去年の暮れの2010年に国立フィルム登録簿に「スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲」と共に登録入りを果たした誰も知らなかったショート映画。シカゴで活躍していた音楽家エド・ブランドが制作したジャズについての半ドラマ・半ドキュメンタリー作品。サン・ラーとオーケストラが参加。シカゴ時代のサン・ラーとオーケストラを動いている映像で見れる貴重な作品。どんな作品なんだろう?という興味を書き立てられ、思わず買ってしまいました。これが、1959年に作られたとは思えない位に前衛的な作品。1959年とは思えない程に戦闘的な台詞の数々で、エド・ブランドのジャズに対する熱い思いが伝わってきます。
最初のドラマの部分で、シカゴの一室でパーティをしている若者達。夜も深くなってきた所で、人々が次々と帰る中、残った若者達が会話。1人の白人の若い男がモテようと、白人の女の子に「ロックンロールは、ジャズだぜ!」と話すと、それを聞いていた黒人の若いジャズミュージシャンが「冗談じゃない!」と反論。それから若者達が議論を始める。また同じジャズミュージシャンが「黒人だけがジャズを作る事が出来るのさ!」と言い放つ。さっきロックはジャズだと言った男が「ジャズはアメリカじゃないか!」とか「白人もジャズに貢献している」と反論。そこで黒人ミュージシャンがジャズについて語り始めるのです。ジャズとは、黒人生活の表現方法であり、我々の独特で個性的な歩き方やジェスチャーが、スウィングになったんだ!と力説。そのナレーションの間に流れているのが、シカゴのゲトーの様子。当時のシカゴは本当にびっくりする位スラム化している。キング牧師も公民権運動を始め、モントゴメリーのバスボイコットを成功させ、ワシントン大行進を成功させた後に着手したのが、シカゴのゲトー改革。自らシカゴのゲトーにアパートを借りて改善していこうとする位の意気込みだった。でもキング牧師がシカゴに到着したのは、1966年。この映画の7年後。この映像が本当に世界一と名乗るアメリカなのか?と疑いたくなる位酷い。話を聞いても尚、先ほどの「ロックはジャズだ」と言っていた白人の青年は「白人にだってソウルはある!」と反論。そこで黒人ミュージシャンが今度はジャズの歴史を語り始めるのです。
そして黒人ミュージシャンは絶望的に「ジャズは死んだのさ」と男に返す。話をずっと否定的に聞いていた白人女性が「ジャズが黒人の生活そのものだと言っていたので、ジャズが死んだなら、黒人も死んだって事?」と問いただす。黒人ミュージシャンは「ジャズの形は死んだが、ジャズの精神は生きている。黒人も同じさ」と返す。これって、どこかで聞いたなーと思い出す。そうだ、最近のヒップホップだ!最近は「ヒップホップは死んだ」と言われる。
こういうやり取りを、すでに1959年にしていたというのが凄い。「Sweet Sweetback's Baadasssss Song / スウィート・スウィートバック (1971)」よりも早く... 1959年はまだ「Imitation of Life / 悲しみは空の彼方に (1959)」や「Porgy and Bess / ポギーとベス (1959)」が作られていた頃。でもニューヨークでは「Shadows / アメリカの影 (1959)」が作られ、ブラジルでは「Black Orpheus / 黒いオルフェ (1959)」が作られていた頃。芸術的な点から言えば、1959年は面白い年。このエド・ブランドもお金が無いなりに上手く作っている。第4の壁を使って、観客に訴えかけるなんて事をすでにやっていたり、クレジットも全部小文字。
所で、私がこの映画で一つだけ気になったのが、黒人女性の存在が皆無だという事。なぜそんな事になったんだろう?と思ったら、監督のエド・ブランドが後でインタビューに答えていた。この映画では俳優達にはノーギャラで出演してもらったそうで、ノーギャラで出演してくれた役者達の中に黒人女性が居なかったとの事。わざとじゃないらしい。
刺激されるわ...
(5点満点;DVDにて鑑賞)