ぬいぐるみデー

 金曜日は娘のクラスの「ぬいぐるみデー」。お知らせに「お気に入りのぬいぐるみを持って来てください」とあった。最初はピンクのユニコーンのぬいぐるみを指さした彼女だが、「やっぱり、くまちゃん!」と即座に思い直す。くまちゃんは赤ちゃんのときからいっしょにいる、クリームがかった薄茶色タオル地製のテディベアである。
 偶然にも2、3日前、『くまのオルソン』を読んでと唐突にリクエストされた。「これは、くまちゃんといっしょに読まなくちゃ」と言って、くまちゃんも抱えていた。へえ〜、これ、なかなか渋い絵本なんだよ、どうして突然?と思ったけれど、くまちゃんを見て納得。この絵本には、彼女のくまちゃんそっくりの小さなくまのぬいぐるみが登場するのだ。覚えていたんだね。
 これは、体が大きくて森の仲間から恐れられているくまのオルソンの、ちょっぴり寂しく切ないお話である。友だちのいないオルソン。けれど、小さなくまのぬいぐるみに出会って以来生活が一変し、毎日がばら色になり始める。嬉しそうなオルソンの笑顔を見て、まわりの動物たちはびっくり。くまのぬいぐるみはしゃべらないけれど、オルソンは小さなくまがまるで生きているかのように話しかけた。このあたり、孤独な人間の生き方を示しているようで、オルソンは幸せそうなのに読者は至極寂しい。最後の一場面がとてつもない驚きと明るさを与えてくれ、あたたかい救いにはなるのだけれど。何かこう、哀愁おびた現代ヨーロッパ映画を想起させるような流れ方で、終わり方もそれ風。作者たちはベルギー人なので、これはこれで納得か。米国にはないタイプの絵本だ。
 大人向きの絵本かなと思っていたけれど、いやいや、子どもも十分に受け取っている。最後の場面は、娘のリクエストで、実際に演技をして何度も何度も再現することになった。
 まるで「ぬいぐるみデー」のことを知っていたかのようなタイミングで読めた絵本。もしかして、知っていたのかな?彼女は――。いってらっしゃい、楽しい「ぬいぐるみデー」を!(asukab)

くまのオルソン

くまのオルソン

四季の絵本手帖『さんびきのくま』

The Three Bears

The Three Bears

 はっきりした絵とわかりやすい言葉で、有名なロシア民話を語る絵本です。ストーリーテリング(語り)に見られるようなシンプルで短い表現が明るいイラストとほどよく調和し、お話のおもしろさをいっそう引き立てています。
 緑茂る森の一軒家に慎ましく暮らすのは、くまとうさん、くまかあさん、くまぼうやの三匹のくまたちです。ある日のこと、熱いおかゆが冷めるまでくま一家は森へ散歩に出かけますが、彼らの留守中にひょっこりやってきたのが金髪の女の子、きんいろまきげちゃんでした。
 かわいらしい女の子は見かけによらず大胆な行動を取るので、子どもは彼女に釘づけです。おかゆのにおいに誘われて家に入りこみ、おなかがすいていたとはいえテーブルの上に置かれていたおかゆを食べてしまうなど誰が想像できたことでしょう。ところが、家の中での自由奔放ぶりは同時にくま一家のささやかな暮らしを紹介することにもなり、子どもは滑らかな繰り返しのテンポのよさに魅せられてしまうのです。三匹の生活用品は質素で温もりに満ちた日々を反映していて、家庭のあたたかさを示します。子どもにとり、おわん、スプーン、椅子、ベッドなどに見られる大中小の大きさの相似形は興味深く、無意識のうちに「親子」の姿を重ね合わせていることでしょう。
 くま一家が帰宅して女の子はいったいどうなったのか、後日談を考えることも楽しいひとときとなります。女の子の残していくお花が、彼女の茶目っ気に親しみやすさを添えています。(asukab)

爆笑、ある猫の悪たれぶり

 久々に涙を流して笑ってしまった。『あくたれラルフ』である。息子のバイオリンの練習中に傍らでこの始末だったから、もちろん昨晩の彼のリクエストはこの絵本だった。ジャック・ガントスという名前は、米国の小学生であれば、あちらこちらでよく聞く名前だ。たくさんの児童書を出している著名作家なので、絵本となれば注目せずにはいられなかった。
 タイトルと表紙から察することができるように、これは一匹のいたずら猫の話。そのいたずらが度を越しているので、悪たれなどと呼ばれている。イラストが最高に笑わせてくれる。やっていることもそうだが、その表情がまさに「悪たれ」で、けれどもなぜか憎めない。でも、人生そうは問屋が卸さなかった。堪忍袋の緒が切れた飼い主家族は、ついにラルフをサーカスに置き去りにしてしまうのだ。ここからのラルフは、人生の辛酸をなめることになる。
 このサーカスの人々が愉快で、わたしは石井桃子さんの訳にしびれてしまった。「うでっぷしのつよい あんちゃん」「おい わけぇの、ここじゃ、だれでもみんな はたらくんだ」……意気のいい表現が場面にぴったりで泣けてくる。瀬田貞二さんの訳にもこういう表現が多くて、いつも魅せられる。何と言うか勢いがあり、艶のある表現だなあと思う。
 息子の好きそうな絵本だと思っていたけれど、その通り。「絵がおもしろい。僕もこういう絵、描くから」と満足していた。うちにも、猫ちゃんはいたしね。近所にもたくさん住んでいるから、見かけるたびにラルフの悪たれぶりが目に浮かんできそうだ。英語では、たくさんシリーズが出ていて驚いた。(asukab)

Rotten Ralph

Rotten Ralph