さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

一九九一年四月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。謎を解く鍵は記憶のなかに…。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。気鋭の新人が贈る清新な力作。


相変わらず私の高校時代とは思考回路の違う人たちが登場人物の米澤さんの学園モノ。そして相変わらず微妙な感情の交錯が上手い米澤さんの学園モノ。難しい言葉を知りながら、なんでそんな鈍感なの!と主人公・守屋には愛を叫び続けました。太刀洗の性格がいまいち分からなかったけども、恋愛や人生・己の無力さなど、色々な面において甘酸っぱい作品でした。やはり米澤さんの代名詞「ほろ苦い」にも近いかもしれない。今回は苦すぎて飲みこめないのが特徴。
構成は『氷菓』『春期限定いちごタルト事件』などに見られる、日常の謎を積み重ねていく形式。そのささやかな謎の提示と解決で読者の興味を惹き、最後には大きな謎が現れる、というのも今までの作品と一緒。ただ今回の謎はどれもあまり魅力的ではなかったかな…?基本的に謎の提示は異国人のマーヤの聞き間違いから起こるので、出題にちょっと無理があり解決も強引と思える箇所がいくつかあった。しかしこれらは助走である。彼らがマーヤと過ごした日々の中に最後の謎の答えは隠されているのだった。そこは上手いと素直に感心した。
今回の最後の謎は日常の枠を大きく越えている。時代の設定と場所が小説の展開にも大きな影響を与える。聞いたことのある地名、そして浮かぶイメージ。読み進めるのに漠然とした不安を感じる。そこで起きてしまった問題は恐らく誰の手にも余る問題である。しかし魅力的な少女と彼女が抱える問題を知ってしまった主人公・守屋は彼女の力になろうと決意するが…。ここが今回のポイント。米澤さんの作品でこんなに無力さを感じさせられるとは思わなかった。そして終章…。
モチーフは石持浅海さんの『アイルランドの薔薇』に似てるだろうか。この手の小説を読むと胸を痛めるし、主人公と同じで大した問題のない日本に住んでいることを少しだけ悪いことと思ってしまう。けれど、それも主人公と一緒で当事者ではない者の客観的な視点の憐憫であって、軽い興味から発するものなのかもしれない…。

さよなら妖精さよならようせい   読了日:2005年12月17日