2007-03-09
■【−1】釘
<文章> 0 <体験> −1 <得点> −1
書き出しから期待させる文章であった。
意外性のある発言で、語り口も巧み。どんどんと惹き込まれていった。
そして人情系の怪談になるかと思いきや、ボーダーぎりぎりの話に
収束すると思わせ、唐突に怪が語られぷつり、と終わる。
どうにもこちらの気持ちも翻弄されてしまい、視点が定まらなかった。
やはり一番肝となる怪異がそれなりにボリュームのある話の中で最後の
一行だけ、というのはバランスが悪い気がするし、それまでの話のトーンと
急変してしまう話なので面食らってしまう。これを柱に据えるのであれば、
ストーリーの構成もここにもっと焦点が当たっても良い。
文中あまりに誤植が多いことと、会話の最後を…のしかも二段重ねで
余韻をつけよう、という技法はいずれも気に障る。
■【0】置いてけぼりの荷物
<文章> −1 <体験> +1 <得点> 0
何だか欲求不満が溜まる。
導入は調子良く怪までは面白く読み進めた。
しかし、それが何だか煮え切らない感じで収束してしまう。
もっと凄い話にもなり得る怪談の卵がそのまま孵化せずに終わってしまった
ようだ。
文章もその大半を一行おきに書いていく、というのはえらく間延びした印象に
なってしまう。
怪談向きのスタイルではあるまい(元々好きでもないけれど)。
■【−4】電話男
<文章> −1 <体験> −3 <得点> −4
真冬でもTシャツ半パン、という人は、それなりに実在している。
しかも他から苦情が来ている、ということでむしろ怪というより現実の人間では、
という疑惑を強めてしまっている。
電話までかけている、というから尚更だ。
他の人々にしても現れたり消えたり、ということであればこれも普通の行動の
ようにも思われる。
とにかくこの話の中には怪と呼べるだけのことは何一つ起こってはいない。
文章面では「今はどうなのかと尋ねると。」のような特異な切り方の文が頻出する。
ここ、というところで一、二回使われるなら効果を挙げる場合もあるだろうけど、
こう多いと目障りなだけ。
題名もこの内容だとわざわざ有名作品をパクる必要もあるまい。その関連性の
無さが一段とこの作品への失望に繋がる。
■【0】モッテ
<文章> −1 <体験> +1 <得点> 0
怪談と「東京伝説」が合体したような実に嫌な話である。これは勿論誉め言葉。
ただ、冒頭から怪が起きる前あたりまでは快調だった文章や内容が怪異を語る
あたりから急速に壊れ始め、最後は体験者の語りだけで締めてしまう、という
投げやりなスタイルへ。
内容よりもむしろその変貌ぶりに唖然とした。
最後の文章も言わずもがな、なんで書かない方が含みが増す分効果的だろう。
怪しいけれど十分に納得がいくKの行動やら生き霊だろうと死霊だろうと
どっちにしろ怖い××さんやら、良い素材は満載なのに。
とにかく一番大事な女性を「××さん」と表現するのには全く賛同できない。
こういう変な記号が怪談に入るとそれでリズムが壊れる。別に仮名でも
アルファベットでも良いのだから。
さらに怪異の最中のその霊体と思しきものをさん付けで呼ぶのも緊迫感が
薄れるので止めた方が良い。言い換え方法などいくらもある。
こういう状況ならまず紐に目がいきそうなもので「普通ではない空気」が
先に感じられる、というのはちょっと気になるけどなあ。
■【+1】ピースサイン
<文章> −1 <体験> +2 <得点> +1
最初「こっそり」というところに引っかかった。
飛び降り自殺に出くわすというのはそうあるものではない(人によっては
あるようだけど)し、それを盗撮のように写すのはどういうことだろう、と。
しかし、考えてみるにこれは飛び降りるシーン、ではなくその後の現場に
居合わせた、ということなのだろう。
だとすればそこで撮影をするなんて不謹慎だし警察が見張ってもいそうだし
辻褄は合う。
一言でもそういった事情の説明があれば、余計な手間がかからないんだが。
これはよくあるミスとも思える霊写真、のレベルを遥かに超えている。
と言うか別次元である。
ただ、これもそういった怪のディテールが全く省略されてしまっているので
恐ろしさが伝わって来ない。
しかもこれは仕方ないんだろうけど霊体がピースサインなどという間抜けな
仕草を見せてしまっているので一層恐怖からは遠離ってしまう。これが特徴では
あるんだけどね。余計なことをしてくれたものだ。こいつは死んだことを
意識していないのか、霊であることを楽しんでいるのか。体験者自体に
くっついてしまっているようだし。
冒頭の文章含め、この作品もショートショートにまとめてしまうよりもっと
しっかりと書き込んだ方が怖さが強まるように思う。
それと、題名がやはりネタバレなのはいただけない。
ちなみに、この霊は自殺者とは全く違う人なのだろうか。書き方からすると
そうらしいけど。
■【−2】黒い蛇
<文章> 0 <体験> −2 <得点> −2
ストーリーとしては起承転結を得て巧みだし、文章も読み応えがある。
だが、根本の部分でどうにも承服しかねるところがあり、全体から
感じる雰囲気も含めて良くできた「物語」との印象を持ってしまった。
それは地面の上にタイルが直接貼られていること。
これは「施工」業者がそう説明しているので間違いない。
しかし、そんな貼り方をするだろうか。
いくら整地しても地面ではどうしても凸凹が出来てしまうし、雨などが
染み込めば(それが容易であることは確か)それで相当歪みが出てしまう。
とても綺麗な状態は長く保たないだろう。
専門家ではないのでネットで結構検索してみたけれど、実際家の玄関前
レベルの小さなものでも分厚い煉瓦を置くケースを除きすべてコンクリートか
モルタルを流し込んで地盤を固めてからタイルを置いている。
ごく当然の処理だと言えよう。
さらにタイルはかなり弱いものである。
それが飛び降りた際タイルが全く平気だったのは何故か。
もしそこに異常があればそれはすぐに補修されただろうし、血についても
気付かれてしまって今回のような事態は発生しなかっただろう。
だからタイルは大きく損傷してはいなかった、と考えるしかない。
一方、これもネット検索情報によると体重60kgの人が高さ3階(9.8m)から
飛び降りた際の運動エネルギーは時速50kmで移動しているのと同じだという。
このビルが何階建てかは知らないけれど、通常3階というような低いところから
飛び降りる人間がいるとも思えず、そうなるとそのエネルギーは遥かに大きい
ことになる。
そういった物体が激突して無事でいるタイル、というものが想像できない。
さらにはタイルの補修時になぜ自殺者の上司が居合わせたのか、という謎もあり
文章全体から感じられる技巧的な印象(+出来過ぎ感)も含めると、私にはこの話が
実話である、ということは信じ難い。