2011-07-12
思想としての「無印良品」
読書 |
『思想としての「無印良品」』(深澤徳)読了。
消費者から生活者へ。
- 作者: 深澤徳
- 出版社/メーカー: 千倉書房
- 発売日: 2011/06/15
- メディア: 単行本
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目次
はじめに
序章 「無印世代」として
第一章 無印良品の沿革
1 前史
1・1プライベート・ブランドからの軌跡
1・2 開発の方向性
1・3「戦略」のパースペクティブ
1・4 目指される生活者像
2 草創期
2・1「無印良品」の名指すもの
2・2「わけ」という文脈の創造
2・3 波及
3 発展期
3・1青山店と専門店展開
3・2独立と海外進出
3・3 バブル崩壊と順風
4 現在から未来
4・1初めての危機
4・2感性から科学へ
4・3試みと挑戦
第二章 「無印良品」という思想
1 「反体制」の意味
2 「私」の浮上
4 パーソナル化と西武/セゾン文化
5 所有から編集へ
6 コンテンツからコンテクストへ
7 原点の所在
9 日本の在り処
第三章 両義性としての「無印良品」
1 「生活者」と「虚焦点」
2 「両義性」
「顔は宇宙だ」に行ってきたときに、渋谷パルコのリブロで偶然見かけたのがこの本。これ、すごくおもしろい。単に「モノを売るにはどうすればいいか」を考えるだけだと、そんなにおもしろくない。でも、そういうモノが売れるのはどういう社会があるからで、それだけ売れているのはどういう思想が根底にあるからなのか?ということと行ったり来たりしながら売り方を考えるのは、かなーり興味深い。
無印良品の歴史を概観しよう。プライベートブランドが林立する80年代にスタートした無印は、「ブランド物」に対するカウンターカルチャーとして成功を収める。90年代はまさに無印の時代となるが、00年代に入ると低価格競争やデザインの凡庸化により失墜する。現在は原点に立ち戻り、回復傾向にあるとか。
無印が目指したものはいったいなんだったのか?なぜ80〜90年代にあれほど成功したのか?その根底を流れる思想とはなんなのか?そういったことを紐解いている。
「顧客層を囲う」のではなく、「顧客像をつくる」
マーケティングというのが、そもそも、既存の市場を見て、個々の顧客層には「こういうのが売れそうだな」ということを考えることだ。しかし、無印の発想は違った。
「思い入れ」をともに具現化する消費者像、すなわち「新しい豊かさ」をともに拓いてゆける、まったく新しい感性や価値観をもった生活者であり、世間的な既定の値打ちや価値にとらわれることなく西武とともに豊かさの新しい形を発見できる人々といった、産業偏重・経済重視の既存社会のオルタナティブとして求められるべき生活者像を確立しようというのである。
かと言って、消費者像を押しつける、ということとも違う。若者に車が売れなくなったから、SNSで直接若者に車を買うよう呼びかける、というニュースがあったけど、それで、誰が買うのだろうか?
無印が求めたのは、80年代までの時代を支配していた「豊かさ」を否定し、新たな「豊かさ」を打ち立てること。ブランドのロゴマークさえついていれば、皆が盲目的にそちらへ大挙して向かうような、そうしたモノさえ持っていれば豊かだ、というような時代が終わりを告げつつあると感じ、また、そうであるべきと考えたのだ。生活用品を提供するメーカーが、いかにして新たな時代の「豊かさ」という思想をリードしてきたのか、そのようなケーススタディとして読むことができる。
お気に入りMDをつくる感覚
もちろん、無印がリードした、というのは大げさであるが、消費者の新しい選好性とうまく一致したのは確かだ。じゃあ、それは具体的にどうゆう思想なのだろうか?一言で言えば、お気に入りMDをつくる感覚である。僕が高校生の頃はMD全盛期で、CDから好きな曲を寄せ集めて、お気に入りMDをつくっていた。本書ではお気に入りカセットテープをつくると書いてあったが、そこら辺は時代の違いである。今だと、iTunesのプレイリストか、ニコニコ動画の作業用BGMだろうか。昔より共有のハードルが下がったと言える。
これは、すでにストーリー(=ブランド)を持つなにかを所有する欲求ではなく、ストーリーを持たない要素を自分で集めてきて、自分なりの文脈をつくることに対する欲求だ。編集する欲求と言っても良い。本書には言い得て妙な話があった。
それまでのニュー・ミュージックは、例えば一人の女性の恋愛をストーリー的に歌い上げるようなものだったのが、J-POPと呼ばれる音楽が台頭すると、その歌詞は脈絡の無い断片的なシーンや気分を表現するものになる。
だから、一曲一曲を自分のスタイルのなかに組み込み、その文脈でのみ意味を持つ一曲になる。ある曲が好きな人が集まっても、同じ感覚を共有しているとは限らない。むしろ、僕らからすれば、そうでない時代があったことのほうが、やや不思議ですらある。
ともあれ、そうした方向に移行しようとする社会において、文脈を持たない、ただの要素としての無印製品が広く受け入れられたのは「時代を捉えた」という言葉で片付けるには、少し惜しい。
しかし一方で、編集するのは、基本的に楽しい行為だが、同時にエネルギーを必要とする。すべての分野で自分の文脈をつくっていたら、ヘトヘトに疲れてしまう。そこで、選択と集中だ。自分の興味のある分野では文脈をしっかりつくるが、そうでない分野においては文脈を外注したい。もちろん、それなりに「自分」という文脈に沿うように。そう考えるワガママな消費者も多いはずだ。現に僕はファッションは外注したいくらいだ。そういうニーズを捉え、編集者としてのロールモデルを提供するようなビジネスは成功しやすい社会かもしれない。
消費者と生活者
無印は、顧客を「消費者」ではなく、「生活者」として捉えている。「顧客層を囲う」のではなく、「顧客像をつくる」のだ、という思想の根底にあるのがこのアイデアである。「生活者」という言葉のイメージは、庶民的な生活をする個人、というようなものだが、本来的な意味はそうではない。本書では、天野正子の定義を引用している。
「生活者」とは、「少数の芸術家や学者のつくった文化を享受する立場」おかれた受動的な「文化生活」者ではない。生活文化の創造(生産的文化)に参加する「芸術家」こそが生活者なのである。
『「生活者」とはだれか 自立的市民像の系譜』天野正子著
こうしたスタンスは共感できる。以前、「モモ」で有名なミヒャエル・エンデの父エドガー・エンデも、「今日の読者の態度は消費者的」だ、芸術の接し方が受動的になっているのではないか、という危機感を示していた。
消費者的な態度の生活に飽き飽きした生活者。そうした生活者像を理想とした無印。両者の目指す方向性の一致が、無印良品をつくりあげたということだ。
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