かぶとむし日記

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三浦綾子著『母』を読む。


母 (角川文庫)

母 (角川文庫)


電子書籍で、三浦綾子著『母』を読む。山田火砂子監督、寺島しのぶ主演で、2月25日から『母ー小林多喜二の母』が公開されると知って、その原作を読んでみる。


小林多喜二の小説は、代表作を2つくらい読んだだけ。それと、今井正監督、山本圭主演『小林多喜二』(1974年公開)をむかし見たことがあるが、志賀直哉と多喜二が会うシーンがあって、それを見るのが一番の目的で、映画の内容は、横内正のナレーションの使い方が不自然で、あまりいいとおもわなかった記憶がある。


それでも、敢然と国家権力に対抗して、貧しいものや低賃金で働く労働者のために一身を賭して小説を書いた多喜二には尊敬と共感があって、いつか作品をまとめて読んでみたいとおもっていたところ、その母・小林セキを主演にした映画化があると知り、まずはその前に原作を読む気になった。



小林セキは、貧しい東北の農村で育つ。学校へ行かず、字を読むことができない。しかし、もともと賢いひとなのか、多喜二をはじめ、子どもたちはそういう母を軽視するどころか、母を中心に家族の絆を強めて育っていく。なんでも母に話す。母は、それを理解する賢明さがある。そういうひとっているんだろうな、っておもう。学歴とか教育とか関係なく、大切なことを直感的に、天性の知恵で理解できるひと。小林セキは、そういうひとのようだ。


「(前略)多喜二が、貧乏人を助けたいって考えたことが、そんなに悪いことだったべか。人が着てるものと、おんなじものを着せてやりたい、人の食べてる白い米のまんまを、誰にも彼にも食べさせてやりたい、人の行く学校に、みんな行かせてやりたい、そう思ったのが、どうしてわるかったんだべ」と、多喜二の母・小林セキは、語っていく。


原作は、読みやすく面白かった。こういう時代だから人にも薦めたい。映画化が楽しみだ。唯一心配なのは、賢い母を、聖母のように理想化して描きすぎないでほしいことか。困っているひとの心に寄り添い、権力に屈せず生きた小林多喜二のことをもっと知りたくなった。