2007-03-07
■【−1】虹色
<文章> −1 <体験> 0 <得点> −1
これもまた解釈が難しい。
科学的にあり得ないことは間違いないけれど、それで否定してしまったら
怪談自体の否定にもなりかねない。
一方でブロッケン現象その他何か別のものの見間違いではないのか、という
疑いも残るため(それも黒ではないけれど)、ここは判断保留(と言うか放棄)
させてもらうことにする。
ただ、そうした疑いを強めているのが文体であることは間違いない。
全てを会話体、それも民話調の語り口にしているため、どうも御伽噺の
イメージが一層強まってしまうのだ。
こうした常識に真っ向から挑戦するような内容であれば、むしろ理性的に
戦った方が信ずる気にもなれよう。
■【+1】万力
<文章> −1 <体験> +2 <得点> +1
マンションの自殺及び女性が関係あるのか無いのかは不明ながら、自転車ごとの
白昼金縛り+瞬間移動、となかなかの大技を決めてくれた。
ここまでやられるともうお手上げである。
ただ、文章が全体に硬く、その恐怖を伝え切れていない感がある。
最後だけ何だか妙に芝居がかったものになっているのも違和感あり。
■【−2】百物語その後
<文章> −1 <体験> −1 <得点> −2
折角の怪が現れたのに本人にではなく奥さんの方に出てしまって残念、というのかと
思ったら、いざとなるとやっぱり否、というオチなのだろうか。そういったところの
感情面を全く書いていないのでよく判らない。
とは言え、怪と書いてはみたものの、夢だけではこれまでの先行作品でも書いたように
あまりに弱い。
「奥さんに内緒で」行ったにも関わらず符合するというのが、というところだろうけど、
それでも偶然では、という域は超えられない。
特に異形の形容として「鶏のささみ」を挙げているけれど、ささみって肉の中でも一番
こざっぱりとしていて全く気持ち悪くない。あまりぐちゃっともしていない。
奥さんの語彙が貧困、形容が変、というギャグなのかもしれんけど、ここでそんなものは
不要。
どうも全体にいろいろと気を使って書いているように見受けられるけれど、それによって
一層まわりくどくなっているというか空回りしているというか。
■【−3】通訳の必要性
<文章> −2 <体験> −1 <得点> −3
題名から社内論文か稟議書か何かか、と思うような異質さを感じた。
そして、読んでみて、予想通り、というより以上に肝が怪談になく笑い話になって
しまっている。
しかもこの程度のトラブルでは、身内は面白かったかもしれなけれど、人間関係も知らない
第三者にとってはわざわざ聞かされる程のネタでもない。
文章技術もそれに追い打ちを掛けている。
冒頭いきなり「キャラ的に合わない」と言われてもこちらはキャラなど存じ上げないので
さっぱり。この時点でかなり読み手を振り落としてくれる。
さらに、その後に「当時、アパレルの会社で働いていた」という文章が挿入される。
これ、内容的に業種は関係ないし、話されている状況が会社の同僚たち(ではないとしたら
その説明が必要−もともと「その日」という表現が変)なのに、ここでこうした説明が入る
必然性は全く無かろう。
ホテルの説明も文章の順番がちぐはぐ。
というようにもう少し基礎的な訓練をしてもらわないと、内容よりもそちらばかり気に
なってしまう。しかも相当に判り辛くなっている。
しかし、実は内容などそれ程無いのでそれはそれで問題ないかもしれない。
今時、部屋に女が現れて消えただけの(詳細の説明もない)怪談などトラブル以上に
聞かされても読まされても仕方がない。
■【−1】ジェイムシーズ
<文章> −1 <体験> 0 <得点> −1
ドッペルゲンガーも新出の素材ではないけれど、当人の前で問題行為を行なってしまう、
同時に複数現れる、といったユニークな面が多く興味深い。
ただ、文章が何を言わんとしているのか良く判らないところ、展開として引っかかって
しまうところなども多々あって、全体としてはうまく楽しむには至らなかった。
冒頭、単なる表記ミスとは思うけれど「日本語も話せるようになる程だ」と現在形で
語る意味が判らない。
ドッペルゲンガーを「癖」と定義するのも納得いかない。
「酔っているので不注意になる者もいる」「これが引き金だったらしい」この二文に
ついては何度読み返してもどう考えてもどんなことを言おうとしているのか判らなかった。
この大会でもここまでの難物に出会ったのは初めてだ。
また、課長の怒りは判るけれど、やったのは一人だししかも明らかな超常現象、これに
よって打ち上げを割り勘にしよう、と言い出すのはあまりに大人げなく、笑いには
結びつかなかった。
最後の「案の定、飛行機は出発時間を過ぎてもなかなか飛ばなかった」にしても
ドッペルゲンガーと飛行機が飛ばない、というところに関連性を見出し辛く、どうも
しっくり来ない。
分身が現れて何かトラブルを起こしている、と言いたいのだろうけれど、これでは
欲求不満が溜まるばかりだ。
しかも、ここまで明確な事象であればもっと問題・話題になって良さそうなものなのに
それが日常として課長にまで受け入れられてしまっている。
何だかリアリティを感じられない環境である。
■【−4】白い顔
<文章> −2 <体験> −2 <得点> −4
これも既に書いたところではあるけれど、特定の作品を観ていないと面白さの判らない
作品は少なくとも一作品の内容・文章をもって評価する、というこの大会に応募すべきでは
ない、と思う。
この作品ではさらにその意味すらも映画を観ていない人にはさっぱり判らないものに
なってしまっている。
こうした創作物に寄り掛かる危険はそれだけではない。
作中では映画の作者が見たかも、というような話にしているけれど、こうしたものは概ね
考えて作られたものであって現存するものではない。当然この話の体験者に映画が影響を
受けたわけでもない。
それとそっくり、というのはむしろその話そのものも創作である、と考える方が
話の辻褄が合い、その蓋然性がぐっと高くなる。
よって、話も半分程度にしか聞けなくなってしまうのだ。
■【−5】大福
<文章> −2 <体験> −3 <得点> −5
いくら何でも一家の中心となっていた人物の危篤の場で突然「大福が」などと言い出す
人物がいたとしてそれに「何大福」などと答える人間はいないだろう。
普通は「何言ってるの」「こんな時に馬鹿言うな」いやこんなステレオタイプな対応で
なくて良いのだけれどいずれにせよ「お戯れ」に応じるようなやり取り、というのは
あまりに現実感がない。これが日常会話ならともかく。
とてもこの話を信じろ、と言われても頷けるものではない。
冒頭の家族関係の紹介も説明的で話の流れを阻害している。
■【−1】顔
<文章> −1 <体験> 0 <得点> −1
またネタバレ題名か、と思ったらまさに顔がテーマのお話であり、その特異な顔の
描写によって題名にちゃんと応えている。
しかし、妖怪図鑑で似たものを発見しそれだったのかも、と一人で完結されてしまうと
こちらとしては余情も空想の余地もなく、ああそうですか、と言うしかない。
日記の一節を読まされているような印象だ。
また、倒置法でもなく主語だけで文章をぶつ切りにするのは、流行なのか同一著者なのか
不明ながら気になってマイナスなだけで何もプラスの効果を生み出すものではない。
■【−3】水平に顔半分だけ
<文章> −2 <体験> −1 <得点> −3
題名を内容の一部とする、というのは読み手のさまざまな読み方に応えるものではない。
アンフェアである。
しかも「水平に」というのがどういう状態なのかさっぱり分らん。
「今の内に寝る事にする」一発怪談の投げ方としてはどうにもずれてしまっているし、
ちゃんと落ちてもいない。不発弾だ。
怪異として棚の裏の女の子、という定番ネタなので誤魔化そうとした、というようにしか
感じることは出来ない。
■【−2】解体現場
<文章> −1 <体験> −1 <得点> −2
怪の準備作業にえらく手間を掛けておきながら実際の怪異はわずか三行(長文による改行
除く)。
このビルの解体工事と同じでどうにも作業段取りが宜しくない。
そのために怪の印象はかなり薄く感じられてしまう。
冒頭その現場の「前」というのが妙に気になってしまった。しかも読んでいくとやっぱり
怖いのは前ではなくて現場そのものなのでは。本来最初の文章で「その現場」と始まって
説明がずっと後までない、というのも適切な流れではない。これも題を受けてしまって
いるのだろうか。
続く「鬼門」も方位を表わす方が本筋だし最近むしろそう使われ方を多く見受ける。
派生形として使う場合も「苦手なジャンル」「どうしてもはまってしまうポイント」の
ような意味合いであって、ここで使われているような怖い場所、嫌な場所として使われている、
というケースは見たことがない。というか使い方を間違っている。
会話の最後に全て「…」を付けられると、いちいち言い淀んでいるようで気持ちが悪い。
■【−4】ポケット
<文章> −2 <体験> −2 <得点> −4
ポケットから突き出てくる上、妙に親切な霊の登場。
折角のユニークな素材を、この作品も文章がぶち壊してしまっている。
とは言え、子細に見るとこの怪異というのも相当の矛盾を抱えており、信を措く能わず、
というのが正直なところ。
とにかく圧倒的に説明不足。
一発怪談としてはちょっと長いし、通常の怪談としてはかなり短め。
この中途半端な長さにまとめなければいけない理由でもあったのだろうか。必要な説明を
ほとんど省略してしまう、という愚挙に出てまで。
「路面は濡れていて」唐突にこういう文章が出てこられても。
荷物を抱えていて路面が濡れている、というのは雨上がり、ということなのだろうか。
それとも何か散水されていたのか。まずこの現場の状況が飲み込めない。
「思わず荷物にしがみつき、奇声を発しながらぐるぐる回る」荷物の形状、大きさが
判らないためしがみつくってそんなに大きい荷物だったの、とここで急に理解できる始末。
しかも何故ここで奇声を発しながら回らねばならないのだろうか。道が濡れているから
落としたくなかったのか。でもそれすら回る理由にはならない。
「手は携帯を荷物の上に置いて」これも荷物がどんな形なのか明らかではないため
急な印象を免れない。
矛盾というのは怪となる手の位置関係。
上着の左側から出て右ポケットを探った、ということになっているが、胸の前には
しがみつける程の大きな荷物を抱えている筈。手は荷物と腹の間をこじ開けてきたのか
あるいは荷物を回り込んできたのか。しかもその状況では体験者が腕の出た位置などを
すぐちゃんと確認できるようにも思えない。
その後荷物にしがみついている、というから外側を回り込むとなると相当な長さになる。
このあたり、そういったディテールにちゃんとした説明があれば納得出来る可能性も
あるけれど今ある作品からしか判断できないため、その矛盾を重視してポイントを下げた。
何だか最近観た「それでもぼくはやってない」の痴漢判定再現ビデオみたいだ。
■【−6】わやわやわや
<文章> −3 <体験> −3 <得点> −6
前回大会で比較的一発怪談の評価が高かったせいか、今回挑戦者が急増している。
しかもレベルが圧倒的に落ちながら。
それは当然かもしれない。一発怪談を出来るようなネタも書ける人材も限られており、
そのかなりは前回応募されてしまった、とも考えられる。いつでも誰でもこのジャンルを
出来るものではない。というよりむしろ千載一遇のチャンスを一期一会の精神で捕まえない
限り成立しないものではないだろうか。
この作品でもとても一発怪談としては耐えられない。
否、怪談としてもこのままでは耐えるレベルではない。
どうにか最大限好意的な解釈をすると、寝ている時何か複数の「人の声」がする。
それで目を覚ますと自分の周りにはたくさんのペットだけがいて人間は誰もいない。
そう取れなくもない。
が、それも目一杯の努力と相当量の推測を重ねた結果その可能性がちょっと感じられた
だけで、普通に読めば周りにペットが集まっていてうるさく目が覚めてしまった、
ただそれだけである。
文章もショートショートにしたことでその説明力不足が一層露わになっただけで
ここに指摘する気力も起きない程最初から最後まで全ての文章が「ダメ」だ。
■【+5】海が呼ぶ
<文章> +3 <体験> +2 <得点> +5
ネガティブなことばかり書き続けちょっと心が萎えかけていたところで、いきなり
凄い作品にぶち当たった。
さりげなく因縁話からスタートする。この段階では七人みさき含め似たような
話がないわけでもないのだけれど、文章が優れていてテンポ良く、最初の段落で
早くも単なる偶然を超えた力を予感させ、ストーリーも俄然期待が高まる。
そしてお父さんの遭難もきちんと検証がなされているため相当不自然であったと
いうことがすんなり納得出来る。
その後の家族と周囲の対応もそれぞれにしっくりと来る上に情の繋がりもきっちりと
描き切っており、この段階でもう少し感動してしまう。
そして、クライマックス。最早付け加えるべき言葉は、ない。
その場の情景を余すところなく表現しており、しかも無駄な文章もない。
事象としても不可思議性100%で文句はない。
題名の付け方を含め、およそ怪談の模範演技と称して全く問題はあるまい。
勿論これはこの話が類型的といっているのではなく、その新鮮さでも今大会作品中
ここまでのナンバー1クラスであることは間違いない。
本来なら最高点を差し上げてしまいたいしそうすべきところだと思う。
ただ、最高点はこうした著者による最高に「怖い」怪談にとっておきたい、という
何とも理不尽且つ身勝手な欲望を抑えられないため、厳しいとは思いつつも+5と
しておく。怪談は怖くなくても良い、と言っておきながら自己矛盾しているけれど、
こうしたものを目にすると、一段と欲が出てしまうものなのだなあ。
■【+1】対処法
<文章> +1 <体験> 0 <得点> +1
「超」怖い話やこの大会の多くの文章とは大分異質の文体である。
ただ、これもありかな、という気がする。かえって新鮮かも。
しかも途中の段落で「た」が続いてしまってややリズムを欠くものの、描写も
概ね適切で判り易い。
一方、怪の方は残念ながら弱い。
ラップ音は怪の前兆現象みたいなものだから怪談インフレの激しい昨今では
それだけで満足させよう、というのは難しい。これは自然現象であって怪では
ない、というトラップもあるし。
このトラップに関しては人の声で止まる、という人為的な力が加わることで
超自然の方に振れてはいる。
ただ、これも一度だけでは偶然では、という疑いを拭い切れない。
誰か試してみて同じようになるなら疑ったことを謝罪せねばなるまい。
■【−1】満員トイレ
<文章> −2 <体験> +1 <得点> −1
途中までのんびりと動いていたエスカレータが突然三倍速になってしまったような、
ローのギアからすっ飛ばしてトップギアに入れられてしまったような、あまりの急展開に
ついていけなかった。
というのも内容が突然展開する直前まではマイペースで仕事をしていたのにトイレに
行くのをわざわざ確認したり(コンビで作業しているわけではなさそう)、男口調で
冷酷に言い放っておきながらトイレに行ったと見たら一休み入れたり、明らかに異常な
黒い人の行列に出合いながら「トイレが一杯で入れません」という間抜けな対応をして
全く恐怖が感じられなかったり、とレベルはさまざまながら違和感を感じちぐはぐな
印象を受けていた上にわりとまったりとした流れだったのだから。
素材としてはかなり怖い部類ではあるので、前半を整理して後半への繋ぎをもう
一工夫すれば純粋に恐怖を堪能できるようには思う。
■【−1】友達
<文章> −2 <体験> +1 <得点> −1
実話怪談の大会なので、「実体験です」は要らない。
本文も本当に「体験談」になっている。要は怪談になる前の原石のまま。
一見夢ネタか、と思わせておいて暗転させ、しかも現在進行形。
先の気になる「良い」話にはなっている。
それだけに惜しいところではある。