聖杯を巡るそれぞれの事情

 万物の始まりにして終焉、この世の全てを統べる「根源の渦」に至るため、約二百年前に、アインツベルン、マキリ、遠坂の魔術師たちは、それまでの独立独歩の道を捨て、互いの秘術を出し合い、ひとつの奇蹟を作り出した。それが、所有者のただ一つの願いを叶えるという聖杯だ。
 救世主の血を受けた聖杯とは異なり、概念的に生み出されたこの聖杯を手に入れるためには、聖杯により選ばれた7人のマスターが、それぞれの特性に合致した英霊、かつて世界で名をはせた偉人たちの霊を使役し、命を賭して戦い、勝ち取るしかない。この戦いは聖杯戦争と呼ばれ、これまで三度繰り返されてきた。

 第四次となる今回の聖杯戦争に参戦するのは、アインツベルンが勝利のために迎え入れた婿養子・魔術師殺しの異名を持つ衛宮切継、遠坂の当主・遠坂時臣、彼に遺恨を持ち自らを犠牲にして資格を得た間桐雁夜、魔術師と対立する聖堂教会に所属する言峰綺礼らの7人の魔術師だ。
 彼らはそれぞれ異なる動機、異なる願いに導かれながら、あるいは資格を奪い取り、戦いの渦中に身を投じていく。この物語はもともとゲームで描かれたものではあるが、この本ではその中であまり描かれることのなかった前日譚を語っているらしい。

 上記のような背景もあり、彼らがなぜその様な戦略を取るのか、なぜそんなキャラクターなのか、など、人物像が詳細に描かれていると言って良いだろう。この巻では特に、衛宮切継とその妻アイリスフィールの覚悟、遠坂時臣言峰綺礼、その父にして監視者の璃正の協力体制の様子、互いに興味を抱き理解する衛宮切継と言峰綺礼の皮肉な関係などが主に語られる。
 全6巻らしいので、物語はまだ立ち上がったばかり。まだ語りつくされないワクワク感が読者を期待させてくれると思う。

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虚淵玄作品の書評