恐怖劇場アンバランス「木乃伊の恋」#1

big-cobra2011-07-24

「○島優子」の○に漢字を一字入れてアイドルの名前を完成させよという問題があったら迷わず「花」を入れる、愛ある限り戦いたいコブラ塾長です。
というわけで今回はニュースとしては遅いけど「ご町内の平和を守る神様」こと鈴木清順監督の華麗なるご再婚を記念して、恐怖劇場アンバランス第1話「木乃伊の恋」をレビューしたいと思います。


「恐怖劇場アンバランス」は円谷プロ製作の大人向け一時間ドラマでゴールデンでの放送を予定されていたが、過激な内容のためにお蔵入りとなり、約4年後に深夜枠でひっそり放送されたという曰くつきの作品。その記念すべき放送第1話が鈴木清順監督の「木乃伊の恋」なのである。
当時清順監督は「殺しの烙印」について「ワケのわからん映画ばかり撮りやがって」と激怒した日活社長から直々にクビを宣告されて映画界の孤児となった頃である。実相寺昭雄といい、まさに当時の円谷は異端児たちの梁山泊!!

これは入定(いわゆる即身仏)を果たした僧を描いた、上田秋成の「春雨物語」をベースにした物語である。ここで語られる粗筋と少し違うが、やはりこれを原典にした「二世の縁」という短編を塾長が私淑する水木しげる先生が描いておられたので個人的には馴染みのある題材だった。


雑誌編集者の則武笙子が、彼女の大学時代の恩師でありこの「春雨物語」を口語訳した国文学者・布川のもとを訪ねる道中の踏切で、若い僧を見かけるところから物語は始まる。彼女は僧を「生きていない」「人形」だとする一方、「これから入定するのだろう」と矛盾した思いを抱く。
主役・則武笙子を演じるのは、俳優座が生んだ三大新劇女優の1人・渡辺美佐子。子供向け特撮作品ではまず見れない大物女優…とにかく熟した色気がハンパなく、この作品全体の雰囲気作りに一役買っている絶妙のキャスティングだ。

ここで舞台は「春雨物語」の世界へ。
これらの場面は回想シーンのような申し訳程度の尺ではなく本編時間の半分をガッツリ占めていて、視聴者に混乱を与えかねない構成になっている。このあたりも清順ファン以外の評価がいまいち定まらない要因かもしれない。


とある村に住む正次(川津祐介)は、鐘の音が聞こえてくる土間の下から入定した僧のミイラを掘り出す。


やがて僧は息を吹き返し、信心深い正次は生き仏とこれを崇めるが、入定前の徳の高さは跡形もなく消え失せ、食欲と性欲の塊というべき浅ましき一介の俗物と化していた。
絶望した正次は自分の名前すら思い出せない彼に「入定の定助」と名付け、下男としてコキ使うも仕事そっちのけで老若を問わず女性を追いかけてばかり。やがて彼は「色気違いの定助」と疎まれ、ますます村に居場所を無くしていく。



だがある時、夫に先立たれ白痴となった寡婦(やもめ)と結ばれ、七日七晩もの間交わり続ける。それはまさに、入定前に抑え続けていた凄まじき性欲の発露以外の何物でもなかった。




かくして女は妊娠し子を産む。あの定助の子供が生まれたという村一番の特大ゴシップに目の色を変えて駆けつけた正次や村人が見たものは、黄金色に輝く無数の小さな菩薩たちだった。
「何のための甦りか?!女の体に纏わりついた、色気違いの菩薩たち!男女の交わりを果たしたくてこの世に生まれ変わったか?!こんなもの、何の功徳がある!」
怒り狂った正次は村人らと共に菩薩たちを打ち殺し、定助は逃げる途中に大八車から転落して死亡した。



定助騒動は落着したかに見えた。
だがその後、嫁を迎えた正次が初夜に臨む際、定助の鳴らす鐘の音を聞いて半狂乱となる。
その鐘の音は正次が女性の体に触れる時にだけ鳴るのだ。それから正次は、一生女性と交わることなく生涯を閉じるのだった…。


物語前半の「春雨物語」の場面はここまで。
この前半部分はセックスに狂い咲く定助やそれを珍奇な目で見ている村人たちの描写など、後半のサスペンス色の強い現代場面とは対照的なコミカルタッチで描いている。
しかしそれは到底明るく笑えるものではない。募るのは不安と胸騒ぎだけである。
清順監督はこうした演出によって、日本人にDNAレベルで刷り込まれた仏教への信仰心に揺さぶりをかけ、「仏とは何か?」というテーマをより明確化したのではないだろうか。
随所で流される、ファンの間では「お経ロック」と呼ばれるカテゴライズ不能の不気味なBGMもまた不安感に拍車をかけている。


ちなみに定助を演じたのは大和屋竺
映画ファンには「荒野のダッチワイフ」の監督として知られ、アニメファンには「ルパン三世」の脚本家として有名な、監督・脚本・俳優なんでもこなすマルチな映画マンであると共に、前述した「殺しの烙印」にも関わっている清順ファミリーの一員でもある。
今回本文のツカミ(?)に清順監督つながりでポワトリンネタを入れさせてもらったが、「美少女仮面ポワトリン」のメインライターである浦沢義雄の師匠にあたるのが何を隠そう大和屋竺。清順監督が本作に神様役で出演を果たしたのもそのラインなんだろうか?


木乃伊の恋」後半はまた次回!