みんなの1年

 「今年クラスでいっしょに読んだ本の中から、1冊を選びなさい。その本について、絵と文で教えてください」――これは、昨日娘が取り組んだ宿題の課題である。彼女は本を選ぶのに四苦八苦。その間わたしは、もう1年が終わるんだと実感した。あと10日ほどで夏休みが始まり、9月第1週まで2か月半の間、子どもたちは自由の真っ只中となる。
 選んだ絵本は『あかいはっぱきいろいはっぱ (かがくのほん)』。この仕掛けコラージュ絵本は子どもだけでなく、一瞬で誰の心をも捉えてしまうパワフルな力を持つ。女の子が砂糖カエデの1年の成長を語るだけのお話だが、こういう包み込む力を持ち合わせる絵本って、なかなかあるものじゃない。この魅力は、確かな「絵」の力が存在する証拠でもある。砂糖カエデの甘い香りが漂ってきそうな表紙から察っせられるように、もちろん秋に楽しむのが一番だろう。でも、成長を追う絵本だから、もちろん春から夏にかけての、青々と葉の茂るさわやかな季節も描かれている。そうだね、1年を振り返るには、ぴったりの選書かもしれない。娘は実物の枝や種と切り絵の葉のコラージュに引かれるようで、特に実写のカエデの種探しに夢中になる。カエデの種は子どもたちの間ではへリコプターと呼ばれ、宙に投げるとくるくる回りながら着地する。
 そういえば、昨秋クラスで読んだ同じ作者によるもう一冊『Planting a Rainbow』(邦訳『にじのはなをさかせよう』品切れ?)にも、娘は随分魅せられていた。これは球根や種を植えて虹のような色合いの花壇を作ろうというお話で、彼女はしばらくの間、虹色に並んだ花や花束の絵を描き続けていた。自然の彩って、美しいね。
 今朝は快晴。2泊3日の学年末キャンプに出かけた息子は、きっとこの青空を見て大喜びしていることだろう。4・5年生たちは昨日から、海流の関係でそこだけ暖かくなるというwarm beach沿いのキャビンに寝泊りしている。家から北へ車で1時間ぐらいの所である。当地に梅雨はない。5月下旬から9月頃までは、基本的に真っ青な空と雲のまぶしいさわやかな夏が続くかわりに、秋から春にかけてはしっとり雨の多い土地である。新しく買ったハイビスカス模様の水色海水パンツが活躍しそうだね。無事、楽しい3日間となりますように。(asukab)

あかいはっぱきいろいはっぱ (かがくのほん)

あかいはっぱきいろいはっぱ (かがくのほん)

Planting a Rainbow

Planting a Rainbow

四季の絵本手帖『しろいうさぎとくろいうさぎ』

しろいうさぎとくろいうさぎ (世界傑作絵本シリーズ)

しろいうさぎとくろいうさぎ (世界傑作絵本シリーズ)

 森の中に、白いうさぎと黒いうさぎが住んでいました。2匹はいつでもどこでもいっしょです。ひなぎくやきんぽうげの咲く野原でなかよくかくれんぼをしたり、飛び跳ねて遊んでいました。子どもは、なかよし2匹の姿にまず安らぎを覚えます。友だちだからお互いいっしょにいたい気持ちは、そのまま自分の日常でもあるからでしょう。
 クローズアップのうさぎ、遠方に描かれるうさぎ――2匹はどこでもいっしょに描かれるので、彼らが今までにない表情で別々に登場する突然の場面に、子どもは「どうしたのかな」と不安を抱くかもしれません。笑顔は子どもの生活で重要な役割を果たすので、黒いうさぎがときおり見せる悲しそうな表情も気になるところでしょう。 
 黒いうさぎの笑顔のない表情は、幸せがいつまで続くかわからない不安から生まれていました。それならいつまでも一緒にいようと、素直に「好き」という気持ちを具現化するうさぎたちは幸せそのものです。誰にとっても、好きな人、居心地のいい人といっしょに時間を過ごすことは、人生においてもっとも大切なことに変わりありません。
 春の草花の香りがわたる野原は、「好き」の気持ちが何乗にも膨れ上がりそうな開放感に包まれています。たんぽぽの黄色がくすんだ彩色の中でひときわ目立ち、2匹のうれしい気持ちを象徴しているかのようです。(asukab)

『しろいうさぎとくろいうさぎ (世界傑作絵本シリーズ)』によせて

 原書のタイトルは、『The Rabbits' Wedding』(1958年発行)。教師や児童図書司書など米国で子どもの本をよく知る年配者にとり、この絵本は発売禁止絵本として印象に残っているという。何が検閲に引っかかったのか。理由は、1960年前後の当時の米国社会をよく反映している。白いうさぎが白人で黒いうさぎは黒人の象徴となり、当時社会的に避けられていた異人種間婚姻を説く絵本だと非難されたのだ。
 その後公民権運動が高まるわけだが、米国のたどった道は子どもの本にも色濃く影響を及ぼしていた。当時、この絵本を手にして憤慨した人々は、今、何をどう考えていらっしゃるのか。(asukab)

The Rabbits' Wedding

The Rabbits' Wedding