勉強する会社インフォシス


零の発見―数学の生い立ち (岩波新書)

零の発見―数学の生い立ち (岩波新書)


2006年度、新入社員採用数36700人


インドに本拠地を置くインフォシス社のお話。同社はITコンサルからシステム・インテグレーション、ソフトウェア開発・保守運用までを世界中から請け負っている従業員数が約7万人ものグローバルな巨大企業であり、急成長中でもある。


そのインフォシス社の昨年度の新規社員採用数が上記の数字だ。これだけの数を採ってくれるのだったら、入社試験などもそんなに厳しくないのではなどと思ったら、それは大間違いである。さすがに人の多いインドだからというべきか、応募者数は実に約130万人! もいたという。従って3万人以上採用しているにも関わらず合格率はわずか3%に満たない(日経産業新聞2007年9月12日付け)。


さらに驚くべきは、その応募者の内訳である。同社に殺到するのはインドでナンバーワンとされるインド工科大学の卒業生を筆頭に「できる」理系大学生が上から軒並みインフォシス社めがけてやってくる。日本に例えるなら東大、京大、阪大あたりの理系のトップクラスが全員、同じ会社を受けるといったイメージだろう。いうまでもないが日本にはそんなにまで理系学生の人気を集める企業はない。


さらに、さらに驚くべきは、その難関を乗り越えて入社してきた新卒社員に対する徹底した教育である。もとより同社の採用基準については

人事担当のバイスプレジデント、ビクラムジット・マイトラ氏は新卒者の採用基準の柱は「学習能力」と話し、特に学生時代の成績の一貫性を見ると語る。常に新しい技術への適応が求められるのがエンジニアの宿命。「積極的に学ぶ姿勢とそれを応用する能力が重要」との判断に基づく。
(前掲紙)

とあるぐらいだ。学習能力は入社後も厳しく求められる。


従って新卒社員はまず最長5ヶ月に及ぶ徹底的な研修で、その学習能力を試されることになる。5000人を収容できる施設(日本ならちょっとした大学並みだ)の寮で生活しながら、社会人教育とエンジニア教育をみっちりと仕込まれる。ここでの4ヶ月分のカリキュラムは、通常の外部研修の2年分ぐらいの量に相当するという。想像するに寮生活ということはおそらく、毎日めちゃくちゃな詰め込み教育を受けるのだろう。


しかも期間中には64回ものテストがある。仮に4ヶ月なら月に16回。二日に一回は必ずテストを受けなければならない勘定だ。そしてこのテストで成績の悪い学生は、いくら採用されたとはいえ研修期間中にクビになる。実際にクビになる人の割合は最高で4%ぐらいになるらしい。


インドといえば最近ではインド式計算法が流行っている。たとえば暗算、日本では「九九」を覚えるのが一般的だが、インドでは二ケタ暗算を覚えるという。九九なら一ケタの暗算を99通りできるようになる。これに対して二ケタ暗算が出来れば9801通りの計算が可能になる。これがインドの方々が算数に強くなる基礎力の一つである。


もともとインドは数学に強い国だと勝手に思っている。なぜかといえば、中一のときに『零の発見/吉田洋一』を夏休みの宿題で読まされたときの記憶が残っているからだ。35年も前のことだから本の中身はまったく覚えていないが、とにかく「インド人はゼロというとんでもない概念を考え出した人たちであり、それが数学の発展にとって画期的なことだった。そんなことを思いつくインド人は数学の天才だ!」みたいな刷り込みがなされたのだ。


このインド人=理系頭という図式はあながちでたらめとはいえないようだ。国家的に数学教育に力を入れていることもあって、確かにインドの人たちは数学に強い。数学に強いということはコンピューターサイエンスにも強いということになる。物価が安い=人件費も安いこともありすでにインドはアメリカからプログラム開発などの仕事のオフショアリング先となっている(http://d.hatena.ne.jp/atutake/20061208/1165535690)。


しかしインフォシス社がめざしているのは、単なる受託ではない。もっと上流のコンサルティングからシステム・インテグレーション、さらにはソフト開発までを請け負っているのだ。その力を強化するベースは人材であり、強化するシステムが研修である。さらにインフォシス社に入り、猛烈に勉強し、その成果を仕事に活かすことがインドでは典型的なサクセスストーリーともなっている。従業員のモチベーションも極めて高いことは想像に難くない。


同社の従業員数はこの3年でほぼ倍増しているようだ。このペースが続くとすれば2010年頃には約15万人のスーパーエンジニアを抱えるスーパーIT企業となる。こういう企業、その企業を抱えるインドという国との戦略的な付き合い方を今から日本は真剣に考えるべきだろう。具体的にいうなら、こうした企業にシステムを牛耳られないためにはどうするのか。逆にこういう企業とうまく付き合い、その力を活用するためにはどんな戦術が必要なのかといったことだろう。


そして人数では勝てないまでも、突出した才能でインドの理系超エリート達と渡り合える特別教育を、おそらくは中学、もしかしたら小学生ぐらいから才能のある子どもを発掘した上でやっていく必要があるんじゃないだろうか。まずは二ケタ暗算である。早速うちの息子にもやらせてみることにしよう。



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