歯医者さん、恐い


歯医者さんに行ってきた。


というか、行かざるを得なくなった。年末ぐらいから、冷たいもの、熱いものがしみるようになってきた。が、虫歯になりやすい奥歯ではなく、どちらかというと前の方の歯である。ふつう、こんなところに虫歯ができるか、といいたくなるような部分だ。


だから、これは虫歯ではない。ちょっと疲れているから、一時的にしみるだけなのだ。とか、歯茎が弱っておるのかもしれんな。とか、もしかすると、これが噂の知覚過敏なるものか。などなど自分を誤魔化すためのいいわけを考えていたのだが、いつまでたっても治らない。


その間、ひどく熱心に歯磨きをし、特に痛みのある部分にはしつこいぐらいキシリトール入りの歯磨き粉を付けてガシガシやったり、同じくキシリトール入りのガムをしっかりと噛み込んだりもしたのだが。やはり、自分に正直に判断すれば、どう考えても症状が快方に向かっているとは思えない。むしろ日を追うごとに確実に悪化しているようである。


いよいよ歯医者へ行かねばなるまいか。と思いつつ、しかし、また、あのストレスフルな時間を過ごさねばならないのかと憂鬱に思っていた。


すると。


息子も歯が痛いと言い出したのである。これぞ天の助けというものだろう。一人では恐くて仕方がないのだけれど、子どもと一緒ならがんばれる。日頃、偉そうにしているお父さんとしては、嫌でも、それこそ歯を食いしばってでも「歯医者なんて平気だぜ」というところを見せなければ、親としての威厳がなくなるではないか。この機を逃すまじ。


ということで、一緒に予約を取った。


予約は一緒だが、診察時間は微妙に異なる。看護婦さんが来て「お父さん、先にされますか?」と聞くたびに「いや、子どもを先にしてやってください」と、早くもすこし逃げが入ってしまう。ま、だいたい10分ぐらいの時間差で診察室へ入っていくと、まさに息子の口の中に、あの悪魔のドリルがねじ込まれているところであった。


どちらかというと痛みには敏感な方である。血を分けたわが子の痛みは、まるで自分のことのように感じるのである。しかも、先生は「ちょっと痛いかもしれないけれど、がんばろうね。痛かったら手を挙げて」などとのたまっているではないか。察するに子どものこと故、麻酔は控えているのだろう。麻酔もかけずに、虫歯となった歯をチュイィ〜ン、ギュイィ〜ンなどとやられているわけだ。思わず奥歯をぐっと噛み締めてしまう。


心の中で「すまんなあ、お父さんに付き合わせてしもて。痛いやろうなあ、堪忍してや」と謝ることしきり。そのうち、こちらもまず歯の汚れを取りましょうということで、掃除が始まった。虫歯をいじくられるわけではないが、歯茎をキュンキュンされる。これがなまなかな痛みではない。どうしたって体に力が入る。隣の席で苦痛に耐えている子どものことを思えば、さらに体がこわばってしまう。


というわけで、掃除する間だけでも三回も「力を抜いて、楽にしてください」などといわれてしまった。とこうするうちに先生登場。「あ〜、虫歯ですね。ちょっと深いですね。しっかり治しておきましょう」などといいながらも、こちらには麻酔をかけてくれる。麻酔さえかかれば、こっちのもんである。あのイヤな音は聞こえてくるけれど、痛みはない。好きにやってくれ、てなものだ。


一通り治療が終わって待合室に戻ると、息子は本を読んでいる。心なしか元気がないようだ。さぞかし痛かったのだろう、こあかったのだろう、こういうときは慰めてやらねばと声をかけると、これがちっとも恐くなかったし、まったく痛くもないという。挙句の果てには「ぼく、歯医者さん、好きやねん」とまでぬかす始末。しかも「お父さん、ちょっとビビってたやろ」なんてこちらの様子を観察する余裕さえあったようで面目丸つぶれである。


なんてことを4回程繰り返した。最後まで息子は麻酔なしで治療され、いつ聞いても「痛くなかった」という。こちらは、ほぼ毎回麻酔のお世話になった。別に自分から頼んで麻酔をかけてもらったわけではないのだけれど、先生も人を見るのかもしれない。


そして、ようやく昨日が最終回だったというわけだ。実は息子の方が治療は早く進み、前回で彼はめでたく終了となった。ということは最後の一回は、自分一人で歯医者に行かなければならないということだ。これが先週末ぐらいから、ちょっと憂鬱の種となっていた。「一人かあ、いややなあ。一回ぐらいぶっちしてもええかなあ」などと思ったりしたものだ。


が、しかし。家人はこちらのそういう気持ちを先刻承知だったようで、前の夜に「明日の朝は、もし恐かったら一緒についてってあげるから」などと言われてしまった。そこまで言われちゃ、もう退路は完全に断たれたようなものだ。背水の陣で出かけた。


が、あにはからんや。最後は型を取ってあった詰め物をかぶせるだけ。もちろん麻酔なしでもちっとも痛くない。歯も快調である。ということで年明けから始まった、歯医者との戦いは、ここに無事勝利を持って終わったのだった。




昨日のI/O

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