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2010-12-26
高橋洋一「バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる」
休筆前の最後の連載を多忙にて再開できず、誠に申し訳なく存じます。今般、とある中傷を受け、このままでは不当な評価が定着するおそれがあることから、自らの約束に反し本来すべきでないことは承知の上、この中傷関連に限定して、連載ではないエントリを書かせていただきます。
*法律は普遍の自然法則ではない
ブログを開いているある覆面官僚が、労働保険特別会計について同じような言い方で私を攻撃してきました。「高橋は、特別会計の資金は他に使えないという法律も知らないで、埋蔵金があるなどと言っている」というものです。
この人物はこうした法律の話をよく持ち出してくるのですが、冗談ではありません。労働保険特別会計の埋蔵金が法律を変えなければ、他に使えないということは百も承知です。承知しているからこそ、その法律を変えたらどうかと提案しているのです。その官僚は、私が法律の知識を持ってないと言いたい、あるいは思わせたいようです。これは官僚が使う常套手段です。
高橋洋一「バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる」, pp63, 64
ここで対象とされているwebmasterのエントリを部分的に転載します。
―この2200億削減をめぐって診療報酬が削られたりと、現場にしわ寄せがきているため、どう工面するかで毎年苦労しています。全くもって単純な話です。約5兆円の“埋蔵金”が厚労省の中にあるのですから、それを使えばいいのです。厚労省の一番大きい埋蔵金は、雇用保険特別会計です。今まで余ったストックが5兆円くらい、フローベースで来年度余る繰越金の8000億円があります。これを2200億円に充てればよいだけの話で、それでも余っていますよね。一般会計を削ったということにして、特別会計の余り金を充てる。このやり方なら、シーリング目標である財政再建にも反しないでしょう。おまけに財務省が見逃していて気付かなかったものですが、一般会計から雇用保険に2000億円の繰り入れまでしていたのです。さすがに最近は気付いて渋るようになりましたが、これを社会保障費に回すことだってできますよ。
■「厚生」「労働」壁をなくせ
では、余った雇用保険特別会計で何をしていると思いますか。「私のしごと館」などを造っているわけです。あんな役に立たない箱物を造るぐらいなら、何とかしてほしいと叫ばれている2200億円に充てればいいでしょう。厚労相の一声でできますよ。
「厚生労働省」とはいえ、実際の中身は合併前のセクショナリズムが働いているので、「なぜ『労働』の財源を『厚生』に回さなければいけないのか」という声が労働側から上がっていて、できないのでしょう。でもそんなことは外部からしたら関係ない話だから、あえて言います。「厚生労働省」という一つの組織の中でなぜできないのか。全くおかしな話です。もっとも、注意しなければならないのは、2%台を予想されていた名目経済成長率が07年度で0.6%、08年度では0.3%ぐらいまで下がっていて、そのせいで税収が落ちています。「骨太の方針2006」で5年間シーリングが決まっていますが、このままでは達成できないので、本来は「2008」の内容は変えなければなりません。その意味では変な状況が続いているということです。税収が落ちている時に2200億円を削るか削らないかという議論があってしかるべきですが、2200億円よりさらに削減額が増えたとしても、ストックが5兆円あるでしょ(笑)。それに回せばいいだけなのに、2200億円でどうこう議論しているなんてばかばかしい話です。
これはあんまりです。デタラメとしかいいようがありません。以下具体的に。
その1。雇用保険料は「雇用保険事業に要する費用に充てるため政府が徴収」したもの(雇用保険法第68条第1項)なので、それを社会保障費2,200億円に厚生労働大臣の一存で充当することは法律違反です。「厚労相の一声でできますよ」って、できませんってば。
その2。では法律改正をすればできるのかといえば、形式的にはできますが、それをすべきかどうか。雇用保険料は端的には失業した際にある程度の収入を保障してもらうために支払われたものです。つまりは問題は、一定の受益を約して負担されたものの目的外転用の是非であり、そのような法的観点を捨象して経済的観点に絞っても、雇用者・被雇用者から自営業者・非労働者への所得移転の是非です。素直に考えれば、余っているなら料率を下げろということですし、現に昨年の法改正で料率は下げられています。そうしたことに触れもせず、旧厚生省と旧労働省のセクショナリズムに問題を矮小化するのは、わかっていてやっているならきわめて悪質な印象操作ですし、わからずにやっているなら勉強不足といわざるを得ません。
(以下略)
http://d.hatena.ne.jp/bewaad/20080817/p1
ご覧いただければ一目瞭然かと存じますが、高橋先生のご指摘は、次のとおり正しい事実を何ら含んでおりません。
- もともとの高橋先生のテキストには、法律を改正せよとは一言も出てきておりません。「厚労相の一声でできる」とありますが、日本において法律改正は国会の議決を経ねば不可能であり、大臣(行政府)の判断で可能だと高橋先生が事実誤認をしていらっしゃらない限り、元のテキストには法律改正せよとのご主張の一片たりとも見出すことはできません。今般のご指摘については、「厚労相の一声でできる」とおっしゃったことに対して、それは法律でできませんと申し上げたわけですが、そうした前提の下でなされたwebmasterの指摘を不当に一般化して批判されていらっしゃいます。
#わざわざ、「法律を変えなければ、他に使えないということは百も承知です」とおっしゃっているのですから、当時とご意見を変えられたのでない限り、大臣の判断で法改正が可能だと事実を誤認をしていらっしゃっるのでしょうけれども。 - 当時、これで終わりにしてもよかったのですが、仮に法改正をするのならば、と高橋先生の「厚労相の一声でできる」とのご主張の難点をwebmasterは勝手に改善した上で、その是非を論じております。すなわち、当時有りもしなかった「その法律を変えたらどうかと(の)提案」を善解して対象に据えた上で論じたわけですが、今般の高橋先生のご指摘では、こうした事実関係はなかったこととされ、webmasterは法律に書いてないからできないとしか言っていない論者だと印象操作されております。
#一点だけ、「その官僚は、私が法律の知識を持ってないと言いたい、あるいは思わせたいようです」というのはおっしゃるとおりで、webmasterが、高橋先生が法律の知識を持ってない(と推察される)、と申し上げているのはご指摘のとおりです。法律を定められるのは国会であって政府(大臣)ではない、とは中学生レベルの知識ですので、かくwebmasterが思うのも故なきことではないと考えております。
なぜこんなやり口が罷り通るかといえば、日本のマスコミが官僚のこんな低レベルの詭弁さえ見抜けず、質問も反論もしないので、どうせ誰にも分かりはしないと舐めきっているからです。だから官僚たちは涼しい顔をして、「それはいまの制度では使えません」などと言っているのです。
高橋洋一「バランスシートで考えれば、世界のしくみが分かる」, pp63, 64
webmasterの主張を不当に歪めての印象操作に加え、「官僚が使う常套手段」などと人の属性に事寄せた中傷をする前に、ご自身が書かれた上の文章がご自身に当てはまることがないか、お考えになられた方がよろしいのではないでしょうか、高橋先生。
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