2008-11-30
面白いマンガがあったらぜひ教えてほしい
ぼくはマンガが好きだった。それは確かなことで、読んでる量でも誰にも負けない時期があった。それは短い期間(約1年)だったけど、その時期にうちの近くの本屋で売られていた少女マンガ以外の全てのマンガ雑誌の全作品を立ち読みしていた。毎日だいたい2時間、日によっては4時間近くかかることもあった。今考えたら書店にとっては迷惑な話だったかも知れない。また今みたいに出版点数も多くなかったからできたことだ。しかしとにもかくにもマンガの知識だけではその時期はおそらく誰にも負けなかった。ヒマだからできたというのもあるだろうけど。
そういうぼくが今ではほとんどマンガを読まなくなったのだけれど、だからと言ってテレビを見ているわけでも音楽を聞いているわけでも映画を見ているわけでもゲームをしているわけでもない。何をしているかというと仕事をしているか人と話しているかネットを見ているかブログを書いているかだ。この4つにほぼ絞られる。あと時々本を読んだり考え事をしている時もあるけど、それは空いた時間とか寝る前にしていることが多い。
だからどうというわけではないのだが、マンガに関してはかつてはあれほど面白いと思ったのに、読まなくなったのはやはり面白くなくなったからだと思っている。もちろん急に読むのをやめたわけではない。それは長い歳月をかけて徐々に読まなくなったのだ。そうして、飽きているというのともまた違う。面白いマンガがあれば、やっぱり今でも面白いなあと思うわけだから。それが「へうげもの」だったり「テレプシコーラ」だったりする。
ちなみにそれはぼくが面白さに鈍感になったからだと言う人もいるけどそれも違う。ぼくはだいたいにおいて面白がり過ぎるくらいで、それはこのブログにもいやというほど書いた。今でもルイ・ヴィトンに行けば面白いと思うし、遅刻をしない女の子を見ても面白いと思う。「百年の孤独」を読めば面白いと思うし、ドラッカーを読んでも面白い。友人のMと渋谷のカフェでだべっているのも面白いのである。
だから、ぼくがマンガが面白くなくなったと感じるのは、いわゆる俗流若者論とも違うと思う。表現ジャンルというものには栄枯盛衰があって、そういう視点で言っている。ある時栄えていたジャンルがそれより下り坂になって全体的に面白くなくなるということは歴史的にはいくつもあって、例えばギリシアの時代の彫刻の技術はもう失われたし、ルネッサンスの頃の絵画の技術も失われた。中国の青磁の技術だって、いまだに再現できなかったりする。
だからそれは、いつの世でも老人が「最近の若者は軟弱になった」と言ったりしていることとは意味が違う。文化は栄えたり滅んだりするのだ。永遠に進化し続けるなどということはない。マンガがつまらなくなったというのはそういう視点に立ちながら言っているのであって、何もノスタルジーに浸っているわけではない。だいたいぼくは子供の頃に素晴らしいと思っていたものよりも、大人になってから素晴らしいと思ったものの方が印象深いものが多いのだから、そういうノスタルジーにとらわれるような俗流若者論的な考え方とは無縁である。
その上で、なおぼくの書いたことに反論があるのだとしたら、id:y_arimさんがブコメで仰ってたように、どうか面白いマンガを教えてほしい。ちなみにこの前たまたま諸星大二郎の「マッドメン」を読んだらとても面白かった。なんだそんなものも読まずして最近のマンガは面白くないと言っているのかと言われるかも知れないが、それは実際その通りだ。ぼくは今ではほとんど年に数冊のマンガしか読まなくて今のマンガをつまらないと言っているわけで、それは前のエントリーでも書いたけど電車の中で読む人が少ないからである。だから、乗ってる電車がたまたまそうかも知れないと言われれば、それは確かにそうかも知れない。それから、電車の中で読む人が少ないからといってマンガの衰退に結びつけるのは無理があると言う人もいるだろうけど、これに関しては無理はないと思っている。説得力はないけどね。だから別にそれで人を説得しようとも思わない。ぼくはただ坂田信弘のゴルフマンガに出てきそうな外国の頑迷なキャディーのように、これまでの経験と五感を働かせて、なんとなくグリーン上空の風の流れを予測しているだけで、そう予測する根拠を述べよとゴルファーに言われても、説明しようがないのだ。ただ経験からそう予測したというだけである。それでは信じるに値しないというのなら、それはそれで仕方のないことだ。それならどうぞあなたの予測するようにボールを打って下さいと言う。それでゴルファーの予測が正しくて、ぼくが間違っていたのなら、ぼくは潔くキャディーをやめるくらいの覚悟はある。
マンガ雑誌の思い出を少し語ると、ぼくはこれまで数度いわゆる雑誌の黄金期というのを見てきた。その中でも印象に残っているのが週刊少年チャンピオンと週刊漫画アクションだ。
週刊少年チャンピオンは1979年頃が素晴らしかった。「ドカベン」「ブラック・ジャック」「月とスッポン」「マカロニほうれん荘」などが好きだった。
それから週刊漫画アクションの方は1988年頃だ。この時は確か「ボーダー」を筆頭に、柳沢きみお、相原コージ、はるき悦巳、江口寿史、いしいひさいちなどが本当に面白いマンガを描いていた。この時の豪華さといったらなかったなあというのがぼくの感慨だ。
それから近代麻雀ゴールドが面白い時期もあった。「伝説の雀鬼」と「マルヒ牌の音ストーリーズ」は本当に興奮させられた。片山まさゆきが「ノーマーク爆牌党」を描いていた時期の近代麻雀オリジナルも、本当に輝いていたことがあった。
ところで、トラックバックでid:nadegataさんから質問を頂いたのでお答えします。
マンガ雑誌というメディアを否定できるほど知っているかと聞かれれば、知っているとも言えるし知ってないとも言える。ぼくよりマンガに詳しい人はいくらでもいるし、ぼくより知らない人もいくらでもいる。そもそもマンガというメディアを評するのに知っている量というのはある程度以上は意味がないものである。情報は多ければ良いというものではなく、一番大切なのはその質やバランスだからだ。その意味で、電車の中の読んでる人数からマンガの凋落をはかるというのはそう的はずれではない。しかしそれに対して的はずれだと言う人もいて、そういう意見には前述したようにもう反論するつもりはない。それで読みが違ったら、シャッポを脱いでもうマンガについては二度と語らないくらいのつもりではいる。
結局は人それぞれじゃないでしょうか?
面白さというのは人それぞれではない。それは特に制作側にとってそうではない。誰もそういうつもりでマンガを描いてはいないし、あるいはそれを出版してはいない。
面白さが人それぞれだというくらいあやふやなものなら、そもそも描いたものを人に見せなくとも良い。人それぞれなら、読者がどう感じがようがそれは人それぞれなのだから全く気にかける必要がないし、どれだけ多くの人に読まれようともそれは人それぞれなのだからそんなものは評価の対象として気にしたりしない。
しかし実際は違う。マンガ家は、自分が面白いと思うものを他人にも面白いと思ってほしいのだ。あるいは他人を面白がらせたい。自分のマンガを面白いと思ってほしいと強く願いながら描いている。そしてより多くの人に読んでもらいたいと願っている。より多くの人に楽しんで、喜んでもらいたいと願っている。
そのために努力している。だからそれはけっして人それぞれで済まされる問題ではない。最終的には自分の今描いているマンガこそ至上のものだと、これ以外に正解はないというくらいまで思い詰めて、みんな――少なくとも名を成すマンガ家たちは描いているのだ。だからそこには、当然価値観の押しつけがあるのである。価値観は押しつけたからって押しつけられるものでもないけれど、でもそういうものなのだ。
自覚をしていますか?
自覚をしているか? と問われれば自覚をしていると答える。しかしそれを傲慢だと言うのには異を唱える。ぼくはそれを誠実な態度だと言ってほしい。この種の誠実さがないと、真善美というものは突き詰められないところがある。それは裸の王様を見て「王様は裸だ!」と叫ぶのにも似ている。その結果、ぼくは王様やあるいはその取り巻きに殺されるかも知れない。しかしそれを自覚した上でなお、叫ばずにはいられないところがある。それを傲慢と呼ぶのなら、それはそれで仕方ないが、しかしそれをぼくは受け入れられない。
あなたが以前おっしゃった「人をdisる時にやってはいけない作法」を自ら行っていないでしょうか?
「disる作法」うんぬんに関しては、ぼくのブログを全て読んでもらえれば、ぼくのスタンスというのがよく分かってもらえると思う。全部読むのが億劫だというなら、とりあえずクレタ人に関する一連のエントリーだけでも読んでほしい。
さらには、
これらのエントリーにも同種のことを書いています。
ついでに言うけれども、ぼくは面白さということを真剣に考えて今なお生きているし、このブログも書いている。そして、それでより多くの人を楽しませたいし、喜んでもらいたいと思っている。しかしそこで、当然価値観のぶつかり合いがある。ぼくが面白いと感じたものを、ある人は全く面白くないと言う。そういう時に、面白さの理由をそこで説明するのは無粋である。ギャグの説明をすることほど虚しいものはなく、それをするくらいだったらぼくはむしろつまらないと思われる方を選ぶ。だから、こういう質問にははっきりと答えられないところがあるのだけれど、それについては上記のような理由なので悪しからず。
それからそういう態度だと議論や話し合いにならないという人も時々いるが、ぼくは初めから話し合いを求めていないどころかそれを回避している。なぜなら議論や話し合いはクリエイティブにほとんど寄与しないと考えるからだ。
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