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◆マンガ『なぞの岩戸』

◆マンガ『かえってきた小鳥』 ◆『かえってきた小鳥 第2章』(連載中)

2009-06-15

[]勝間和代十夜 勝間和代十夜を含むブックマーク

 第一夜


 こんな勝間和代を見た。

 散髪に行った帰り道、自分の前を勝間和代によく似た女が歩いている。

 こんな夕時の田舎町に勝間和代とは珍しい。自分は勝間和代には関心があるほうだったので、思い切って声をかけた。

「ちょいとお尋ねしますが、あなた、勝間さんじゃありませんか」

 振り向いた女は、ほほほ、と笑うだけで、質問に答えようとしない。けれどもその笑い顔がいかにも勝間和代にそっくりだったので、やっぱりそうだ、これは勝間和代だ、黙っていたって自分にはわかるぞ、と思った。方向も同じだったので、自然と女と一緒に歩くような形になった。

 しばらくは得意な気分で女の横を歩いていたが、そのうち、だんだんとじれったい気持ちになってきた。

「あなた、あれやってくださいよ、あれ。本当の勝間さんならご存知でしょう」

 それを聞くと女は立ち止まり、にっこりと笑って言った。ようござんす、ただし決まりがあります。わたしがそれをやったらあなたは必ずウィンウィンと応えなけりゃいけません。

 自分が承知すると、女は右の手の平を前に突き出し、おもむろにこう言った。

「断る力」

 こうなると嬉しくてたまらない。力いっぱい応える。「ウィンウィン」

「断る力」「ウィンウィン」「断る力」「ウィンウィン」「断る力」「ウィンウィン」

 そうやって女と歩いてるうちに日が沈み、また昇り、そして沈んだ。いいかげん疲れてきたが、女はやめてくれない。決まりは決まりなので自分が疲れたからといってやめるわけにはいかない。よその家のトケイソウのつぼみが開いて花が咲き、風に揺れたかと思うと、やがて実を落としてしぼんでいくのが見えた。どれだけ応え、歩いたことか分からない。膝がきしみ、腰が曲がって、自分がどんどん年寄りになっていく。それに引き換え女がどんどん若返っていくように見えるのが不思議だった。年寄りになった頭で、ひょっとしたらこれは勝間和代でないのかもしれないぞ、そう思ったところで、女がぴたりと立ち止まり、ここでようござんす、と言ってふっと姿を消した。見れば、ちょうど、自分が散髪した店先だった。

 一人取り残され、自分はついに気づきを得られなかったなあ、と悲しく思った。散髪に行ったのもすっかり無駄になってしまった。散髪屋の主人も死んで、自分を知った人間はもういないのだろう。 

simonomisimonomi 2009/07/18 21:41 すごい,殆どつげ義春ですね

ayakomiyamotoayakomiyamoto 2009/07/20 19:35 ありがとうございます。勝間さんはミューズです。

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