2008-01-07
ゴールデンスランバー / 伊坂 幸太郎
「まあ、でもな」青柳雅春の父が表情を緩める。「こっちはどうにかするから。母さんもそれなりに元気だ。おまえもどうにか頑張れや」〜略〜「まあ」と続ける。「雅春、ちゃっちゃと逃げろ」(第4部内)
本作は、仕組まれた首相暗殺事件の犯人に仕立てられた男(青柳雅春)が、必死の逃亡劇を繰り広げるお話。伊坂幸太郎の最新作
物語の導入となる一部と二部は短く、そして三部で「事件の20年後」をサラッと語り、ここまではすっかり傍観者視点の文章。そこから一転し主人公視点の第四章に突入することになる。そこは500ページの本作の8割以上を割いたヤマ場とヤマ場の連続するジェットコースターストーリー。あっという間に引きずり込まれ、読んでいる自分も逃亡者気分である。
逃亡する青柳雅春が遭遇するのは泣き出したくなるような不条理な事態の連続で、こっちまでくじけそうになるが、これまたありえない登場人物が彼に向けて差し出す手と、眼差し、そしてなんといっても青柳雅春やその仲間の心温まる(!?)回想シーンが僕のページをめくる手を動すエネルギーとなっていった。また、ところどころに仕込まれたニヤリとする文章にはいかにも伊坂幸太郎氏らしい。
「本当にすみません。こんな迷惑なお願いで。でも頼れる人がいないんですよ。全然、ロックじゃなくてすみません。」しきりにアタマを下げる青柳雅春に、岩崎栄二郎は低い声で、「いやあ、ロックだよ」と、けたけた笑った。(P302)
すっかり逃亡者気分で先を急ぐ僕は、右ページが読み終わらないうちに左ページを読むなどして(ォィ!)、青柳雅春に追いつこうと走り続けるが、物語も後半に近づくと、青柳雅春と一体化した(と勝手に思い込んでいる)自分がだんだん彼に追いつけなくなってくるのがわかる。
それは、事件とは無関係のはずの自分が下す"最後の判断"に至るまでの主人公の気持ちの変化には迫力にあったからだ。この気持ちの変化は読み応えアリなのではないかな。
最後に一つ。僕的に残念だったのは、(1) 伊坂ワールドに登場してきたキャラがこの作品とはリンクしていないように感じたこと (2) ケネディ暗殺事件について自分が無知であること (3) Golden Slumberという曲についても無知であること かな。
そのへんを甘く見るとしても、僕の中ではラッシュライフに軍配かなと思う。しかし、伊坂ワールドは健在だし、楽しさだけでなく作者の知性をも感じ取れる上質な秀作と思う。
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