リトル・バイ・リトル (講談社文庫)

リトル・バイ・リトル (講談社文庫)

ふみは高校を卒業してから、アルバイトをして過ごす日々。家族は、母、小学校二年生の異父妹の女三人。習字の先生の柳さん、母に紹介されたボーイフレンドの周、二番目の父。「家族」を軸にした人々とのふれあいのなかで、わずかずつ輪郭を帯びてゆく青春を描いた、第二十五回野間文芸新人賞受賞作。


文庫版の作者のあとがきにこう書いてあります。『楽しい話を書こう、と思いました。それもただ楽しいだけじゃなく、どんなに外側から見たら苦しい状況でも、人と人が一緒にいてお互いに楽しく生きようと思うことで、十分に幸せになれること』。その通りで、作者の理想通りの物語でした。チャンチャン。
…では終われませんね。私自身の感想を書かなくては。本書は本当に別段何も起こらないのが特徴。冒頭で母は突然に職を失い、主人公のふみはボーイフレンドの周と交際を始める。けれども、それが大事件としては書かれていない。母は直ぐに再び職にありつくし、ふみも恋に舞い上がるような性格ではない。淡々と続く日常、淡々と続く毎日。ただ、変わらないような毎日も「リトル・バイ・リトル」変わっていく。季節は少しずつ移ろい続けるし、ふみも周に会う度に彼の事を知っていく。逆もまた然り。過剰な描写を排除しながらも、重要な要素は書き漏らさない。そういう文章に対する丁寧な姿勢が見えるようだった。
本書の、というよりも主人公・ふみ最大の事件は、数年前から刺さったままの一つの棘が取れた事であろう。過去の、父親との思い出の中にある棘が、ある日突然に抜ける。ふみは棘の抜けた身体で正しく未来を歩いていけるはず。
これは『メッタ斬り』でお馴染みのお二人(大森望豊崎由美両氏)の意見に左右され過ぎているかもしれませんが、果たして「なまもの」であるアサリは使い切らず翌日まで残しておくだろうか、と疑問に思った。また、ふみには直接何も起こらない小説ではあるものの、飼っていたハムスターや柳さんの奥さんを死なせたりするのは、作者の身勝手が過ぎるかな、とも思う。それもこれも全部に意味がある事なのかもしれないけれど。やっぱり文字が大きくて少ない小説は今でも苦手みたいです。私の読解力の無さが物語の価値を身勝手に下げているようで怖い。読書はDON'T THINK.FEELだとは思うのですが…。

リトル・バイ・リトル   読了日:2007年12月10日