見てみたい大地の風景

「日本の地形・地質」(北中康文・斎藤眞・下司信夫・渡辺真人)読了。
観光地まで自分の足で辿りつく人は多いかもしれないが、自分の頭で辿りつく人はどれくらいいるのだろう?図鑑であると同時に旅行ガイド。カルスト地形から地熱発電所まで。もっと深く、もっと楽しい旅をするために。

日本の地形・地質―見てみたい大地の風景116 (列島自然めぐり)

日本の地形・地質―見てみたい大地の風景116 (列島自然めぐり)

 旅行の「おもしろさ」は変わりつつある。これまでの旅行というものは、用意されたものを受け身的に浴びることだった。観光バスでやってきて、添乗員の解説を聞きながら、定番のモノをお決まりの順序で見ていくのだ。しかしもはや、そういった旅行は「豊か」ではない。豊かな旅、ほんとうに価値のある旅行というのは、そういうものでなくなりつつある。豊かな旅では、僕らは見るべき対象を自ら掘り出しに行くのだ。
 本書もそういう流れの一環と言える。ジオパーク、地質百選、世界遺産などから、地形・地質に関連するスポットを紹介している。そのラインナップは、フォッサマグナから崩壊地、地熱発電所まで。単なる図鑑ではなく、図鑑であると同時に、ガイドブックも兼ねているのである。
 一昨年、屏風ヶ浦を見に行ったときのことを思い出す。その旅は銚子に行くためでもなく、海水浴に行くためでもなく、ただ、屏風ヶ浦を見に行ったのである。当然、いろいろと勉強することになる。そもそもなんでこんな地形ができたのだろう?どうやら神奈川県にも似た地名があるようだ。化石って簡単に取れるのだろうか?
 こうして疑問は積み重ねられ、知識はインターネットから脳内の一時ファイル置き場へストックされる。そして、屏風ヶ浦の前に立つとき、ただの崖は、1億年スケールの厚みを持った「屏風ヶ浦」となって僕の目の前に現れたのである。
 旅はこうでなければならない。自ら探し、自ら求める過程にこそ「楽しさ」が宿っているのであって、そうでなければ、どんな不思議な地形も無感動なまま通りすぎてしまう。本書は、そうならないための、自発的な旅を楽しめるガイドブックとして意義深い一冊である。
 まあ、そうであればこそ惜しいとも思うわけで。マニアじゃなくて一般読者を対象とするなら、地質以外の山も森も湿原も(すべて続刊予定)ぜんぶ興味の範疇だろうに。地域別に分けて「見てみたい東北の風景」とかにしたほうが良かったんじゃないかな?さらに言えば、横軸をカテゴリ(山・森・地質とか)、縦軸を地域にして、関連する項目を興味に応じて縦横断できる仕組みとか。こういうの電子書籍でできるんじゃないの?読んだページからオススメルート検出、とかさ。あと、デザインがちょっと古いというかマジメというか。もっと新鮮な感じにならないかな、というのは思うところ。なにげに続刊予定の「日本の川」が気になりすぎる……
本書は、本が好き!経由、文一総合出版様から献本いただきました。ありがとうございました。