術後の話

蘇える変態

開頭手術後のお話、印象的でした。

P180
 夜中、あまりの頭の痛さに勝手に涙が流れ、枕がびしょびしょになった日もあるし、晩飯が吐かずに食べられてガッツポーズを取った日もあった。車椅子に乗って看護師さんに押してもらいながら院内を散歩すると、初めてスーパーファミコンで「F-ZERO」をやった時以上の爽快感を感じた。廊下に出ることの喜び。売店で買い物をする時の楽しさ。初めて「ちくわパン」を食べた時の衝撃のでかさ。ずっと刺さっていた点滴が外れた瞬間の喜び。変な看護師さんが来た時に感じるコミュニケーションの難しさとそれに伴う悲しみ。お見舞いに来てくれた人が何気なく言ったひと言がある時は罪のない暴力となり、ある時は異常に治癒力の高い薬になり、心がすり減り、逆に豊かにもなる。晴れの日のありがたさと雨の日の恋しさ。嵐の日、窓にぶち当たる雨の勢いにワクワクし、祭りの日の夜、遠くで聴こえる花火の音に感じる異常な孤独感。
 楽しいことも、辛いことも、濃縮して味わった。・・・
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 生きた証や実感というものは、その人の外的行動の多さに比例するのではなく、胸の中にある心の振り子の振り幅の大きさに比例するのだと思う。
 退院の日、看護師さんたちに見送られてタクシーに乗り、まだ腫れが少し残り、微妙に別人のようになってしまった顔が映る窓を眺めながら、この顔が元に戻ってからも、俺はそれを忘れてはいけないと思った。
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 手術から約4カ月が経ち、長かった2013年が終わろうとしている。・・・
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 退院してからはとにかく、復帰後にスムーズに仕事に戻れるようにジムに通って体力づくりに励んだ。週三回のトレーニングでずいぶん筋肉も付き、倒れる前より健康な状態になった。あとは、遊んだ。「飯行きましょうね」と言いつつ忙しくて実現しなかった人たちとご飯を食べに行ったり、今までやれずに溜まっていた家庭用ゲーム機のゲームを何日も何日もプレイしたり、・・・アニメ観まくったり、・・・名作マンガを一巻からじっくり読んだりした。とにかく楽しかった。
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 たくさんの人に迷惑をかけてしまったし、遠回りしたけれど、こうなって良かったなと心から思う。後悔する気持ちは微塵もない。この人生はとても面白いし、楽しい。支えてくれた皆様にはお礼をしてもしきれない。
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 バッチリ掃除した風呂につかる。体を拭き、髪の毛を乾かし、歯を磨き、水を飲み、寝室の電気を消し、ベッドに入って目を閉じた。おやすみ俺。また明日の朝、お前と会えるのが、俺はとても嬉しいぞ。