両極性の共存


知人の瑣細な一言から再燃したボーイ・ジョージ熱、勢い余ってスティーヴ・ストレンジに激突し、さらによろけて転がり込んだ先が、美貌のノスフェラトゥと言った風情のサル・ソロ(Classix Nouveaux)。なんだかもうピタゴラスイッチの冒頭に出てくる機械装置みたいな状態である。あからさまにトランスヴェスタイトなボーイや、中性的・無性的な美しさを放つストレンジに比べたら、サル・ソロの風貌は分かり易く「男性的」だ。(幼年期のカトリック信仰に、熱狂的に回帰していく彼の後半生から憶測すれば、ニュー・ロマンティック勢には多かった「gender bender」でもないのだろう。)それでも、高音のファルセットと低音の地声が鮮やかに切り替わる歌唱法は、やけに紅い唇や長い睫毛と並んで、彼の両性具有性を表わしていると言えるのではないか。ニュー・ロマンティックの流れに位置づけられることに、ソロは一貫して抵抗を示しているようだが――人気絶頂期のTVインタビューでは、「ニュー・ロマンティックというのはメディアが創り出したカテゴリーに過ぎない」と発言しているし、後年には彼自身のサイトにも、「ファッションとエレクトロニック・サウンドの使用くらいしか、他のニュー・ロマンティック系バンドと我々との共通項はなかった」と書いている――、この意味では正しく、スティーヴ・ストレンジらの系譜に連なる人物だろう。女性エキストラとソロが、CGによって入れ替わるシーンが多用された「Is It a Dream ?」のミュージック・クリップは、彼の声が持つヘルマフィロディトゥス的性格を、端的に表現していると思う。

サル・ソロ方面とは別に、ミッジ・ユーロが作り出す初期Visageの、シンセサイザーを多用した幻想的で冷たく澄んだ曲調が気に入ってしまい、そんな折に音楽に詳しい先輩から、コニー・プランクの存在を教えて頂く。ジャーマン・プログレ系とデヴィッド・ボウイが、一人の人物の下で繋がっていたなんて、今まで寡聞にして知らなかった。「Don't trust over thirty」と言ったら自己否定になってしまう年齢になっても、夢中になれる新しい世界に触れることができるとは!卑近で瑣末な噂話から、ここまで世界が開けてくるなんて、人生は本当に面白い。