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2010-05-14
田中秀臣「デフレ不況 日本銀行の大罪」
今の日本が、田中先生が本書で描く状況だったならば、日銀が果敢にリフレ政策を遂行しているifシナリオの次ぐらいにいい状況にあるのではないか、とwebmasterは思います。しかしながら、実はもっと悪い状況にあるのでは、との危惧はwebmasterの頭の中からなかなか去ってくれません。できることなら、田中先生の分析のとおりだと信じたいのですが、かく信じるためには見たくないものが、webmasterの目には見えているような気がしてならないのです。
田中先生の本書でのご主張をwebmasterなりにまとめるなら、次のようなものとなります。
- まともな経済学から現下の日本経済の処方箋を導き出すならば、それはリフレ政策であるはずで、にもかかわらず日銀は誤った「日銀理論」に固執しリフレ政策を採用していない。
- そのような日銀への批判が少ないのは、日銀による言論統制ゆえである。
- 日銀のガバナンスを改めることができれば、そうした日銀の姿勢は正され、日本でもリフレ政策が実現されるはずである。
しかしたとえば1.については、次のような主張を無視できないのではないでしょうか。
―日本が成長率を高めるために、どのような構造改革が必要か。望ましい財政、金融政策は。
ロゴフ教授 まず最初に取り組まなければならないのは、労働市場の改善だ。金融政策は魔法のような解決法にはならない。(略)
次にできることは何か。それは生産性の伸びを高めることだ。日本は20年前まで顕著な生産性の伸びを経験してきたが、今はそれが停滞している。だから、労働人口を増やすことに加えて、生産性の改善が必要だ。この二つが経済成長の源泉になろう。
(略)
金融政策は、予見可能な将来は緩和的なスタンスとなっている。日本は今デフレ状況に見舞われており、日銀は安定的なインフレになるように環境を整備しなければならない。金融政策の根本的な大改革を行う、というわけではないが、政策を変えるのが一番簡単だから、最も頻繁に話題に上るのは金融政策、ということになる。
しかし、やらなければならないのは財政再建だ。そうすれば金融政策も、今後大きなインフレを招くことを阻止できる、という意味において役立つ。日本では長い間インフレがなかったが、財政再建が実現しなければ、金融政策も効力を発揮できない。
より正確に言うなら、日銀が独立性を維持できるなら、日本は穏やかなインフレでとどまるだろう。しかし、巨額の財政赤字をコントロールできなくなる中で、日銀に対する政治圧力が強まったとき、日銀の完全な独立性が維持できなくなる可能性がある。それは、日銀が大きなインフレを食い止めることができなくなる、という意味だ。
―日銀はインフレターゲットを採用すべきか。
ロゴフ教授 長い間、その是非を考えてきた。標準的なインフレターゲットを採用している中央銀行に日銀がならなくてもよい理由は見つからない。しかし、そうしたターゲットを持つ中央銀行であっても、金融危機には直面した。グリーンスパン氏が率いた米連邦準備制度理事会(FRB)がそうだったし、イングランド銀行(英中央銀行)でも同じことが起きた。
従って、日銀は今までの狭い考え方の枠組みにとらわれず、新しい考え方を追求し、より融通の利くアイデアを採用すればよいのではないか。そうすれば、資産価格の高騰や借り入れレバレッジの膨張で再び金融危機に陥る事態を回避できる。
長い目で見ると日銀は今、世界の中央銀行で最も良い立場にいる。これまではいろいろな人が来て説教を受ける立場だったが、今や突如としていろいろな国からどういう対策を講じるべきなのかについて、アドバイスを求められている。
2010.3.8 金融財政ビジネス pp4-9
1.に関連して、田中先生はクルーグマンやスティグリッツ、バーナンキといった錚々たる学者による日銀批判を紹介していますが、ロゴフとて彼らに決して勝るとも劣らない業績を誇る学者です(こと国際マクロ経済学に関して言えば、素人目には、クルーグマンらを上回るかにも見えます)。リフレ政策関連の話題に親しんでいる方々なら、このロゴフの見方はいわゆるBISヴューに属するものであることをご理解いただけるでしょうけれども、BISヴューとFEDヴュー(クルーグマンらの見解)のいずれが正しいかは、経済学的には未だ軍配の行く末が定まらない問題ではないでしょうか。
であるならば、2.についても違う可能性が考えられます。田中先生が本書で挙げられている言論統制の数々は、裏取りを可能とするような固有名も明かされなければ、反対尋問的な検証もなされていない事例であり、そのまま真実であると信頼するに難がないとは言い切りづらいです。少なくとも状況証拠を見る限り、ロゴフを代表とする世界中のBISヴューを主張する経済学者が日銀の言論統制に呼応しているとは考えづらいですし、こと日本に限っても、大瀧先生や福田先生、脇田先生といった数々のマクロ経済の専門家が反/非リフレ政策を唱えているのは、日銀の鼻薬のせいなのでしょうか? 逆に、日銀の言論統制がそれほどのものであるならば、日銀出身の深尾先生がリフレ政策を唱えていることの説明はつくのでしょうか?
3.についてはどうでしょうか。新日銀法制定時の議論を渉猟したことがある人ならば、新日銀法において目指す理想像とされていたのはFRBでもなければBOEでもなく、Bundesbankであることに異論はないと思います。そして、BundesbankとはBISヴューの象徴であることに異論がある人も、まずいないと思います。少なくとも新日銀法制定時の日銀のミッションとは、日本のBundesbank足れということだったのですから、そのミッションが変更されない限り、ガバナンスが改善されれば改善されるほど、BISヴュー的な政策運営が強化されざるを得ないのではないでしょうか。
冒頭のwebmasterなりの本書の整理に対応させるように以上の危惧を整理するならば、次のようなものとなるでしょう。
- 中央銀行の政策運営姿勢としてのBISヴューとFEDヴューについては、いずれかが経済学的に妥当で他方が非経済学的というものではなく、まともな経済学に基づいて議論しても(少なくとも現時点では)甲乙つけがたいが、現在の日銀は、このうちBISヴューに基づき金融政策を運営している。
- 日銀への批判が少ないのは、日本においてはBISヴューを妥当とする論者が多いため。
- 日銀に係るガバナンスが改善されれば、日銀の政策運営はよりBISヴュー的色彩が濃いものとなる。
以上は素人に過ぎないwebmasterの愚昧さゆえの杞憂であり、田中先生こそが正しいことを心より願う次第です。
- 519 http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/
- 384 http://pipes.yahoo.com/pipes/pipe.info?_id=f0f9ed567083a7ee26ee2b4c31110db1
- 299 http://d.hatena.ne.jp/tanakahidetomi/20100516
- 193 http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/bewaad/20100514/p1
- 114 http://www.hatena.ne.jp/
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