになったのは、やっぱりiPhone以降だろう)。
そういう立ち位置だと、アップルのことを改めて「勉強」するのに、この手の作品はありがたい。
それに何はともあれ「アップル」を描くんだからね。
それなりにレベルの高い作品が多いってのも事実だと思う。



本書はアップルの広告を手がけた人物による「アップル/ジョブズ」論。
「Think different」を手がけたり、「iMac」の名付け親になったりした人物らしいから、作者自身もアップルの「魅力」の一端を支えていたのは確かだろう。
それでいて「広告会社」という、アップルの外部の組織に所属し、経歴的にはアップルのライバル会社(デルやIBM
、インテル)とも仕事をしてきたって立ち位置が、本書に特徴的な視点をもたらしていると思う。
もっともアップルを評価するのに対し、仕事を貰ってたのに他の会社に対して厳しすぎるんじゃないかなぁとも感じたけどね。
見方を変えると、「アップルの本質を分かっていながら、それを他の組織に活かすことはできなかった」人物ともいえるか、意地悪く言えばw。
まあそんなに簡単なことじゃないわな。



作者は本書でアップルの根底にあるのは「シンプル」に対する(徹底した)情熱であると定義し、そのポイントを以下の「10」にまとめている。
「容赦なく伝える」
「少人数で取り組む」
「ミニマルに徹する」
「動かし続ける」
「イメージを利用する」
「フレーズを決める」
「カジュアルに話しあう」
「人間を中心にする」
「不可能を疑う」
「戦いを挑む」
最終章でこれらについては要領よくまとめられていて、ポイントはそこに集約されている(シンプル!)。
でもそれだけじゃ、多分この「哲学」を身につけることは出来ないんだよね。
だからこそアップルのライバル社もフォロワーも、アップルほど上手くやることが出来ていない訳だ。



「Think Simple」とは何か?



それが浮かび上がってくるのはアップルにおけるジョブズの振る舞いや方針、あるいはアップル商品そのものが体現する「哲学」を通じて・・・である。
僕は遅れてきた「アップルファン」として、ジョブズやアップルを巡るエピソードが読みたくて本書を読んだんだけど、その興味を本書は十分に満たしてくれた。
そしてその過程を通じ、「Think Simple」の意味するものが何なのか、何となくつかめたような気がする。
そういう意味で本書はナカナカ面白く、良く出来た作品だと思うな。
もっとも、気がしたって、それが実践できるってワケでもないんだけどねw。
そこに「Think Simple」の深遠さがある。(時にジョブズ自身でさえ「複雑さ」に囚われたことがあった位)



アップルのマーケティング戦略は日本では米国とは異なる部分があったろうから(CMとか)、ちょっと距離感を感じるようなところはあるかもしれない。
それでもマーケティングにおいても卓越したところのあったアップル/ジョブズの姿を垣間見、その向こうにビジネスにおける一つの強力なスタイル(Simple)を考えるという点で、本書は意義のある一冊だと思う。



まあ、個人的には最近本書がkinoppyで電子書籍化されたのがショックだったけどねw。
400円、安いんだもんなぁ・・・。