池宮中夫 Wüstー我々の巨大な僻地の感想(やまひこ7・2・7(仮)より)

岡田貞子


握手をした右手に何かを掴まされた。
「何を掴まされてしまったのだろう?」
今だに、右手に残っていることを、確かに確認出来てしまう冷めない熱の固まり。
いや、でも分かっている。
これが何なのかということは。



 2010年7月31日 池宮中夫 Wüstー我々の巨大な僻地  (blanClass+night)

黒いビニール質の膜を全身に張った手足の長い大きな生き物が、夜の中で動く。
それは火を孕んだ炭のような獣が、辺りを焼いてしまわないように気をつけながら、我々を引き連れ導こうとしているから。
「右も左も闇だから、気をつけて付いておいで。」
とその獣は振り返らずに言う。
でも、夢かうつつか分からぬままに、獣の姿を必死で追う我々の足取りが覚束ない。
チリン、チリン
我々が本当に眠ってしまわないように、獣は糸を切って鈴を鳴らし、注意を促す。
獣は、身を低くし、身を捩らせ、枠によじ登り、ドッドッと進んで行く。
獣が、何かと色々と約束を交わす度に、赤や青や黄色のランプが点り、闇の中にある景色が浮かぶ。
そこは、窓枠や白い壁、木や花。記憶のある場所。
そして、いつしか、我々は湿度の高い闇のそと縁(べり)に立ち、雨に打たれ、溺れそうになっていた。
ふと、獣がこちらを振り返って言う。
「1人、5個までです。」
我々が手に入れたのは、5個の殻付きピーナッツ。
その殻をパリパリと砕き、中から取り出した豆をカリカリと噛み砕く。
とたん、我々は息が楽になるのを感じる。
と同時に、その音によって、解き放たれた獣が白い光の中で舞っている姿を見た。

http://blanclass.com/_night/archives/1869


おかだていこ(アーティスト)