伽藍の堂

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『子どもの貧困 日本の不公平を考える』

子どもの貧困―日本の不公平を考える (岩波新書)

子どもの貧困―日本の不公平を考える (岩波新書)

【評価】 ★★★★★

仕事用

【紹介】

 本書は、日本の子どもが直面している貧困問題について論じられたものである。

 筆者は「貧困状態=許容すべきでない生活水準」であるとし、本書はその状態で生きる子どもたちの生活について記述したものである。それは健康、学力など人生のスタートラインからの「不利」であり、それは将来にわたって影響を及ぼす。

 そして、子どもの貧困状態の世代間連鎖を断ち切るには少子化対策ではなく「子ども対策」が必要であると筆者は主張する。

【感想】

 子どもの格差ではなく、貧困をテーマにしているところが本書のポイントである。格差論が流行であるが、大人を対象にしたものであると自己責任論が必ずつきまとう。

 しかし、本書は子どもを対象にした物なので、そうした批判の的にはなりにくい。子どもの貧困状態と言うのはスタートラインから「不利」なのだ。以上のことを国際比較などの豊富なデータを駆使して述べられている。
 
 また、シングルマザーへの対策の弱さは日本ではあまり指摘されないが、この対策の弱さを述べられているのも良い。しかも、ともすれば感情的、糾弾的になりがちなテーマを冷静に述べているところが良い。良書である。

 余談であるが、この著者はとても文章が上手い。余計な修辞や感情的な表現がなく、段落構成もしっかりとしている。つまり、文章が明快なのである。この点は見習いたいと強く思う。