藤本大学~徒然なるままに(弁護士ぎーちのブログ)

ぎーち(弁護士藤本一郎:個人としては大阪弁護士会所属)のブログです。弁護士法人創知法律事務所(法人は、第二東京弁護士会所属)の代表社員です。東京・大阪・札幌にオフィスを持っています。また教育にも力を入れています。京都大学客員教授・同志社大学客員教授・神戸大学嘱託講師をやっています。英語・中国語・日本語が使えます。実は上場会社の役員とかもやっていますし、ビジネスロイヤーだと認識していますが、同時に、人権派でもあると思っています。要するに、熱い男のつもりです。

訴訟を提起し、記者会見に参加しました。


 私が弁護士バッチを着けることは余りないのですが、今日は司法記者クラブでの記者会見に参加するということもあり、珍しく弁護士バッチを着けて裁判所に行きました。


 今日原告訴訟代理人の1人として提訴した訴訟は、所謂震災廃棄物の広域処理について人格権・環境権侵害を理由として、差止・損害賠償を請求する訴訟です。被告は、大阪府及び大阪市、原告は大阪府民・市民を中心とする260名の市民です。


 その会見の中で、一緒に原告訴訟代理人を務める吉田弁護士が、「地域エゴだという議論を乗り越えたい」(すみません、メモを取っていないので、表現は正確ではありません)という趣旨の発言をしたところ、記者の1人から、

「私は、この訴訟は地域エゴだと思うが、乗り越えるとはどういう意味か?震災廃棄物は、どこかで処理しなければならないと思うが、大阪はダメ、じゃあ福島でやるとなれば、福島の人はどうなるのか?」

という趣旨の質問がありました。


 私は、余り司法記者クラブでの会見に慣れていなかったので、こういう記者の私見で質問が飛んで来ることに少し驚きを覚えたのではありますが、この問題は、「絆の美名」のもとで現在行われている広域処理問題の本質に関わる問題だと思うので、私なりに私見を述べようと思います。


 まず、出発点としては、震災廃棄物であれ、原子力発電所の廃棄物であれ、およそ放射性物質を含有する廃棄物を安易に焼却処理すれば、いずれにせよ周囲に、一定量放射線を放出します。既に御理解頂いていると思いますが、被曝については、多くなればなるほどリスクが増加するもので、所謂「閾値」はありません。そうだとすれば、回避不可能なら別論として、震災廃棄物であれ、原子力発電所の廃棄物であれ、焼却処理せず、地下等で埋立処理することが基本であり、現に原子力発電所の廃棄物については、そのように処理されてきました。法令によれば、100bq/kg未満については「確認」の上、廃棄物処理法にいう「廃棄物」として処理できるように手当はされていますが、実際は、100bq/kg未満であっても、殆ど焼却処理はされず、放射性物質を拡散しないような措置が取られてきたものです。


 詰まり、今まで震災前は、放射性物質を含有する放射性廃棄物について、埋立を基本とする長期の管理保管処理ができてきた訳です。震災廃棄物についても、原則として同じようにするのが基本ではないかと思うのです。


 震災廃棄物は大量であり、それはできないと仰る方がいます。

 しかし、政府が今回13兆円という補正予算を突然組んだことからも明らかですが、1つの経済政策として、相当な金員をつぎ込むことで、管理保管処理を行うことは、決して不可能ではありません。少なくとも、全国で燃やしてしまう、拡散する、という方法よりは、「よりマシ」な方法があった筈です。吉田弁護士も、そのような様々な選択肢を想定することなく、震災後すぐの平成23年4月には、環境省が広域処理を計画した点を疑問視していることを、記者会見でも述べていました。


 記者さんのポイントとしては、大阪では焼却しない、しかしお前達原告団(それと、原告訴訟代理人の吉田弁護士にああいう質問をしたのですから原告訴訟代理人も含まれるのでしょうが)は、福島に保管するなら良いというのか?福島を犠牲に大阪が助かればいい、そう考えているのか?と仰りたいのだと思います。


 私は、大阪で埋立でも良いと思います。但し、セシウムは水溶性ですし、海はマズイです。また、管理の都合上、既に存在する六ヶ所村の保管設備同様、広大な土地が必要になると思います。周囲は立入禁止か立入を管理して、人々の健康を守る必要もあります。そういう場所を作るために、立ち退きをお願いする。その立ち退きの場所が、福島であれ、大阪であれ、適当な補償さえあれば、結局その立ち退く方の健康が守られるのですから、良いと思うのです。


 これは、原発の建設の場合にも似ています。原子力発電所を設置する場合、通常は人家の隣には設置しません。福島第一原子力発電所の敷地は、極めて広大です。放射性物質の拡散に備えて、広大な土地を準備し、そこにいた方は立ち退いて貰う、これがちゃんと行われるのであれば、大阪でも良いと思うのです。


 でも、今回大阪で焼却するにあたり、そういう嫌がる、健康に不安を覚える大阪府民・市民の立ち退きの補償なんて、されたでしょうか。健康に不安を覚える大阪府民・市民に、いったい何の代替提供があったでしょうか。

 
 福島から逃げてきた方の多くがお母様方だと聞きます。御主人は仕事の関係で逃げられない、と。勿論土地への愛着もあるでしょう。しかし、問題なのは、震災廃棄物広域処理には沢山のお金を使うけど、困っている市民ひとりひとりには、それは受忍限度だということで、何ら補償をしていないことではないでしょうか。


 福島でも大阪でも、より安全な、燃やさない選択肢ができた筈です。それを怠って、実際どの程度発生するかは分かりませんが、3万6000トンという大量の震災廃棄物を、大阪市此花区で焼却し、あろうことか、その(水溶性の放射性セシウムが濃縮されて含まれる)焼却灰を大阪湾内の施設に埋める。この処分が、選択し得る中で、より人々の健康被害を抑えた、より安全な処理なのでしょうか。


 放射能は、その仕組み上、全員に直ちに害悪を与える訳では、ありません。しかし、ロシアンルーレットは、誰に当たりをもたらすか、分からないのです。なるべく安全にやるべきだ、仮に危険があるなら、避難を含めた権利を認めるべきだ、この主張が、そんな「エゴ」だとは、私は思わないのですが。


 因みに、震災廃棄物の広域処理については、岩手県宮城県が対象で、福島県は対象になっていません。「本丸」には誰も手をつけていません。その結果、福島では、除洗(そもそも、除洗なんてそう簡単にはできないことが、チェルノブイリで証明されているので、除洗自体あまり効果的な手法ではないと思いますが・・・)後の放射性物質を川や裏庭に放置するという事例が続出しています。ホンネで議論するのであれば、こういった震災廃棄物の受け入れ場所は、なるべく人への害悪がない場所を候補地に挙げた上で、受入地の方に、移住も含めた十分な補償がある、安全・安心を最大限擁護する仕組みを提供し、福島も含めて議論すべきでしょう。いまの広域処理は、安全ではなく、かつ中途半端で、まさに「絆」の美名のためだけの実質のない処分に過ぎない気がしてなりません。


 私は、かつて京都で一市民として震災廃棄物焼却の反対運動をしていた際、それはおかしいという方からゴミを投げられたり、罵声を浴びたりしました。ただ、今回の記者さんもそうなのですが、その全員が男性でした。逆に若い女性には比較的共感して貰えたように思いました。もしかしたら、男性は、生物的に次世代を守るという思考が薄いのかもしれません。私は、放射性物質を拡散させないことは、地域エゴではなく、次世代を考慮した大事な連帯だと思うのですが・・・。


 厳しい戦いですが、被害が出てからでは遅いし、仮に出たとしても、1件でも被害を小さくしたいのです。待ったなしの戦い、なんとか、戦い抜きたいと思っています。