ケレケレ2

世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論

ケレケレのお話のつづきです。泥棒の話は大笑いしてしまいました。

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 もうひとつ、ケレケレには重要な感覚があります。それは持つ者が持たざる者に与えるのが常識という感覚です。
 ある日、スーパーのレジに並んでいた時のことです。私の前の前で、タンクトップ姿の若いイケメン男性が会計中でした。会計にすごく時間がかかっていたので覗いてみると、どうやらお金が足りないようです。
 彼の買い物カゴにはスナック菓子がたくさん入っていたので、それを返品するのかなと思っていると意外な展開に……。
 彼は、突然うしろ(私の前)に振り向いたのです。そして、並んでいたおばちゃんを見て「ニカーッ」。白い歯を見せて笑ったのです。すると、おばちゃんは彼の笑顔を受けて即座にこう言いました。
「いくら足りひんの?」。
 え?払ってあげるの!?私が1人で慌てている中、彼は悪びれることなく答えました。
「2ドル(F$)だけ……」。
 そう言い放つ彼に、私は少しイラっとしました。しかし、おばちゃんは不快感をみじんも表情に出すことなく、彼の代わりに2F$(120円)を払ってあげていました。ピンチを救われた彼は、おばちゃんに軽く感謝してスーパーをあとにしていきました。
 会計がおばちゃんの番になった時、私は好奇心から聞いてみました。
「さっきの彼、知り合いじゃないですよね?なんで代わりに支払ってあげたんですか?」
「うん、知り合いちゃうで。初めて会ったと思うわ。でも困ってる人がおったらサポートしてあげんとね。私らはみんな、家族みたいなもんやから」。
「家族みたいなもんやから」。言うだけならだれでも言えます。しかし実践するのは難易度がケタ違いです。そもそも「家族」の定義が広義すぎです。それを当たり前のように実践できているフィジーのシェア文化はあっぱれです。

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 フィジーの「共有」の習慣は、泥棒にまで根付いています。・・・
 ある夜、若いフィジー人の泥棒3人が民家にコソッと侵入しました。泥棒たちはその家は留守だと思っていたのですが、運悪くその日はおばあちゃんが1人で留守番をしていたのです。泥棒たちはおばあちゃんを見つけてびっくり。しかし、引き返すわけにはいきません。
「金を出せ」。
 おばあちゃんに要求。おばあちゃんは指示に従い、家にあった現金をすべて差し出しました。泥棒たちは受け取った現金を数えはじめ、合計が500F$(3万円)であることを確認しました。そしてその後、彼らは驚愕の行動に出ます。
「これ、おばあちゃんの分」。
 そう言いながら、おばあちゃんに100F$(6000円)を手渡したのです。前代未聞の泥棒からのキャッシュバックです。泥棒らはおばあちゃんに一部返金したあと、残金400F$(2万4000円)を持って逃げ去りました。
 後日、彼らははかなくも警察に捕まってしまいます。原因は、一刻も早く逃げる必要があるのに、犯行現場でお金を数えたり、返金したりしていたからです。・・・
 ・・・泥棒までもがケレケレ精神を忘れず、被害者と収益(強奪金)を分かち合う。日本ならコントでしかあり得ない話です。・・・