Forgotten Dreams

2007-03-15

【0】1991年


 <文章> −1  <体験> +1   <得点> 0


 霊と体験者の意識が同化してしまった、という話である。これは

種々の怪談中に時折ある話でそれ自体新鮮味はない。

 ただ、ここでは霊に意識を支配されたような形で行動まで

起こしている。それは一歩レベルが高い。


 もっとも話の落とし方には疑問も残る。

 この話では冒頭書いたように意識の同化が起こっている。

 そして、クライマックスで男子学生が呼んだのは「久子」。

 とすると、この段階では本人が姿を見せたのではなく、霊だけが

ある程度分離して出ていった、と考えた方が自然だ。

 だから締めの文章はかなりピントがずれた発言である、と言える

だろう。


 また、紺ブレザーにソバージュ、というファッションだったので

時代について詳しく語り題名もそうしたのだろうけれど、この怪談の

本質はそんなところにはない。別にどんな服で髪型であっても

全く問題なく成立する内容だ。この時代と特別に寄り添った怪異でも

ない。

 著者としての懐かしさなのかもしれないけれど、それが内容を

引き立てない道具立ては出来るだけ控え目に使っていかねば、本編の

印象を薄めてしまうだけだ。

【+1】連続攻撃


 <文章> 0  <体験> +1   <得点> +1


 起きた怪が結構ユニークだったのだから、もうそれを規定してしまうような

台詞は不要だろう。明らかにその空想の拡がりが萎んでしまう。


 表現にステレオタイプなものが多くその分印象を弱めてしまうのも残念だし、

所々いかにも説明的なフレーズが出てくる上にそれが微妙にずれてしまっている。

【0】パチスロ


 <文章> 0  <体験> 0   <得点> 0


 この作品もテーマは怪談になく業界裏事情話。

 それはそれで面白いし興味深いんだけれど求めているのとは違うものを

与えられた、感が強い。

 肝心の怪異が老人の声だけでは怪談として高い評価を与えることはできない。

 しかもその因果が明確にされてしまっているのもかえって余韻まで失ってしまい

一層痩せてしまった印象がある。


 店長が、潰れた店から持ってきていることは知っていながらその理由を

知らなかったり、中古台に居付かない理由について噂すら出ていないようなのも

少し気になる点ではある。

【−2】タマゴ


 <文章> −2  <体験> 0   <得点> −2


 折角良い素材を手に入れながらそれを台無しにしてしまった、そんな印象がある。

 もっともその素材もよく判らない部分が多いのでそれを勝手に自分でつなげていくと

結構怖い話になり得るかも、という曖昧さではあるのだけれど。

 なにしろ、今のままでは3つの部分が全く切断されたままの話であまりに脈絡がない。

 一つ一つの文章はそれなりにきちんと書かれているのに全体構成としては何だか

怪異そのままにぐちゃぐちゃになってしまっている物語。

 案外珍しい事象に遭遇させてもらった。


 冒頭の段落。

 三章の中では最も良い。

 怪異ではなく人の手になるものながら何とも気味が悪く、導入としては素晴らしい。

これから起きるであろう相当にたちの悪そうな事件への期待がぐっと膨らむ。

 文章もちょっと改行が多過ぎる印象は有るも問題になるレベルではない。


 そして第二章。

 まずこうした大きな節目はちゃんと行を開けてもらわないと。話が長いものだけに

読み手の息が続かなくなってしまう。

 怪異そのものについての記述が中途半端で物足りない。

 どんな位置にどのような状態で存在しているのか、それが皆目不明なので想像し難いこと

この上ない。一番肝のところなんだからもっともっと盛り上げて欲しい。

 何となくタマゴとこの異形とを重ね合わせているようだけれど、単に白くて楕円形、と

いうだけでは強引過ぎて承服しかねる。ぐちゃぐちゃになった顔は白には見え難いし

白塗りでもしてなきゃ顔色の「白」とタマゴの白は相当違うからねえ。

 何故もし仮に繋がっていたとして、霊とタマゴとはどんな関係にあって、義母はその

タマゴをなぜ彼女に渡したのか。そのことに何の意味があるのか。

 勿論全てが明らかにならなければいけない類のものではないけれど、だからと言って

何一つ語らなくても構わない、というところまで飛躍して良いものでもない。

 少しは想像のヒントとなる欠片でもないと。レストランに行ったらうちはお客さまの

やりたいようにやってもらうのが良いと思っているので、と言われて生の肉と野菜を

切りも洗いもせず渡されてしまったようなものだ。

 この霊のことを最初は「赤い」と表現しているのも辻褄が合わない。


 第三章は壊れてしまっていて文意を掴み取れない。

 書いている内に長過ぎると思って端折ってしまったのか面倒になっていい加減にして

しまったのか当初とは比べものにならぬ程雑な文章であり、内容的に欠落しているところが

多過ぎる。

 例えば。

 「その様子には鬼気迫るものがあった」といきなり説明だけ書かれても、実感は全く

伴ってこない。

 一番は最後の下り。

 こここそ、タマゴと怪異とを結び付ける要の部分である。ここでちゃんと教えて

もらえなかったとしても何かないと「怪談」としては成り立たない。

 今のままでは、体験者が離婚原因について語る、というところがオチとなって

しまっている。しかも何だか体験者の精神的なものが理由となって。


 それは、これだけの文章を費やし縷々語ってきながら、結局具体的な怪異としては

一度異形のものに遭遇しただけ、という内容からも裏打ちされる。

 少なくともこの体験者=語り手は怪異を語りたかったのではなく自分の不幸な結婚に

ついて語りたかったのだ。

【0】玄関荒らし


 <文章> 0  <体験> −1  <愛犬>  +1  <得点> 0


 可愛がっていたペットが死後も出てくる、生前と同じようなことを続ける、という

怪談は枚挙に暇がない、という慣用句を使いたくなる程日常的である。

 しかも犬と靴絡みでは確か「新耳袋」だったか、もっとインパクトのある興味深い

事例が紹介されているものもある。

 なので、ここではことの信憑性ではなく、現状の怪談レベルへの配慮が無く新奇性の

低いネタを捻りもなく語ってしまっていることへの評価としてマイナスにさせてもらう。

 また題名と冒頭の文章でもう全てのオチまで想像できてしまってそこから一歩も

踏み出すことが出来ない、という文章・構成も高い評価は与えられない。


 前にもあったけど、愛犬への敬意を表しておまけ付き。