超常現象 フランスの呪いの城

インターネットが普及した現代では、自宅にいながら世界各地の情報が手に入る。
諸星大二郎のマンガに出てくる稗田礼二郎のごときフィールドワーカーは必要性がなくなったかのようにも思えるのだが、ネットの情報の限界を悟るきっかけになったのは、以下に述べるT城をめぐる私の実体験である。

ノルマンディーにあるフランスいち呪われた城、T城について知ったのは、カミーユ・フラマリオン(*)のオカルト本「Les maisons hantees en France (フランスの幽霊屋敷)」のネット上の書評から。当時、若夫婦と小さい男の子が住んでいたT城では、夜な夜なポルターガイスト現象が出現し、最後には謎の発火で焼け落ち、一家全員が火災で死亡したらしい。城主の手記も出版されているそうだ。
T城を検索してみると、Tとしか言及されてないせいか、まったく成果があがらない。所在地はカルヴァドスだと言う人もいれば、オート・ノルマンディーだと言う人もあり(いずれもノルマンディー内の地方)、念のため、ウィキペディアのノルマンディー地方の城でTから始まるものを全部チェックしてみたが、多分これらしいと思った物件が旦那の実家から程遠いオート・ノルマンディー地方にあるものだったので、早々と諦めていたのだった。
 * フランスの天文学者。アラン・カーデックの影響を受けて、超常現象や幽霊などのフィールドワークを行った。錬金術のモチーフを使った城を建てたアントワン・ダバディーとも交流があった。

そんななか、去年のクリスマス、旦那の実家に滞在中に、こともあろうに「ウェスト・フランス(西フランス)」という敬虔なカトリック教徒向けの明るく楽しい新聞のノルマンディー地方欄に、「フランスいち呪われた城」というタイトルの記事が写真入りででかでかと載ったのだった。記事の内容は、記憶の中のT城事件にぴったりと一致する。しかも家から近い!
まさか、ウェスト・フランスからこんな情報を頂けるとは・・・。

「新聞に出たから、人が多いかも知れないね」と言いながら向かったのだが、城の手前にある林に着いてみると人っ子一人いなかった。
この城がなかなか見つけられなかった理由は、
1 T城のTは町の名前。城の名称のイニシャルはTじゃない。
2 T城は私有城なので、基本的に立ち入り禁止。私有城はもちろんウィキペディアにも載らないから、ネットでは見つかりようもない。

誰もいなかったのは、ウェスト・フランスの読者がクリスマスの買い物や飾り付けで忙しく、また、普段から超常現象などに興味を持たないせいだろう。

持ち主に見つかるとやばいので、牧草地を走って突っ切り、枠組みだけが残った廃墟状態の城内へ侵入。

中に入るとこんな感じ

ウェスト・フランスの記事は、切り抜いて保管したはずなのになくしてしまったようだ(こういうの怖い)。仕方ないのでいまふたたびT城をネット検索すると、再び袋小路に迷い込み、検索ワードを変えてみても、心当たりのある城に行き着かない。有名な超常現象事件なので、どうしても場所を突き止めたいというオカルトファンのブログがたくさんヒットする。旦那に聞いたら、とんちんかんなリンクを送ってきた。どう見ても写真の城とは違うのに!

覚えているのは、カルヴァドス地方の丘の上のTではじまる恐ろしく小さい集落の外れの林の中だったということなんだけど、そんな場所はノルマンディー地方にはたくさんあるので、あまり頼りにならないだろう。それに、こういうのはT城という謎のままに残しておいた方がいいのかも知れない。