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かぶとむし日記 このページをアンテナに追加

2008-07-27

清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)

| 13:43 | 清水宏監督『有りがたうさん』(1936年)を含むブックマーク



有りがたうさん [DVD]

伊豆の山あいを走る乗合バス。<有りがたうさん>(上原謙)は、バスの運転手だ。道を歩く人、荷車や馬車をひく人が、バスに道を譲ってくれると、窓から「有りがたう!」と声をかけて過ぎていく。それがとても気持ちいい。みんな、その運転手を<有りがたうさん>と呼んでいる。<有りがたう>さんは、バスに乗らない人たちからも、町の知人への伝言を頼まれたり、墓参りの代役をお願いされたりする。<有りがたうさん>は、それを笑顔で引き受ける。


その日も、<有りがたうさん>の乗合バスは、尊大な髭の男、黒襟の女(桑野通子)、娘を東京へ売りにいく母娘など、さまざまな人たちを乗せて、出発する。


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1936年伊豆風景を写しながら、バスは走る。舗装されないデコボコ道をいろいろなひとが歩いていく。その姿がいかにもむかしの日本だ。旅芸人が歩いているのを見たとき、これは川端康成原作なんだなあ、と改めておもう。バスの行く道を、あの学生踊り子が歩いていてもおかしくない。


バスに乗り合わせた乗客の人生を、短く切り取って暗示する、しかし、口あたりは優しく、善意にあふれた気持ちいい小品。


若い上原謙は、どこまでも善良で、成瀬巳喜男作品で見せるような冷たい表情は見せない。黒襟の女を演じる桑野通子は、きりっとした顔立ちがきわだって美しく、生き生きと軽口を飛ばして、作品をたのしく盛り上げている。

tougyoutougyou 2008/07/27 20:12 清水宏の作品ではこの映画が最も有名ですね。笠智衆が小津安二郎が亡くなってからだと思いますがその評価がどんどんあがっていく時に、「清水宏はどうしてあがらないのか」と云ったことを覚えています。成瀬巳喜男は清水宏の要領のよさのしたで真面目にコツコツしていたことの方を思い出してしまいます。

beatle001beatle001 2008/07/28 06:28 tougyouさん、『有りがたうさん』は、清水宏監督の代表作なんですか。前々から本などで名前を見ていたので、レンタル・リストのなかに作品があったとき、借りてみる気になりました。期待にはずれることなく、おもしろかったです。善意とあたたかい人間の交流を描きながら、歯が浮くほどの甘さはなく、ほどよいところで、抑えています。伊豆の風景を写しながら、乗合バスがどんどん走っていく。それに乗り合わせた人たちの、これはロード・ムービーなんですね。もし、見られる作品があれば、もっとこの監督のものを見てみたいとおもいます。

現実には、かなりワンマンな監督で、その独裁ぶりが目に余り、城戸署長からついに松竹を追われた、なんて話を以前何かで読んだことがあります。田中絹代と最初に結婚した人でもありますね。

tougyoutougyou 2008/07/28 23:36 田中絹代とは試験結婚をしていましたね。清水宏は最終的にドキュメンタリーのように撮って行くのが一番だと思うようになった感じですが、それは監督を必要としない、演技をつけないという、中身のない作品ということになった感じがします。子供が絡んだ作品によいのがあるようですが、結局は時間の濾過で消えて行く感じがします。やはり小津、溝口、成瀬、黒澤のように苦労をして撮らないと残りませんね。小津と成瀬は時間通りに撮影を進めますが、その裏での苦労は大変なものですね。一番はやっぱり成瀬巳喜男の凄さを私は思ってしまいます。

beatle001beatle001 2008/07/29 05:31 tougyouさんへ:
田中絹代とは試験結婚ですか。どういうものなのでしょうか。今の時代なら、同棲して、お互いを確かめて、それでよかったら結婚するなんてことも、そう珍しくないとおもいますけど、当時だから、女優が同棲する、というわけにもいかず、一応結婚という形式をふんだ上で、お互いの相性を確認してみた、というわけでしょうか。

当時は、清水宏は小津と並ぶ名匠として松竹を代表する監督だったわけですね。ぼくは、これまで『風の中の子供』と、今回の『有りがたうさん』の2本を見ましたが、たしかに、あまりドラマをつくらず、自然にストーリーが進行していくことを大切にしているように見えました。小津や成瀬のような強烈なインパクトはいまのところ感じませんが、もう少しこの監督の作品を見てみたい、そんな魅力は感じています。

tougyoutougyou 2008/07/29 15:10 城戸四郎は正式に結婚されると困るので同棲を試験結婚と読んで満足させたと記憶しています。

ちょとまた逸れるのですが、beatleさんならご存知かとも思いますが、成瀬巳喜男が台詞を削っていく過程では、出演俳優はその削ったものを、目線や表情・動作すなわち言葉でなく映像的に監督が考えているように表現しなといけないので、私は台詞をどのように削ったかを俳優は分っていると思っていたのですが、殆どの俳優はあまり分っていなかったようですね。編集をみて見事に映像が繋がっているのにビックリしてしまうことが多かったようです。台詞を削るのは、高峰秀子が出演している作品では、成瀬巳喜男と一緒に検討していたというのをどこかで読んだ記憶があります。

tougyoutougyou 2008/07/29 20:29 beatleさん、この映画については「日本映画の遺産」の以下がとてもよい記事だと思います。
伊豆のこともたっぷりなので読まれてはと思います。

///SlowTrain///オール・ロケの即興演出で撮影清水宏は天才だ
http://channel.slowtrain.org/movie/column-isan/isan_bn/isan030108.html

tougyoutougyou 2008/07/29 21:27 beatleさん、私が清水宏にあまりいい感情を持っていなかったのは、以下の文章を読んだ時からだと思い出しました。小津と清水は本当に仲がよかったようで、その友情は素晴らしいとは思いますが、ぽつんとひとりのヤルセナキオをどうしてくれるのかと。成瀬巳喜男はPCLへ行ってほんとうによかったと思っています。

№583 嗚呼!松竹蒲田行進曲
http://hideo.269g.net/article/2979585.html

tougyoutougyou 2008/07/29 21:45 beatleさん、山中貞雄を有名にした映画評論家・映画監督の岸松雄の以下の文章も上の文章を読んだ頃に読んで印象深かったです。
成瀬巳喜男の言葉もいいですが、山中貞雄の「ど根性の問題や」はいい言葉ですね。 動のど根性は黒澤明、静のど根性は成瀬巳喜男ですね、東宝では。

-quote-
昭和十二年の一月元日、私はすでにPCL(ママ)で仕事をしていた滝沢英輔とともに、静岡駅前の大東館に清水宏を訪れた。(中略)かねてから私に撮影所に入って監督になれと熱心にすすめていた清水宏だ。無論、大賛成である。山中貞雄は「ど根性の問題や」とだけ云った。成瀬巳喜男は「そうねえ……やってみるのもいいけど……」と例によって言葉少なに答えて、ハッキリした意見を出さなかった。
私は決心した。二月、大阪弁天座の映画講演をすませ、河出書房から「日本映画様式考」を批評家としての最後の置土産にかえると、三月、キネマ旬報を辞め、PCL(ママ)に入り助監督となった 。
(岸松雄「私の映画史(完) 現代日本映画人伝附録」『映画評論』1953年8月号 63−64頁)
-unquote-

beatle001beatle001 2008/08/01 15:33 tougyouさん、唯一高峰秀子は、成瀬巳喜男のセリフ削り作業に参加した俳優のようですね。それだけ、成瀬巳喜男の俳優としての信頼が厚かったのだとおもいます。

tougyouさんがおっしゃるように、成瀬巳喜男は編集が得意で、俳優は編集したものを見るまで、あのときの自分の演技がどうつながるかわからなかったとか、ぼくも何かの本で読みました。無口であまり説明もしないようですし(笑)。

バラバラで撮ったもの、成瀬の指示である方向へ視線を向けたものが、編集でつながり、はじめて、どういうことを表現するものだったか、わかったようです。

セリフを削り、その分俳優の目線や動きで、意思を伝えようということでしょうが、成瀬巳喜男しかわからない編集技術だとか、スタッフが証言していました。

beatle001beatle001 2008/08/01 15:48 tougyouさん、「日本映画の遺産」を読ませていただきました。この文はあの映画のおもしろさをしっかり語っていますね。これを読んで、『有りがたうさん』がなぜおもしろかったのか、さらに教えてもらったような気がします。本当に伊豆に観光用の「ありがとうさんバス」があってもいいような気がします。山間の道をゆっくり古いバスが走っていく、あの光景はじつにたのしいものでした。

それから、加山雄三が「父・上原謙は大根役者で」という発言、ぼくも聞いたことがあります。そのときは、上原謙の映画をあまり見てなかったので、そのまま受けとっていましたが、成瀬巳喜男の『めし』などの作品を見てから、とんでもない話だ、とおもっています。よほど、そういう加山よりも、上原謙のほうが、深いニュアンスを表現しているのではないか、とおもいます。もっと、父の作品をていねいに見ていれば、俳優としても、もっとマシになっていたかもしれません。

高峰秀子が『乱れる』で共演したとき、インタビューで、「加山さんの演技はどうでしたか」と聞かれて、「演技以前の問題です」と答えていたのを思い出します。しかし、この女性は容赦しないですね(笑)。

beatle001beatle001 2008/08/01 15:55 tougyouさん、いろいろ面白いサイトをご紹介いただき、ありがとうございます。「黒田英雄の安輝素日記」で、松竹の<監督相関図>を拝見いたしました。

いろいろ好き嫌いがあるのは当然でしょうけど、これを読んでもそうですけど、成瀬巳喜男はやっぱり東宝へいってよかったですね。城戸四郎がずっと松竹で君臨している限り、成瀬巳喜男の才能は表に出ずじまいか、出ても、もっと遅れてしまったかもしれません。結果から判断するよりしかありませんが、成瀬巳喜男は人間関係のベタベタが嫌いだったようですから、もっとさっぱりした環境で、淡々と映画を撮れて、それでよかったとおもいます。

beatle001beatle001 2008/08/01 16:00 tougyouさん、成瀬巳喜男の「静のド根性」と関連することだとおもいますけど、先日ringoさんから借りた映像で、成瀬巳喜男の奥さんが、「古武士のようなひとでした」といっていました。なるほど、うまい表現です。黒澤明も、武士そのものという気がしますが、成瀬は、言葉少ない古武士というわけですね。

tougyoutougyou 2010/04/14 13:11 beatleさん、『有りがたうさん』(1936年)を観ました。
清水宏の素晴らしさこの映画でよく分りました。 若き日の上原謙がハンサムですね。。小津安二郎も惜しんだように、悲劇の女優、桑名通子もいいです。 31歳で夭折せず生きていたら、田中絹代や山田五十鈴に負けない大女優になっていたでしょうね。

このbeatleさんのブログ、ふたりでのコメントを含めると長くなりましたが、googleの「清水宏 『有りがたうさん』」の検索でトップになっていたので、ちょっと嬉しかったです。
「今日の一枚」に好きなところをアップしました。

beatle001beatle001 2010/04/14 14:55 tougyouさんに、清水宏監督を気にいっていただいて、うれしいです。この映画をみてから、時間とともに自分のなかで清水宏は好ましい監督のひとりになってきています。

伊豆の風景、淡白でありながら、その人物の人生を彷彿させる巧妙なタッチ、こういう監督もいたんだなあ、と新鮮な感銘を受けた作品でした。

beatle001beatle001 2010/04/14 14:57 tougyouさん、改めてコメントの部分も全部読み返しました。すごい内容の濃いコメントで、ちょっとおどろきました。それを誘発してくださっているのは、もちろんtougyouさんです。

本文を、コメントが凌駕してるのが、なんとも痛快です。