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2012-04-27

my memory.私の大学生活。 (あと、文学フリマの告知)

| 23:49 | my memory.私の大学生活。 (あと、文学フリマの告知)を含むブックマーク my memory.私の大学生活。 (あと、文学フリマの告知)のブックマークコメント

大学まで徒歩十分。築四十年。家賃三万二千円。壁が薄くて音は筒抜け。入居者は全員学生。朝日が眩しい東向き。大学の周りが畑ばっかりなのにびっくりする。ハチミツとクローバーという人気少女漫画の冒頭に出てくる、主人公のアパートの紹介とほとんど同じ紹介であるこの文章だけれど、これは紛れもなく僕が今現在住んでいるアパートだ。

六年と少し前、このアニメはスタートした。当時高校三年生で、受験まっただ中だったはずのぼくは、けれどどこの大学に行くかも決めずにぼんやりと過ごしていた。ただ何か自分の存在が宙に浮いているような、そんな気だけが僕の心の中を占めていて、生きているのか死んでいるのか、自分でも曖昧模糊として判断が下せなかった。そんな中、何故か僕がいたく気に入って、毎晩放映時間、日付を一時間こえた二十五時からのこのアニメを観ることだけが、僕のほとんど唯一の楽しみだった。


気づくと、僕は大学生になっていた。何の因果か、僕が選んだアパートはこのアニメの登場人物たちが住むアパートとびっくりするほど同じで、違いといえば彼らのアパートが風呂無し木造だったのが、鉄骨風呂付きだったことくらいだ。これは、茨城という田舎の地価が安いことが幸いしたのだろう。

そんなアパートで送られる生活、というのもハチミツとクローバーで描かれた生活と似たようなものであった。誰かの部屋に集まり、毎晩食卓を囲む。風呂に入ったあと、午後九時を回ってから「テスト対策をするために勉強会を開こう」と集まったものの、ご飯を食べ喋っているうちに日付を跨ぎ、一時間ほど申し訳程度に勉強という名の教科書の写経を行って帰る生活。僕たちの生活は、今までの「大人」という存在が介入してきたそれとは全く違うものとなっていた。


「課題が多すぎる」

「それは講義中にやっておかないからだ」

「そんな余裕があるわけが無い、お前と違って授業中俺は忙しいんだ」

「小説を読むのに、か?」


僕たちは毎晩のように集まった。あるときは一升瓶を抱えて集まり、あるときはおかずを抱えてあつまり。気づくと宴会が始まっていた。


「明日テストじゃないの?」

「優秀な学生というものは普段から勉強をして、直前には勉強をしないものだ」

一杯、二杯とコップがあいてゆく。

「しかし、お前出席しているの?」

「別にあれ課題だせばいいんじゃないの?」

「出席確認あるじゃん、朝一番に」

「……えっ?」

一本、二本と瓶が転がって行く。朝日が昇る頃まで飲み続け、翌日一番の授業に出ながら酒臭い息を吐きながら水を飲む。そんな日常が繰り返し、繰り返し。毎日代わり映えのしない、けれどどこか満たされた生活は、永遠に続くように感じられた。


「最近飲み会開かないね」

気づいたのは、いつ頃だっただろうか。僕たちが四年にもなって研究活動に専念をし始めたからなのか、それとも代わり映えのしない生活に飽きたからだろうか。どこに原因があるかは分からないものの、僕たちの生活は徐々に、けれど確実に変化していた。気づくと、あの頃の毎日続くと思われた他愛の無い代わり映えのしない毎日から、遠く離れた日常を送っているように感じた。


人生における大学生活は、おおきなジャンクションに似ている。様々な環境に育った人達が、様々な地域からやってくる。四年という限られた期間だけ時間を重ね合って、その後はまた様々な地域、様々な環境に散って行く。正に人生の岐路だ。

研究に追われて、卒業をするための単位を集めるのに必死になって。気づくと僕たちは卒業を許されていた。許されてしまっていた。卒業祝いと称して、久々に瓶を抱え合って集まり、酒を酌み交わし合う。何年か前の酒に飲み慣れてない僕たちは、度々酒に飲まれてしまい潰れてしまっていたけれど、気づくと酒の量が加減できるようになっていた。成長してしまっていた。


大学に残った人。就職して出て行った人。僕たちは笑顔で「また会おう」と言葉を交わしあって別れる。またすぐいつでも会えると無根拠に信じ合う。僕たちの未来は希望に溢れているように感じて、だからこそ眩しくて未来が見えないのだと信じていた。一斉に入学した僕たちが、卒業する時期さえ不揃いで出て行くことの意味、そのことが示唆することを、考えないようにしていた。

気づくと僕たちの距離はあいてしまっていた。ほんの数分歩けば誰かの家に行けて、どこかで宴会をやっている。その稀少さに気づく頃には、その環境は失われてた。後悔は先に立たないものであると相場は決まっているけれど、余りにも残酷なように感じた。

大学に未だ残る人間達で集まると、終わりつつある就職活動、そして折り返し地点を過ぎた修士論文の話題ばかりが出る。そんな話題をするとき、僕たちの目は濁っていて、あの頃の何も関係無い飲み会のように気軽な集まりではなくなってしまっていた。ふ、と話題が途切れたとき、一人の友人が言った言葉が、僕は忘れられない。

「よく言うじゃん。『十年前に戻りたい、って言うなら、今十年前から戻ってきたところなんだ、って思って頑張れよ』って。けどさ。それじゃ意味ないんだよ。必要なのは、今、この時間というものが大切な物だっていうことを心の底から理解できることなんだよ。心がけじゃそのことを本当に理解することなんてのは、無理なんだ」

彼は、大学の修士棟を見上げて、言葉を継いだ。

「だから僕たちは常に時間を無駄にし続けるしかない。でもそれでいいんだ。僕たちが無駄だと思っていたあの時間だって、後から思えば大切な掛け替えのない時間だったんだ。だから、今からでもいい。残された一年間を一生懸命無駄に生きよう。好きなことを、片端からやっていこう」


僕は今、就職活動を終えて、何も知らない社会という荒れた海原へ放り出される。それに対する希望、なんてものは感じられず、僕の心は不安に満たされている。でも、多分それでいい。それで正しい。

高校時代、何も考えずに進んだ大学で何気なく送った生活は、満ち足りていた。褒められるような学生生活は送っていなかったけれど、あの頃の僕の生活は、確かに今考えると輝いていて、もう二度と手に入らない。だから、今僕は社会に対する不安に満ち満ちてていい。寂しくってもいい。多分、きっと、絶対。この思いを抱いていたこと自体を、良い思い出に変えてみせるから。だから今、めいっぱい色んな思いを抱いて心に詰め込んで、精一杯駆け抜ける事だけを考えていればいいんだ。


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時が過ぎて、何もかもが思い出になる日はきっとくる。

でも、僕がいて。君がいて。みんながいて。たった一つのものを探した、あの奇跡のような日々は、いつまでも甘い痛みとともに、胸の中の遠い場所でずっと。懐かしく回り続けるんだ。

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ーーアニメハチミツとクローバーII」最終話、ラストシーンより。

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るなすたるなすた 2012/04/28 10:02 「今、十年『後』から戻ってきた」じゃないと意味が通じないような。
あとうち昭和59年だから築28年だよ。

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