日本の原像を求めて

前半は日本書紀から始まり、仏教伝来、聖徳太子平安時代元寇、鉄砲とキリスト教伝来、鎖国、開国、明治維新、太平洋戦争までの日本の歴史、主に、日本と海外がどのように関わってきたのかを綴る。たった100ページで振り返るのだが、的確なダイジェストに驚く。膨大な知識に裏付けられていること、著者の日本への関心の深さが伺われる。


後半は、著者ニコラ・ブーヴィエの数度にわたる日本滞在記。最初の来日は、昭和30年に貨物船に乗って横浜港に着く。ひとりで東京の街をさまよい、たまたま入ったバー「詩」のマスターの紹介で、なんとか新宿荒木町の粗末な部屋を間借りする。毎日銭湯に通い、普通の人と同じように暮らす。金が無くて大家のオータさんに家賃を督促される。近所の人の写真を撮ってあげることで、少しずつまちに受け入れられていく。


第3部、「「風の薔薇」を持つ都」は、東京オリンピックの開催された昭和39年に来日、京都の大徳寺の中の家を借りて滞在した様子。第4部、「月の村」は愛知県の山奥の村祭りについて、第5部「記憶の無い島」は、北海道滞在記。過去の濃密な歴史に捕われていない北海道の開放感が気に入ったのか、故郷の風景に似ていて親近感があったのか、かなりのボリューム(80ページ)を割いて、北海道各地を訪ねた様子をつづる。


単なる日本礼賛でなく、冷静な目、時には皮肉な目で、昭和30年代の日本の風景を切り取っているのが面白い。

毎晩町内の人々が集う銭湯には、生きる喜びさえある。
「男性専用」の側に入る。鏡張りの部屋で地元の青年たちが誇らしげに力こぶを比べあっている。(中略)こんなにとっつきやすい日本人に出会えるのは銭湯をおいてほかにない。選挙前になると、この「弛緩」に目をつけ、日に10回も銭湯に足を運ぶ代議士がいるほどだ。顎まで湯につかってすっかり無防備になった有権者を見方につけようというわけだ。

日本の原像を求めて

日本の原像を求めて


著者は、日本に来る前、昭和28年にスイスを出発して、インドまで中古のフィアットで2年かけて旅している。そのときの記録が「世界の使い方」こちらも読んでみたい。

世界の使い方 (series on the move)

世界の使い方 (series on the move)