【+5】海が呼ぶ
<文章> +3 <体験> +2 <得点> +5
ネガティブなことばかり書き続けちょっと心が萎えかけていたところで、いきなり
凄い作品にぶち当たった。
さりげなく因縁話からスタートする。この段階では七人みさき含め似たような
話がないわけでもないのだけれど、文章が優れていてテンポ良く、最初の段落で
早くも単なる偶然を超えた力を予感させ、ストーリーも俄然期待が高まる。
そしてお父さんの遭難もきちんと検証がなされているため相当不自然であったと
いうことがすんなり納得出来る。
その後の家族と周囲の対応もそれぞれにしっくりと来る上に情の繋がりもきっちりと
描き切っており、この段階でもう少し感動してしまう。
そして、クライマックス。最早付け加えるべき言葉は、ない。
その場の情景を余すところなく表現しており、しかも無駄な文章もない。
事象としても不可思議性100%で文句はない。
題名の付け方を含め、およそ怪談の模範演技と称して全く問題はあるまい。
勿論これはこの話が類型的といっているのではなく、その新鮮さでも今大会作品中
ここまでのナンバー1クラスであることは間違いない。
本来なら最高点を差し上げてしまいたいしそうすべきところだと思う。
ただ、最高点はこうした著者による最高に「怖い」怪談にとっておきたい、という
何とも理不尽且つ身勝手な欲望を抑えられないため、厳しいとは思いつつも+5と
しておく。怪談は怖くなくても良い、と言っておきながら自己矛盾しているけれど、
こうしたものを目にすると、一段と欲が出てしまうものなのだなあ。