2008-07-20
常識を疑わせるための映画?「崖の上のポニョ」感想
今日「崖の上のポニョ」という、宮崎駿監督の映画を見てきました。
感想は、一言で言えば「不思議な映画」です。
不思議というのは、好きにさせてくれそうで、なかなかそうさせてくれないからです。登場するキャラクターやエピソードには、魅力的なところもある反面、醜悪なところ、疑問を抱かされるところもあります。そういう、魅力的じゃない部分をわざと出しているようなところがあるのです。それが、この映画の大きな特徴です。
まず、物語の舞台からしてそういうところがあります。
主人公の宗介が暮らす港町は、緑に溢れ、その合間に古い家並みの広がる、どこか懐かしさを感じさせる、とても魅力的なところです。
ところが、その海の中に入ってみると、ゴミだらけなのです。映画は、そのゴミに溢れた海をこれでもかと見せます。ただ、見せるだけ見せておいて、それについては特に言及しません。ほとんどの登場人物たちが、そのゴミを嘆くわけでもなく、掃除をするわけでもない。ですから、それを見ると、美人と評判の人に近寄ってみたらすごく肌が汚かったような、そんな、見てはいけないものを見てしまった居心地の悪さを覚えます。
それから、宗介のお母さんのリサがそういう存在です。
リサは、とても息子思いのやさしいお母さんなのですが、運転が乱暴なのです。よそ見運転を初め、スピード違反に車線のはみ出しと、法律違反のオンパレードです。警備員の静止を振り切って、通行禁止の区域に突っ込んだりもします。そして、そういう人としての見識を疑うような部分にも、あえて言及されていません。ですから、見る者はこのキャラクターをどう評価したらいいのか、悩ませられます。好きになればいいのか嫌いになればいいのか、大いに迷わされるのです。
そして、なんといっても難しいのが主人公のポニョでしょう。
ポニョは、大きく分けて三つの状態に変化します。それは「魚」「半魚人」「人間」なのですが、このうちの「半魚人」が、とてもグロテスクに描かれているのです。それは、まるで岩明均のマンガに出てくるようなグロテスクさです。目が離れていて、口が耳元まで避けています。映画では、そのグロテスクな表情をわざとアップにさせ、その上、通りがかった赤ん坊の顔に押しつけたりもしています。とてもじゃないけど、可愛いとは思えません。でも、映画の中で赤ん坊は、それに笑い声を上げて喜んだりしているのです。ですから、これもどう評価したら良いのか、どう見たら良いのか、観衆は悩ませられるのです。
そんなふうに、とらえどころがないというか、好悪の感情を抱きにくいのがこの映画です。
宮崎監督は、なんでこんなとらえどころのない話を作ったのでしょう?
その理由は分かりませんが、しかし一つ確実に言えることは、このお話が、練りに練られ、そして考えに考えて作られた、用意周到なものであるということです。
一つ、印象的な場面がありました。
それは、宗介のお母さんのリサと、ポニョのお父さんのフジモトが初めて出会うシーンなのですが、リサは、フジモトに向かって「除草剤を撒かないでください!」と注意するのです。
この場面、フジモトが撒いていたのは実は海水で、それはリサの誤解に過ぎなかったのですが、リサは、怪しげなフジモトに物凄い嫌悪感を抱くのです。
この映画は、その根底には「海を汚す人間」対「それを浄化する魚」みたいな対立構造を描いてもいるのですが、その浄化している魚代表のフジモトに対して、汚している人間代表のリサが「環境を汚さないで!」と糾弾するのは、とてもよく練られた強烈な皮肉になっています。
他にも、この映画にはそういう人を惑わすような仕掛けがそこここに周到に用意されています。もしかしたら宮崎監督は、そんなふうにあえて人を惑わせたり、常識や価値観といったものを疑わせることを目的に、この映画を作ったのではないか――とも思いました。
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