パラカロ流実践多言語習得術 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2011-10-23

aspectdigitalmedia+parakaro2011-10-2

第45回:ヨーロッパで導入が始まっている「言語監査」とは何か?

今回は、これまでの話の流れから少し外れますが、今ヨーロッパで導入が始まっている言語教育をめぐる新しい潮流についてのお話です。この機会にちょっとだけお話しておくことが、この後の話を理解するうえで大切だと思われますので、おつきあいください。

<言語監査、言語管理>って何?

いきなりですが<言語監査>または、<言語管理>という言葉があります。聞いたことがありますか? 不思議な響きの言葉です。私たち自身も最初この言葉を耳にしたときは、いったいどのようなことなのか、どのようなものなのか内容をイメージすることさえできませんでした。<会計監査>という言葉はよく耳にします。なんとなくイメージできます。しかし、<言語>と<監査>はまるで無関係です。しかし、すでにヨーロッパでは市民権を得つつある考え方なのだそうです。

企業のグローバル戦略がわかる指標

わかりやすい例で説明しましょう。皆さんは投資家だとしましょう。今度ヨーロッパの企業のうちどれかに一つ投資しようと考えています。半導体のインド系会社アサンキャか、あるいはインド資本のフランスの薬品会社バイオネックスにするか迷っているところです。

いろいろ周りに相談したところ、投資の世界について知識も経験もある人がいて、いくつかの会社のリストを持ってきてくれたと想像してください。皆さんがいくつかの条件を出しておいたのでその条件にあう会社を挙げてくれたものとしましょう。実際会社の内容を見ると、業種こそ違いますが、投資先としては一長一短があり、どれも目移りがします。

ふと、条件欄の片隅に<言語監査>のタイトルがあり、そこにさまざまな情報が書かれていました。

  • 社内の言語教育についての基本方針
  • 言語の種類について
  • それぞれの言語教育のコース及びカリキュラム
  • 言語教育を担当している部門の責任者
  • 言語の種類と能力別に分類した社内スタッフ一覧表
  • 各拠点に配置された要員のデータと言語能力 etc.

つぶさに見ていくと、ある会社には詳細な情報が記載され、ある会社のものはないとか、若干名とかの記載があるだけであることがわかってきます。

読んでいくうちに、皆さんはこれらの情報が何を意味しているのかが、だんだんわかってくることでしょう。<言語の種類>や<社内スタッフ一覧表>で、皆さんはこの会社のグローバル化の度合いを知る資料とすることができますし、<コース及びカリキュラム><部門の責任者>が明記してあることで、この会社の海外でのビジネスに対する姿勢を読み取ることができます。また、<基本方針>の内容が、それぞれの教育活動を統合し、ある一つの方向へ向かわせようとしていることがわかれば、かなりな程度この会社の方針なり、将来性を知る参考とすることができることに気がつきます。

中には、今後発展が大きく見込まれる国に多くのスタッフを投入している会社もあれば、何でこんなところにこれだけ人間が必要かと思える要員を配置しているところもあります。

<言語監査>の条件欄をつぶさに見ていくと、「どの会社が、グローバル戦略に積極的か、またアドバンテージがあるか」がわかるのです。最初の投資の話に戻りますと、<言語監査>を参考に、結局、最初のインスピレーションで考えていた半導体のインド系会社アサンキャを選ぶことを取りやめて、同じインド資本のフランスの薬品会社バイオネックスにするという判断に達するということがありえるのです。

企業の言語能力が、株価に影響を与える時代がやってくる!

この話からわかるように、<言語監査>とは、その会社が言語に対してどのようなスタンスで関わりながら企業活動をしているかを知るためにさまざまの観点から調査をすることです。ちょうど、会計監査が会社の経営が健全かつ、法にのっとって行われているかを調査するのに似ています。法にのっとっているかの部分が、やや違いますから<言語調査>という人もいるようですが、内容的には以上のようなことをさします。

結論をいえば、会社の言語に対する取りくみは今後投資の対象を選定するための条件になっていく可能性があるということです。

日本でそのような状況が到来するのはまだ先のことかもしれませんが、将来的な<言語監査>のイメージを持ちつつ会社の言語研修プログラムを構築していくということは限られた範囲内での資金の有効利用という面でも意味のあることといるでしょう。

<言語監査>は、TOEICの点数では計れない

このような視点と、現在日本で一般的となっているTOEICによる言語能力の評価を比べていただきたいと思います。 

TOEICは、現在のところ、あくまで英語についての運用能力しか測りません。しかも、TOEICは、その英語の中でも主に描かれた英語の読解能力を中心にはかります。

領域は、ビジネス全般を覆っているように見えますが、決して深い内容についてではありません。何よりも、それは一機関が設定した評価基準に基づくものです。その評価基準を千差万別の目的で活動している企業が、一律に採用してみても、活用の幅には限界があるでしょう。わかりやすくいえば、使いこなしにくいのです。

<言語監査>の視点で、日本の企業を考えてみる

これに比べると<言語監査>が見ようとしていることは、言語についての各企業の方針と具体的施策なのです。この視点で現在の日本企業の状況を見てみましょう。日本の企業といっても漠然としていますから、ここでは仮に「TOEICのスコアを会社の課長やあるいは駐在員レベルになるための判定条件の一つとしてあげている企業」としてみましょう。ここでは、500点以上とか、600点以上とかの具体的な数字目標を掲げている企業から、最低でもTOEIC受験を条件としているぐらいまでの幅広い意味で考えることにしましょう。少なくとも投資家からは以下のような鋭い質問がぞろぞろと出てきそうな気がします。

Q1.皆さんの会社は、英語圏以外への進出もしており、最近の傾向ではインドを含むアジアや南米への進出が盛んになってきていますが、この地域の言語は英語ではありません。にもかかわらずTOEIC一つを言語運用能力を測定する尺度の中心に据えているのはなぜですか?

Q2.課長以上の人々は海外派遣される時点で英語が話せるとの想定なのでしょうか? 現地で働く課長レベルにある社員の英語運用能力を測るために実際にどのような施策を行い、その結果に基づいて判断しているのですか?

Q3.実際の業務は、製造現場で行われる仕事内容の落とし込み業務が多い時期のように思われますが、このことは、たとえ課長レベルの人に英語の会話能力があったとしても、実際に使われるのは現地の言語である可能性が高いと判断するべきではないですか?

Q4.製造現場での日常業務におけるコミュニケーションを通訳に頼っておられるのですか?

Q5.通訳が皆さんの業務内容をしっかり伝えるのに十分なレベルであることを証明する何かの資料がありますか?

Q6.通訳の処遇と情報の漏えいに対する対策はどのような形がとられていますか?

もちろん、とりあえずではあってもTOEICを何らかの評価基準として採用しているところはまだ改善の余地があるとも判断できるでしょうが、全く対策が採られてないというのであれば、問題外です。リスクはこの上なく高いと判断されることでしょう。

そして、皆さんがこの会社に投資するべきかどうかを決める立場にあるのだとすれば、果たして投資に値するでしょうか?

<言語監査>または、<言語管理>については、これから重要な問題になっていく可能性が高いので、また機会を改め、より適切なところで詳しくお話しする機会を持ちたいと思います。

次回は、今、現実に起こっている「海外進出」の中身の変化について、感じていることをお話したいと思います。

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