ミステリは万華鏡 (集英社文庫)

ミステリは万華鏡 (集英社文庫)

「謎」に出会うと解いてみたくなる。解かずにはいられない。解けるまでやめられない!―そんな宿命的な性を持つ「男の中の男」北村薫が、ミステリの名作から、詩や絵画、テレビで耳にしたエピソード、食膳に供される魚のホネの秘密まで、この世の中にちりばめられた様々な謎を、愛をこめて解き語る。「こいつは本格だ!」思わず叫びたくなる、ディープな喜びと蘊蓄、そしてユーモアに満ちたエッセイ集。


本書や『謎物語』でも書かれていた事だけれど、読み手それぞれの「解釈」があるからこそ本は面白い。これは珠玉の言葉だと思う。そして、この本で紹介されている数々のミステリ・小説・新聞記事・会話も北村さんの手(「解釈」)にかかるからこそ、魅力的に輝いて見える部分も多々あるのだろう。どの本も話もとても興味深い。けれど私は紹介されている本を読む事は、まずないだろう…(苦笑) 北村薫の読書量というのは計り知れない。本当に「呼吸するように本を読」んでいるのだろう。この本もそんな巨人・北村薫の知識と経験があってこその本である。古今東西の物語を編むという新たな物語が出来上がっている。
「謎物語」でも思ったことだが、エッセイの北村薫さんの文章は少し変わっている。私の予想を裏切る文章の展開なのだ。発想が少し飛んでいる。多少の戸惑いを覚える。が、それは北村さんの練りに練った配置なのだと気づく。この私の配置の絶妙さに痺れる。この配置が北村さんの言いたい事を一番分かりやすく訴える文章になるのだ。そして、その結論を急がない文章は奥床しさや品すら感じる。やっぱり私は北村薫の文章が、とても好きだ。喜国雅彦さんや、この本の解説を書かれている山口雅也の精神も面白い。謎への探究心という無駄にも思われる情熱。ただ、これはとても人間的な心理である。無駄な男性的心理ともいえるけれど…。喜国雅彦さんといえば本蒐集家として有名で、この本に出てくる古いミステリももちろん持っている。ただ読んでいない…「男だねー」(笑) そして忘れてはいけないのが、北村さんも「男の中の男」だという事。こちらはミステリを読みまくる男である。本の中で繰り広げられる興味深い話で忘れてしまいがちだが、この本は本格ミステリを強く肯定している。人の世界にある「本格的なもの」、そして本格ミステリの面白さを「青い炎」のように語っている。ただ、残念なのは「謎物語」ほど強く共感できなかった。それは北村さんの主張が二度目だからというのもあるだろう。もちろん面白いのだけれど、前回と同じ味付けな事も否めないと思ってしまった。

ミステリは万華鏡ミステリはまんげきょう   読了日:2005年09月20日