『トム・ブラウンの学校生活』『ナイチンゲール伝他一篇』

風邪をひいた・・・のは実は三週間前であって、ごまかしながらのらりくらりしていたら、結果景気良く熱が上がって9度ちょっと。参っていたら義妹から「遊びにこない?」との打診。「風邪をうつしてもなあ」と躊躇している間に夫の人がさっさか受けて、子連れ泊まりがけで遊びにいくことになった。

ついたら見るなり「熱出ているわね。寝てなさい」とベッドへ直行させてもらうことに。さすが医者。子供がいると熱が出たくらいで一日横になっている訳にも行かないので、ありがたく横になり、本の一冊も持ってこなかったことを悔やんでいたら、ありましたよ、iPadの中にかつて自炊した書籍が何冊か。

というわけで、日本語で『トム・ブラウンの学校生活』そして、それを読んだら欠かせない「トマス・アーノルド伝」をあわせ読む。岩波文庫では『ナイチンゲール伝 他一篇』となっている「他一篇」が『トム・ブラウンの学校生活』に出てくるラグビー校校長のトーマス・アーノルドの伝記。

『トム・ブラウンの学校生活』はちょうどトーマス・アーノルドによって改革される時期のラグビー校を舞台に同名の主人公の成長を描き、イギリスの寄宿学校ジャンルに絶大な影響を与えた本だけれど、この書籍の後にストレイチーの伝記というのは、ちょっと意地の悪い組み合わせではある。本が神格化する校長が色々と欠落した人間として描かれているから。とはいえ現代の視点から見ればストレイチーの校長像の方が圧倒的に説得力があるのも事実で、(ストレイチー自身のパブリックスクールに対する嫌悪が如実に表れている感はあるものの)これはわりと良い読み合わせだった。特にストレイチーはアーノルドの「改革」を必ずしも新時代に向かって行く改新ではなかった、むしろ時代遅れになりつつある古典教育回帰であったとする。このあたりの古典語論争は20世紀頭ぐらいまで確実に尾をひくわけだけれど、たしか誰かが19世紀末ぐらいの国会討論に於けるギリシャラテン語の引用を調べて、そのほとんどが教科書に採用されている部分からだった、みたいなことを言っていたから、古典語教育も、一概に成功と言えたのかどうかは悩ましいところであるのかもしれない。


トム・ブラウンの学校生活 (上) (岩波文庫)

トム・ブラウンの学校生活 (上) (岩波文庫)

トム・ブラウンの学校生活 (下) (岩波文庫)

トム・ブラウンの学校生活 (下) (岩波文庫)

昨年からしばらく少しずつ時間を作りながら書いていたものがHistorical Pageantサイトに掲載されました。
http://www.historicalpageants.ac.uk/pageant-month/bradford-pageant-1931/
1931年のBradford Pageantに関する一般向けの紹介となります。こちらについては後ほどまた少し詳しく説明を書きたいと思っています。

Redress of the Pastは、AHRCからファンディングを受けたプロジェクトで、イングランドスコットランドウェールズにおいて行われたパジェントを1905年から、ファンディング終了の2016年までできるだけ網羅的にデータベース化しようと言う試みでもあります。現在はフルタイムで仕事ができる状態にはまだありませんが、Advisory Boardの一員として参加しています。

The League of Nations, Public Ritual and National Identity in Britain

Helen McCarthy, 'The League of Nations, Public Ritual and National Identity in Britain, c.1919-56' History Workshop journal, 70. (2010) 109-132.

帝国でもなければ小さな英国だけでもない、国際社会の中のイギリス、というアイデンティティの表出をLeague of Nations 運動の催しから読み解いて行くという論文。この時期の催し物には帝国を超えた外部への視線が見られるとしている。インターナショナリズムの高まりをいわゆるpublic ritualから読み解く、という試み。展覧会やパジェント、行進といったpublic ritualはしばしばナショナリズム帝国主義から読み解かれてきたわけだけれど、確かにインターナショナリズムとの関わりは手薄であったかもしれない。
細部で面白かったのは、この時期の催しでジャンヌ・ダルクがしばしばフランスを代表するアイコンとして使われていると言う指摘。それからヴァージニア・ウルフの『幕間』におけるパジェントは単純なパジェントではなくLeague of Nationsパジェントだという指摘。

病状他

昨年、ちょうど9月の退職の日が下の子供の診察でした。

何度も確認していた先生から、「明らかに回復の様子が見られます」とのこと。
これは何重にも嬉しい話でした。

まずは、5歳までの生存確率を考えないで生活することが、これで許されるようになったということ。
そして、回復しているということは、そもそもの原因が感染性心内膜炎であった可能性が高いと言うこと。
つまり、それは、遺伝性の心臓病だった可能性が低いということで、今までずっと心の隅に引っかかっていた、「それでは上の子の心臓は?」という心配が、「ひとまず」可能性の低いものに変わった、ということにもなります。

彼の今までの病状を見た場合、心筋が力を取り戻すことは非常に珍しいケースだということで、「念のため、もう数ヶ月まって、経過を見ましょう」と言われたのですが、この3月、改めてお墨付きをもらいました。

今回説明を受けたことは、
心臓が「元通りに」なることはないけれど、「普通の生活」をすることが十分できる回復をしている、ということ。
思春期にさしかかり体が大きくなって行くに従って手術で狭くした弁が一緒に成長してくれない可能性はゼロではない。その場合は再度心臓手術が必要になるということ。
今まで6種類飲んでいた薬を大幅に減らして2種類として大丈夫であるということ。
(どの薬も薬剤師さんが処方箋を見て「えっ・・・・この年齢の子供にこの量のこれを?・・・ちょっと確認します」とお医者さんに確認の電話をするような代物だったので、実はこれも本当にほっとしました。こちらの子供向けの薬は液体で渡されるので、はかっている時の緊張といったら・・・・)


そして、最後にお医者さんに言われた言葉。
「私は初めてこの子を見たとき、『もしもこの子の運が良ければ、この先私が医師としてやって行く間中ずっと、こまめに会うことになるだろうな』と思っていました。この仕事をやっていて、こんなことを言えることは滅多にないんですが・・・次に会うのは来年の今頃で大丈夫です。」

小児心臓医としてどれだけ頻繁に辛いことを親に言わなくてはならないのかが伺われる言葉でした。
そして、そのような辛さにも関わらず、小児心臓に関わって行く人々がいることに、心の底から感謝するしかない、と思わされた日でもありました。それまでは、そこに思い至らぬほど、子供のことばかりが心配だったのです。


日々の生活は急に変わるものではありませんが、これで、一つの区切りがついたこともあり、そろそろ自分の先も考えなければなりません。ゆっくりと進んで行きます。今後ともよろしくお願いいたします。ご報告と御礼まで。

Making History

Making History: An Introduction to the History and Practices of a Disciplineを読んでいる。
いわゆる歴史学史、学説史のようなものを想定していたのだけれど、実際に手に取って読み始めると自分の知識にいかに穴があるかがわかって面白い。(というよりは、焦る)
ざっくりと目次をあげてみるとこのような感じ。各章が総勢13名の異なる著者によって書かれているのだが、著者名は今日は割愛。後ほどもしもしっかりと語る要なことがあったら、その折にでも。
現在第二部第六章。ここまでで面白かったのは第4章で、経済史がある種のオルタナティブな匂いを持っていた、ということ、イギリスの経済史の初期の研究者には女性の活躍が目立つということだろうか。
ここまでではイギリス、ドイツ、アメリカの三国に於ける歴史学の発展を概観しつつ、その間の緩やかな(時には緊密な)関係性を描き出している、という感じ。学部の歴史学の教科書を意図して書かれた書籍とのことで、しっかりともれなく、背景知識を入れておくには非常に便利な書籍になっていそう、とここまで読んだところでは期待。

Part I The professionalisation of history

1 The institutionalisation and organisation of history
2. Methodology: 'scientific' history and the problem of objectivity
3. The primacy of political history

Part II Challenges to the statist paradigm
4. The emergence of British economic history, c 1880-1930
The Annales school and histrorical writing
6. Social history in Germany
7. The 'new social history' in America

Part III Interdisciplinarity
8. History and psychoanalysis
9. History and sociology
10. History and anthlopology
11. History and literature

Part IV Social movements and theory into history
12. History and Marxism
13. Women's history and gender history
14. History, identity and ethnicity
15. Historians and the 'new' British history
16. Postmodernism and the linguistic turn

Part V Beyond the academy
17. Historians and film
18. Popular culture and the historians
19. History and 'amateur' history
20. History and heritage
Conclusion: History and power

Making History: An Introduction to the History and Practices of a Discipline

Making History: An Introduction to the History and Practices of a Discipline

17世紀中旬イギリス最古のチョコレートアイスクリームのレシピがみつかりましたよ、という論文。(いや、その他にも色々書いてあるのだけれど、なんといっても専門外の人間にはレシピが印象深い。)

Introduction of Chocolate into England: Retailers, Researchers, and Consumers, 1640–1730 | Journal of Social History | Oxford Academic
ピープスの日記にあったチョコレート記述から始まったリサーチが、最終的にサンドイッチ伯のレシピアーカイブにあった最古のチョコレートアイスクリームレシピの発見にたどり着く、という話。

最も古いイギリスのアイスクリームは、いわゆるフラペチーノのようなものだったと言う話で、読むとむしょうにコーヒーショップへ出かけたくなる。