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あーとの祭り(知りたいキミと知ってしまったアナタのために) このページをアンテナに追加

2009-12-24

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『いもむし男』(81)天井の穴と夢-3

【n2】

「そやろ?」彼が素直に従ったので岡鬼は満足げに頷いた。「あんさんはスタートラインに立ったばかりなんやから、色々慎重にならなアカンで。さっきみたいな発作が頻繁に起こるようやったらな、一度医者に診てもろた方がええ。親父さんも心配しとったで。箸が転んでもびびるような子やったからなぁ言うて・・・」

「親父?」翔吾は耳を疑った。「なんで、ここでいきなり親父が出るんですか?ずうずうしい」

「ずうずうしいて・・・」岡鬼は太い指で太い首の後ろをポリポリと掻く。「そやけど、あんさん、未野明雄画伯の息子やろ?珍し苗字やからすぐわかったわ。親父さん、今、京都で個展やっとるんや。ワシの仲間のギャラリーやから、ちょっと覗きに行ってな。そん時たまたま画伯に会うたんで、これこれこうで、今度息子さんの個展すんねんで言うたら、なんやあいつ生きとったんかいなって、えらい驚いとったわ。あんさん、15の時に家を出てから一度も帰っとらんそうやないか。親父さん、寂しそうやったで。たまには連絡してやりや、余計なお世話やけど」

「で・・・」翔吾は横を向いて軽く咳払いをした。「親父は、どんな絵を出してました?」

「絵ぇか?ま、こう言っちゃなんやけど、いわゆる、フツーの風景画やったな。山の絵が多かったわ。会社の応接間にも病院のロビーにも合いそうな・・・それと、裸婦画を何点か出しとったが、あんさんのデッサンと違うて色気は無かったな」岡鬼は太い指でアンパン顔のダンゴ鼻を擦る。

「なんだ・・・20年前とちっとも変わらないんだな」親父は女ったらしの癖に描く絵はちっとも色っぽく無いところが昔から不思議だった、と翔吾は思った。「それで、親父の傍には誰か居ました?若い女性とか」

「ああ、そういえば」岡鬼は探るような目付きになる。「30になったかならんかぐらいのベッピンがおったな。ワシの好みのタイプとちゃうけど・・・あんさんの妹っちゅう感じやなかったなぁ。新しい嫁さんかもしれんが・・・あんさんは、おっ母さん似やろ?」

「俺?・・・さぁ?どちらかといえばそうかな?」

岡鬼は大きな体を屈めて翔吾の耳元に囁いた。「おっ母さん、今、独りなんやったら、ワシに紹介してんか?」

翔吾は上体を仰け反らして相手をしげしげ見つめ、「あいにく、今、独りかどうかは知りません」と答えた。

「なんや、おっ母さんにも逢うとらへんのかいな」岡鬼はがっかりして肩を落とす。「薄情な奴っちゃな」

翔吾は一端足元に視線を落とし、もう一度相手を見上げ、「じゃ、今日はそろそろ失礼します。ポスター、楽しみにしてます」と頭を下げた。それからずっと黙って傍に立っていた槍杉に、「さっきは笑ったりして悪かったね。記事をありがとう。感想は、また今度、言うから」と伝えた。槍杉は慌ててファイルから『21世紀アート』を取り出し、翔吾に手渡す。

「あの、先生、いや、未野さん、お体、大事になさってくださいね。私、未野さんの、ファンなんですから」槍杉は改めて正面から翔吾を見つめ、顔を赤くしてモゴモゴ呟いた。「・・・あんな、凄エロいデッサン描いたのが、こんなコワカワイイというかカワコワイイ方だなんて、私、もう、びっくりしちゃって・・・このギャップはネタになるな、なんて、それで、実は勝手にお写真撮らせていただきました」

「写真?いつの間に?喪服なのに?」

「あ、大丈夫ですよ」槍杉はヘラヘラ笑いながら顔の前で手を振った。「今はCGで、オリンピックだって作れちゃう時代ですからね。喪服脱がして、アロハシャツ着せるなんてわけないです」

「なんで、喪服からいきなりアロハシャツになるんだ?」翔吾は顔をしかめた。「せめて普通のコットンシャツにしてくれよ。出来れば緑色の細かいチェック柄の奴」

彼が出す注文を、槍杉は真剣な表情で手帳にメモした。

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